ハリケーン「カトリーナ」によって多くの家々が浸水の被害に遭った Photo: Jerry Grayson / Helifilms Australia / Getty Images
Text by Tim Harford
それなのに、なぜ真剣に備えることができなかったのか。危機を経験しているいまだからこそ知っておくべき“人間の弱さ”を、心理学的見地から読み解く。
「度重なる警告」も届かなかった
誰も「予想していなかった」とは言えないだろう。
何年もの間、ニューオーリンズは脆弱だと警告され続けてきた。米紙「ヒューストン・クロニクル」は、大規模なハリケーンが襲来した場合、低地の街は6mの高さまで水没し、25万人が孤立するだろうと報じた。
ニューオーリンズの地元紙「タイムズ・ピカユーン」は、堤防の不備を指摘した。また、2004年には「ナショナルジオグラフィック」誌が、5万人が溺死するというシナリオを掲載した。赤十字も同様の死者数が出ることを懸念していた。
そして、その災害のシナリオが現実のものとなりつつあった。風速約60m/sのハリケーンがニューオーリンズに直撃しようとしていたのだ。
100万人以上の住人に避難勧告が出された。「USAトゥデイ」紙は「現代のアトランティス」だと警告し、ハリケーンによって「ニューオーリンズの街は化学汚染された汚水に、約6mの水位まで沈む可能性がある」と報じた。
市長のレイ・ナギンは、市民に避難するように要請した。10万人以上の人々が車を持たず、逃げる手段もないため、彼は避難を強制することには消極的だった。道路は渋滞し、何千人もの会議参加者が足止めされ、空港も閉鎖されていた。
緊急避難所はなく、ナギン市長は地元のスタジアム「ルイジアナ・スーパードーム」を一時的な避難場所として使うことを考えたが、ハリケーンに耐えられる確実な強度があるとは言えず、避難設備が整っていないことを非難された。
それでもニューオーリンズは変わらなかった
このハリケーン「イワン」は街に、そして国に明確な警告を発した。次のハリケーンに備え、緊急に、そしてあらゆる面で準備する必要があることを示したのだ。
「2005年の初め、緊急事態の当局はニューオーリンズが直面しているリスクを認識していました」と、『ダチョウのパラドックス 災害リスクの心理学』の共著者であるハワード・クンルーザーとロバート・マイヤーは書籍のなかで説明している。しかし、当局が迅速に決断し、行動を起こすことはなかった。
そして11ヵ月後、ハリケーン「カトリーナ」によって街は水没した。予測されていたように、市民のなかには身動きが取れない者もいた。堤防は50ヵ所以上で崩壊し、スーパードームはやはり避難所としては不充分だった。
スーパードームへ避難した人も、さらに安全な場所へ避難することを余儀なくされた Photo: Mario Tama / Getty Images
なぜニューオーリンズは事前に問題を認識していながら、カトリーナに耐えられるような対策をとっていなかったのか。そう問いただすのは簡単だ。
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