【柯 輶】習近平の2025年は「悪夢の1年」になる…!中国は「格差拡大への不満」で凶悪犯罪大爆発、トランプ「追加制裁関税」が致命傷になる可能性
中国社会に充満している不満と鬱憤の源泉
中国で凶悪犯罪が多発している。中国外交部報道官は、「中国は世界でもっとも安全な国の一つ」と主張するが、このままいくと、凶悪犯罪が点から線になり、さらに面になる可能性がある。そうなれば、中国社会は大混乱に陥ることになる。実は、凶悪犯罪は今、多発したわけではなくて、その前から前兆がすでにあった。それはコロナ禍以降、自殺者が急増したことである。
仮に外交部報道官の主張する通りであれば、凶悪犯罪がここまで多発しないはずである。2024年に入って、中国国内のSNSやXなど海外のSNSに投稿されている凶悪犯罪の動画はすでに200回に迫る数になっている。しかも、一回の犯罪による犠牲者人数は増加傾向にある。その最たる例は広東省珠海市で起きた車に乗って35人をはねて殺害し、四十数人を怪我させた事件だった。もう一つの凄惨な事件は、江蘇省無錫市の職業学校の卒業者によってナイフで8人が殺された。一人の人間がナイフで8人を殺すのはテロ並みの行為といえる。
このような無差別の凶悪犯罪は中国社会に充満している不満と鬱憤に火がついて爆発したもので、しかも、その規模がさらに拡大する可能性がある。なぜならば、中国政府は有効な対策を講じていないからである。では、人々は何に不満を持っているのだろうか。中国の古典にある言葉だが、人々は「貧しきを患えず、等しからずを憂う」とある。今の中国社会は極端に不公平な社会になっているということである。
中国の一人当たりGDPはすでに13000ドルを超えており、歴然とした中所得国である。多くの人はマイホームに住み、自家用車に乗っている。改革・開放前、都市部住民の一人当たりの居住面積は3平方メートル程度しかなかった。今は36平方メートルと日本とほぼ同じぐらいである。問題は、改革・開放初期に比べ、今の中国は想像以上に格差が拡大していることだ。
経済学では、所得格差を図る指標としてジニ係数があるが、ジニ係数は0から1の間の値を取り、0に近いほど、格差が小さいことを意味する。逆に1に近いほど格差が大きい。経験則によれば、0.4を超えると、社会が不安定化するといわれている。日本のジニ係数は0.32といわれているのに対して、中国国家統計局が発表しているジニ係数はすでに0.475に達している。中国国内の経済学者が独自で行った推計によると、実際のジニ係数はすでに0.6に達しているといわれている。中国の社会不安が理論的に証明されている。
社会主義中国でなぜ格差が拡大しているのか
答えは「中国はもはや社会主義ではなくなった」。マルクスが提唱した共産主義のユートピアは、富をそれぞれの需要に応じて平等に分配されるもので、不平等にならないといわれている。毛沢東時代の中国は計画経済だったため、食料品と日用品のほとんどは配給制だった。当時、共産党高級幹部は特権こそあったが、人数は多くない。社会全般の所得格差がそれほど大きくなかった。毛沢東時代は大半の人が貧しくてまさに「貧しきを患えず」の時代だった。毛沢東のすごいところは、全中国人民に貧しさに耐えるように禁欲を求めてそれに成功したことだった。
改革・開放以降、経済の自由化とともに、経済が発展した。経済発展とはパイが大きくなることであるが、政府・共産党がそのパイを公平に切り分ける分配制度を整備していないのが問題である。中国では、富の分配は権力の中心との距離によって決まるものになっている。権力の中心に近い共産党幹部はより多くの富を獲得するのに対して、権力と無縁の農民や労働者は不利の立場に立っている。習近平政権は共同富裕の夢を提唱しているが、このままでは、それは実現できない。
共産党幹部の正規の可処分所得、すなわち、給料や手当はべらぼうに高いわけではなく、農民や労働者より多いが、ジニ係数を0.475になるまで押し上げるほどではない。問題は彼らに付与されている社会保障が等級の高い幹部ほど自己負担率が低く、最高位の幹部の場合、自己負担率はゼロになる。家も車も無償で提供されるだけでなく、家族が食べる食材も特別供給されるオーガニックのものである。そのうえ、共産党幹部の腐敗が横行しており、収賄の金額は年々増加して、近年、天文学的数字になっている。
