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どのようにして「Puerto Rico 1897」が生まれたか、Jason Perezとのインタビュー(How Puerto Rico 1897 Came to Be: An Interview with Jason Perez)

本記事は、2022年7月11日、BoardGameGeek Newsに掲載された「How Puerto Rico 1897 Came to Be: An Interview with Jason Perez」の翻訳である。

Puerto Rico」の新版として「Puerto Rico 1897」が発売されるが、大幅なテーマ等の変更がされることになった。この記事は、新版のテーマ変更等に携わったJason Perez等のインタビューを中心に、その経緯について紹介したものである。

誰も翻訳しないのだろうと思ったところである。このような記事を翻訳しても得しないから当然だろうか。ただ、この記事を残すことには意義があるように思われるため、翻訳して残すこととした。本来ならば、こういったテーマに強い関心を持つ人やこのゲームを取り扱う人が翻訳すべきであろう。そのほうが色々な意味で望ましいと個人的には思っている。

なお、歴史に関する話が出てくる。私はあまり歴史学には明るくはないが、このような歴史の見方は、アナール学派(L'école des Annales)に通ずるものがあると感じたところではある。

本記事は、後から削除する可能性がある。元記事は以下のリンクを参照されたい。また、ヘッダー画像はみんなのフォトギャラリー機能を利用させていただいた。

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クレジット: Werner Bär

デザイナーのAndreas SeyfarthRavensburger内のブランドである出版社のaleaから販売されたストラテジーゲームである「Puerto Rico」は、2002年に最初に発売され、2003年のある時期から「アグリコラ」にその地位を奪われた2008年8月までの間、BGGランキングの1位の座に上りつめていた。「Puerto Rico」は、2010年に1位に返り咲いたが、今度は「トワイライト・ストラグル」によりその座を陥落させられた。しかし、最初に発売されてから20年が経過した2022年においても、このゲームはいまだにランキング上位に位置している。

しかし、そうであっても、このゲームが完璧であるということにはならない。

長年にわたって多くの人たちを悩ませてきた問題は、BGG上の「Puerto Rico」のゲームの説明を引用すれば、"プレイヤーは、プエルトリコ島の植民地の総督(colonial governors)の役割となり"、そして、"建物とプランテーションに入植者を配置しない限り、それらの効果が発動しない"ということだった。ここにいう"入植者"とは、船でプエルトリコに連れて来られて、プレイヤーの演じる総督が、自分たちの所有地で働かせるために雇う(drafted)人々を意味する言葉として用いられている。

とあるBGGユーザが2006年に書き残しているように、「プエルトリコ系の友人とこのゲームを遊んだら、彼らが最初にコメントしたのは、'あぁ、小さい黒い肌の奴隷だ'というものだった。奴隷を働かせたり、交易したりすることは、間違いなくこのゲームの目立つ(prominent)部分であり、それを'中心的に扱っているか(about)'どうかにかかわらず、否定することはできない。それは歴史上のものかもしれない。しかし、誰もがその歴史の一部を再現したいとは思ってない。」

Shelf StoriesというYouTubeチャンネルのホストであるJason Perezは、偶然にもプエルトリコ系であり、2005年に「Puerto Rico」を見つけた後は同じ気持ちに陥っていた。しかし、彼は、奴隷問題が持ち出される時はいつも、(※その話題に)反発して、「ただのゲームじゃないか。ゲーム自体は素晴らしい。俺らは新世界にいるんだ。さぁ、ゲームで遊ぼう。」と言ってくる陣営に、その話題が封殺されることに気付いていた。

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クレジット: 左からW. Eric MartinW. Eric Martin

Ravensburgerは、世界中の出版社に「Puerto Rico」のデザインに係るライセンスを与え、このゲームだけで、2011年の記念版2013年の第二版といった複数のバージョンを発売した。元々のゲームと比較して、こういった(※新しい)バージョンに伴う変更点は、アートワーク、内容物、これまで別々に発売されていた拡張の封入に過ぎなかった。

プランテーションのオーナーというゲームの設定やプレイヤーの役割に変更はなかった。それに、この2014年のレビューにあるような、「褐色の入植者や奴隷の問題に苛立つプレイヤーがいるなら、持ち出すべきではない。ただのゲームだが、グループの中の誰かが社会政治的な議論を持ち出す可能性があるのならば、無難なゲームだったり、ウォーゲームのような政治的に正しいゲームだったり、場を和やかにするために「Cards Against Humanity」(※人権侵害カードゲーム)だったりをプレイしたほうが良い状況になる」というような大した問題ではないと述べる人からのコメントもなかった。