凶悪犯罪が多発する直接のきっかけはコロナ禍
60代以上の中国人に、いつごろの生活はよかったかと聞くと、多くの人は1980年代は希望があってよかったと答える。逆に、今の生活について聞くと、希望が持てなくなって先が見通せなくなったと多くの人は感じている。一般的に貧しい生活から豊かな生活へ上り坂を辿る過程は人々が希望を持てる。逆に、豊かな生活から貧しい生活へ下り坂を辿る過程では、人々は悲観的になりがちになる。
中国経済が成長していた時代も不平等の問題があったが、経済成長によってそれが浮上しにくい。経済成長が落ち込んで不平等の問題が一気に浮上してきた。しかも同じ境遇にいる人は互いに影響しあって、凶悪犯罪が多発しやすくなる。
中国で凶悪犯罪が多発する直接なきっかけはコロナ禍である。コロナ禍前は、中国人はある程度希望を持てた。当時、インバウンドの中国人観光客は大挙して日本で爆買いしていた。東京や大阪の繫華街で中国人観光客を乗せた大型観光バスはずらりと並んでいたのは記憶に新しい。しかし、コロナ禍が収束したあと、日本に旅行に来る中国人と出くわすことがあるが、中国人観光客を乗せた大型観光バスをほとんど見かけないうえ、爆買いの中国人はほとんどいない。原因は中国経済が回復していないことにある。
コロナ禍が中国社会に残した傷跡は予想以上に深い。中国国内のSNS上の情報によると、3年間のコロナ禍、約400万社の中小零細企業がつぶれた。その結果、若年層の失業率が急上昇している。今や中国経済の繁栄は国家統計局の統計でしか確認できない。実は、若年層失業率の上昇によって現役の会社員の給料を大きく押し下げている。なぜならば、企業の業績が悪化しているからである。
こうしたなかで、不動産バブルが崩壊してしまった。中国に不動産価格が絶対に下落しないという神話があった。しかし、世の中に崩壊しないバブルは存在しない。バブルが崩壊し、大手不動産デベロッパーは相次いで債務超過に陥った。今、住宅ローンの返済を滞る家庭は増えている。裁判者が差し押さえしたマンションなどの物件をネット上に競売に出している。競売価格は裁判所の査定価格より軒並み4割前後低くなっているが、成立しない物件が多い。要するに、家庭のバランスシートが壊れたのである。
習近平政権の2025年問題
中国経済をけん引してきた消費と投資のいずれも弱くなっている。習近平政権は財政出動と金融緩和政策を発表しているが、景気を浮揚させることができていない。残りのエンジンは輸出だが、それもトランプ政権2.0に阻まれる可能性が高い。トランプ政権2.0が2025年1月に発足されるが、トランプ氏はすでに中国に対して追加制裁関税を課すことを表明している。これは習近平政権にとって致命傷になる可能性がある。
中国は大きな国で人口も多い。総崩れする可能性が低い。しかし、所得格差が大きいため、低所得層の生活はさらに困窮する心配があって、そうなった場合、凶悪犯罪がさらに横行する恐れがある。
習近平政権にとって2025年の中国経済は、トランプ政権2.0との関係によって大きく左右される。トランプ政権が中国に対して高い制裁関税を課した場合、中国に進出している外国企業は中国にあるサプライチェーンをさらに中国以外の国へ分散する可能性が高い。すでに日本企業の一部はトランプ政権2.0のリスクに備え、中国にあるサプライチェーンをベトナムやタイへ分散する動きが出ている。
中国が依然巨大な市場であることは間違いなく、外国企業は中国国内で販売する製品と商品を引き続き中国で生産するはずである。しかし、中国にとって経済を成長させるために、外国による新規投資を誘致する必要がある。現状では、中国を離れる企業が多く、中国に新規参入する企業が少ない。しかも、外国企業だけでなく、地場の中国企業も海外へ移転しはじめている。
このままでは、2025年の中国経済はさらに落ち込む可能性が高い。3月に開かれる全人代で習近平政権はこれまでの経済統制を緩め、経済自由化のほうへ方針転換する可能性はゼロではない。そうなれば、中国経済は少し安定するようになる。逆に大きく方針転換がなければ、習近平政権にとって2025年は悪夢の1年になる可能性が高い。