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クレジット: W. Eric Martin

2020年までに、Ravensburgerは、Rio Grande Gamesがこれまで持っていた、このゲームの英語版の権利を買い戻した。そして、2019年の「Las Vegas Royale」を皮切りに始まったaleaシリーズ(line)の再開に見た目を合わせた、さらにもう1つのバージョンを出版した。

この版では、設定のいくつかの要素が変更された。"入植者"は、もはや船からゲームに登場しなくなった。しかし、その代わり、宿屋(tavern)から雇用されるようになった。また、これらのトークンの色が茶色の代わりに紫色となった。しかし、そのほかのゲームの設定や印象は同じであった。Jason Perezは、以下の2021年1月のYouTubeビデオにおいて、今まで存在したこともない歴史に基づいたテーマであることに異を唱えていた(「Puerto Rico」に固有の要素は7:40から始まる。)。

Perezは、映像の中で20211月のBGGのスレッドである"The changes to address slavery and colonialism in this edition do not go far enough(※この版での奴隷制と植民地主義に対処するための変更は十分とはいえない)"を紹介していた。私とのインタビューにおいて、Perezは、「aleaのAndré Maackがこの動画から連絡を取ってきてくれて、'話をしよう'と言ってきてくれた。彼は、私の動画の良さをわかってくれたんだ。私は、ただ話すだけじゃなくて変化をもたらしたいんだと言った。それが私が関わることになったきっかけなんだ。」と述べている。

Maackが接触してきたことに応える形で、Perezは、2021年3月、"Puerto Rico 1897: A New Vision for the Board Game(※ Puerto Rico 1897:このボードゲームの新しい視点)"とのタイトルが付けられた新しいビデオを作成し、彼がこのゲームに関して変更したいことの詳細を説明している。Perezは、「私は仕事の面接のふりをしたんだ。」と述べる。そしたら、「(Maackは)そうすることを望んでいるとは言っていなかったが、まさにそのようなことが必要だったんだ……。人生で重要なことは、過剰な準備をすることのようだ。」

「私が「Puerto Rico」でしたかったことは、新しいゲームにすることではなかった。しかし、新しいテーマといった、反発する人たちにも喜んでもらえるようなことをすることだった。」と、Perezは語る。「みんな熱帯の島やそこの歴史を望んでいる。私は、みんなが望むものを与えたかったんだ。みんなが本当に植民地主義を望んでいるのだろうか。良いものは残し、悪いものは捨て去ってもいいのだろうか。悪いものは、その時代から生じたものだ。それでいいじゃないか。元々のゲームは新世界を念頭においてデザインされたものだ。そして、どれほどドイツ人が新世界を望むのかもわかる。このゲームは、他の部分では全て良いことを成し遂げてるわけだから、どうやったら歴史や熱帯という観点を引き出すことができるかという話になる。ゲーマーは、ローマやプエルトリコのような場所を旅行するといった歴史的な観光にわくわくするものだが、私はそれが可能な時代を見つけなければならなかった。」

最終的に、「Puerto Rico」の設定については、主に2つの点が変更された。この変更点は、このゲームの別の側面にも持ち込まれることになったが、ゲームメカニズム自体にいかなる変更も加えられてない。Perezは、「時代は、1500年代の新世界から1897年に移された。その理由として、プレイヤーは自立した物語(independence stories)を紡ぐことができるようになってほしいと思うからだ。」と述べる。つまり、プレイヤーは、行われるアクションに責任を持つ人々の役割を通じて、その人たちを代表したい(represent)と思うからということだ。

しかし、問題として、Perezは、「プエルトリコにはそれがなかった。プエルトリコはスペインからアメリカに(※支配が)移行した。1897年は政治的な自治権を得た年だが、1898年にアメリカ人がやってきた。1897年というこの年は、奴隷制の後ではあるが、アメリカの植民地支配の期間でもない。まさに、その間隙を狙おう(hit that bullseye)としたんだよ。」と述べる。

時代を移したことに加えて、ゲームの中のプレイヤーの役割に関する見方も変わってくる。「プレイヤーは資本家でも商人でもなく、むしろ独立したプエルトリコの農家となるんだ。」とPerezは語る。一般的にいうと、歴史は大統領、指導者、探検家の視点から語られるものだ。その結果、そういった視点からは、その時代を生きたほとんどの人たちのことを見過ごすことになる。「この新しい「Puerto Rico」は、人々の歴史であり、自分たちで稼ぎ、自立し、誰もがすることを(※同じように)する人々である。誰もが経済活動に参加している。プエルトリコには自立したたばこ農家という連綿とした伝統がある。たばこは貧しい者の作物であったが、それを栽培することで生きることができ、産業の一翼を担うことになったのだ。」 このゲームの新版のタイトルになる予定の「Puerto Rico 1897」では、たばこが最も価値の高い作物となり、その当時の経済における役割を表している。

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クレジット: W. Eric Martin

Perez自身が歴史マニアであることとは別として、彼は、「Puerto Rico 1897」の細部に関して、2014年に出版された、プエルトリコの1898年から1950年を取り上げた「Puerto Ricans in the Empire: Tobacco Growers and U.S. Colonialism」という書籍の著者であるTeresita Levy博士を大きく信用している。Levy博士は、Perezが住むニューヨーク市にあるリーマン大学で教えている。そこで、Perezは、Levy博士が一度も遊んだことのない「Puerto Rico」に関して彼女と話すために会いに行った。「私がこのゲームを彼女に見せると、彼女は船と入植者トークンを見たんだ。私は恥ずかしい思いをしたんだ。」と、Perezは言う。「みんな、俺が簡単に気分を害するって言うんだ。実際、プエルトリコ人にこのゲームを見せることは恥ずかしいことなんだ。」 特に、その島の歴史を知っている研究者に対して見せる時はね。

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「Puerto Rico 1897」における建物タイルのサンプル
クレジット: W. Eric Martin

PerezとLevy博士は、個々の版に存在する、すべての作物、すべての建物、ありとあらゆる点を検討していった。「時として、テーマは全てをダメにする(gets slapped on)ので、私はこのプロジェクトの細部に至るまで正しいものにしたかった。ゲームデザイナーは、ゲームメカニズムの細部まで気を配って、それらが正しいものであることを確実にしている。」と、Perezは語る。だから、設定の細部についても同じ配慮をしてもいいじゃないか。例えば、プエルトリコには、送水路(aqueducts)がないし、宝石もない。したがって、宝石商もいない。では、なぜ、そういった建物タイルがゲームの中にあるのだろうか。Perezが言うには、そういったタイルは、今では地域的なフレーバーを備えた(local flavored)建物を基にしており、10点の建物はプエルトリコの歴史的建造物を示すようになったそうだ。「それらはイースターエッグなんだ。わかる人にはわかるようになっているのさ。」

Perezが述べるには、Levy博士のほかに、「Puerto Rico 1897」の重要な人物として、プエルトリコ人でもあるアーティストのGabriel Ramosがいるということだ。Perezは、「プエルトリコのことになると、私たちには私たちの物語がある。私たちは、ヨーロッパ系、アフリカ系、インド系が混ざり合っているんだ。私はそのことを箱絵に示したかった。このことを地元の物語としたかったし、(Ramosが作成した)箱絵が、他の何よりもプエルトリコの多文化的な物語を伝えてくれているんだ。」

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「Puerto Rico 1897」の箱絵の前面
クレジット: W. Eric Martin

Ramosは、他のゲームの内容物にもフレーバーを加えた。「「Puerto Rico」のプレイヤーボードは味気がない。ただ、そこにあるだけだ。」と、Perezは指摘する。Perezは、Ramosに、両面プレイヤーボードに登場する10人のキャラクターで、その島(※プエルトリコ)に居住する人たちをより的確に表現するために、異なる年齢、異なる肌の色合いの人たちを製作してくれないか依頼した。「私たちはRamosに電話したんだ、そしたら彼は、'俺の家族を描いてほしいってことなのか。'と尋ねてきた。もちろん! 私はこのゲームに多様性をもたらしたかった。さまざまな農家の人を出したかった。入植者や商人ではないが、地場の仕事をしている地元の人たちを取り入れたかった。大半の人たちは、'何でもいいんじゃない'みたいな反応になるけど、気にする人たちのために取り入れたんだよ。」

Perezが望んでいたが叶わなかった変更点の1つは、ゲームメカニズムに関係しているものだった。ゲームの経済やゲームの本質を変更してしまうものだったようだ。「私は、労働者に給与を支払いたかった。」とPerezは述べる。「このことは、このゲームが奴隷制のゲームではないことを示すために何よりも重要だっただろう。今のままでは、労働者たちは疲れを知らないわけだ。昔のゲームは権力者の妄想(boss fantasy)だったが、そうであっても奴隷には金がかかるんだ。」

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「Puerto Rico 1897」におけるプレイヤーボードのサンプル
クレジット: W. Eric Martin

Ravensburger の北米の国際マーケティングマネージャーであるCassidy Wernerは、「「Puerto Rico」に関する話し合いは、私とグローバルチームからマネジメントチームに至る数人との間で2019年に始まった。そして、彼らは、これが正しいと考えてはいないと言っていた。」と述べる。「彼らは(※デザイナー等のことか?)耳を傾けて、人々を招き入れることを許可してくれた。」 しかし、最終的に、2020年版の「Puerto Rico」における変更は十分なものではなかった。「プレイヤーが快適に感じられるようにしたかったが、適切な人たちが快適に感じるようなものにはならなかった。ゲームによって、疎外される必要のない人たちが疎外されてしまった。」

「こういったプロセス全体については、一企業として学びがあった。」と、Wernerは語る。「それに、私たちは、デベロップのプロセスを変更して、多様性と包括性(diversity and inclusivity)に関する委員会を設けることになった。今では、全てのゲームに関して一連の質問をすることで、あらゆる観点を考慮することとなった。このプロジェクトに文化的コンサルタントをが必要だろうか。(※文化的に)代表するような(representative)アーティストを見つける必要があるだろうか。ステレオタイプに関して陥りそうな落とし穴はどんなものがあるか。デベロップのプロセスで声を上げることができない人の声を反映できているか。」

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「Puerto Rico 1897」における役割カードのサンプル
クレジット: W. Eric Martin

Wernerは続けてこう述べる。「ここに至るまでにプレイヤーに疎外感を生じさせてしまったことには喜ぶことはできない。JasonやGabrielのような人たちが、ゲームのデベロップに関わるべきだし、文化的コンサルタントにはお金を払う必要がある。こういったことは、プレイヤーに配慮してみんなが歓迎されているように感じてもらえるようになるということだ。」

理想的にいうと、こういった時代や視点を変えることは、Perezがいうように、"良いものを残す"ということであるとともに、過去にこのゲームを避けていた人たちを卓上に呼び戻すことにつながる。「ゲーマーは、壮大な歴史物を愛している」と、彼は述べる。「しかし、全ての歴史が悪いものだという呪縛を解くためには、おそらく、視点を変えたり、カメラのアングルを変えて極めてローカルな視点(go hyperlocal)にした上で、人々にカメラを向けたりすることができる。(※ローカルの)人々をかっこよく映すんだ。」

そして、それを正しく行うには、そのゲームの時代や設定について分かっている人たちを製作チームに迎え入れることだ。Perezは、「ルールブックのレビューのような表面的なレベルで彼らを使おうが、デベロップサイクルの早い段階でコンサルタントに関与してもらおうが、良いコンサルタントに使ったお金は、悪い評判が出回ったり、立場の撤回を迫られたりした時の対応にかかるお金を節約することになる。」と述べる。

「Puerto Rico 1897」は、現在、2022年10月に販売予定となっている。

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別のプレイヤーボード。Perezは、「もし、祖母(abuela)がいないのであれば、これはプエルトリコ(※二重の意味がある。)といえるのか。」と述べる。
クレジット: W. Eric Martin

以上

本記事に関連する記事として、以下のものがある。

※上記記事の中には、Perezの取組みが紹介されていた。

※上記記事には、「ゲームに害はないか」に関する訳者あとがき的な記載がある。やや訳者の個人的なスタンスを記載している。

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コメント

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ボードゲームにまつわるニッチな話の翻訳とか。
どのようにして「Puerto Rico 1897」が生まれたか、Jason Perezとのインタビュー(How Puerto Rico 1897 Came to Be: An Interview wit|べよ
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