良い関係性が、良いパフォーマンスをつくる。その背後にあるシャチと人の絆

article image 1

五十嵐が籍を置くのは、「鴨川シーワールド」の飼育部門 海獣展示一課。トレーナーとして、シャチの飼育および展示業務にあたっています。

「鴨川シーワールドは、1970年に開業した歴史ある水族館です。シャチをはじめ、イルカやアシカ、ベルーガ(シロイルカ)などによるパフォーマンスが充実しており、それぞれ個別のシアターやスタジアムで実施しています。

また、房総半島周辺に生息する魚類なども多く飼育しており、千葉の自然環境についてわかりやすく学べる展示を行なっているのも特徴です。

日本でシャチを飼育している水族館は3カ所だけで、そのうちパフォーマンスを実施しているのは鴨川シーワールドと神戸須磨シーワールドだけです。1頭のシャチを複数の飼育員が担当しています」

現在、シャチを担当する係員は9名。それぞれがトレーニングやパフォーマンスだけでなく、日常の飼育業務を通して動物との関係構築に努めています。

「人間と同じように、シャチにも日によって意欲に差があります。また、シャチは社会性が強い生きものです。仲間同士の関係性がパフォーマンスに影響することも少なくありません。そうした精神的な変化にも注意し、シャチたちが不安や不満を感じることがないように寄り添うことを心がけてきました。

シャチとの信頼関係が欠かせません。そのためには、普段からシャチと前向きで楽しい時間を共有することが何より重要だと考えています」

トレーナーとして五十嵐がめざすのは、シャチとの友達のような関係性。息の合ったパフォーマンスを披露するために、大切にしていることがあります。

「人間がシャチに対して一方的に指示していると思われがちですが、実際のところ、シャチと人間は対等な立場。互いに協力し合えなければ、良いパフォーマンスになりません。

シャチの様子をうかがい、『今日は何ができる?』『今日は何がしたい?』と声をかけながら、一緒に遊ぶ延長線上で良いパフォーマンスができればと考えています」

接客担当、魚類飼育を経て、シャチトレーナーに。夢を追った挑戦と成長の道のり

article image 2

シャチトレーナーになることが幼い頃からの夢だったと話す五十嵐。鴨川シーワールドは憧れの場所でした。

「水生生物が好きな両親に連れられてさまざまな水族館を訪れ、物心がつく頃にはイルカのトレーナーになりたいと思っていました。初めてシャチに会ったのは、私が小学校4年生のときのこと。

ちょうどシャチの赤ちゃんが生まれた年に鴨川シーワールドのイベントに参加し、トレーナーの方からいろいろ教えてもらううちに、シャチに夢中になっていきました。高校に進学する頃には、鴨川シーワールドで働きたいと思うようになり、周囲にもそう伝えていた記憶があります」

その後、鴨川シーワールドの飼育担当の試験に挑んだ五十嵐でしたが、結果は不合格。接客担当として入社する道を選びます。夢破れ、失意に暮れる彼女を迎えたのは、シャチによる祝福でした。

「鴨川シーワールドでは、社会の荒波に負けず強くたくましく成長してほしいという願いと、パフォーマンス中に水しぶきを浴びるお客様の楽しい気持ちを体験してもらいたいという想いを込め、新入社員に対してシャチによる水かけを体験してもらうのが恒例行事となっています。

鴨川シーワールドならではの盛大な歓迎を受け、いつの日かきっとシャチトレーナーになるという決意を新たにした瞬間でした」

入社後、チケット販売や電話対応、館内でのお客様サポートなど、任された業務に懸命に取り組んだ五十嵐。転機が訪れたのは、その2年半後のことでした。

「当社には年に1度、意向調査の機会が設けられています。1年目から飼育担当を希望し続け、3年目にそれが受け入れられました。

配属されたのは、魚類の飼育と展示を手がける部署。川の源流から海に至るさまざまな環境を自然のまま再現した施設『エコアクアローム』を担当しました。魚類はとても繊細で、小さな傷が原因で病気になってしまうこともあります。日々、細かな観察を行うこと、飼育環境を丁寧に整えてあげることの大切さを学びました。

魚たちにも生活リズムがあるなど、私たちと同じ生きものだと改めて深く理解できるようになったことは、とても有意義だったと思っています」

その後もトレーナーへの意欲を伝え続けた五十嵐は、8カ月後にイルカを担当する海獣展示二課へ。そしてそのわずか3カ月後、念願だったシャチを担当する海獣展示一課への異動が決まりました。

「幸運なことに、私の希望と増員のタイミングが重なりました。長年の夢が現実のものとなり、信じられない気持ちだったのを覚えています。自分に務まるだろうかと不安もありましたが、期待と興奮に溢れていました」

シャチと心を通わせる瞬間が、トレーナーとしてのやりがいに

article image 3

宿願を果たしシャチトレーナーとなった五十嵐でしたが、飼育の難しさは想像していた以上。多くの苦労に直面したと言います。

「シャチは、1日あたり60〜80kgの餌を食べます。これを用意するだけでも大変な作業でした。シャチは体重が2トン以上あり、体が大きい上に力がとても強いため、動物にその気がなくても、少し体が当たってしまっただけで大怪我につながる可能性もあるため、配慮が必要です。

また、相手は生きものです。互いに呼吸を合わせなければパフォーマンスはできません。何事も一朝一夕にはいかず、もどかしい日々を過ごしました」

手さぐり続ける五十嵐を支えたのが周囲のキャストメンバーたち。互いに支え合う文化の中で、トレーナーとして成長を遂げてきました。

「『こうするときっとうまくいくよ』『この個体の場合は、もっとこうしたほうがいいかも』といった、経験豊かな先輩方からの助言にとても助けられてきました。

トレーニングの過程で、コツを掴めたと感じる瞬間がふと訪れることがあるのです。そうやって経験を積み重ねながら感覚に磨きをかけ、いまに至っています」

そんな五十嵐がやりがいを感じるのは、シャチと心を通わせたとき。さらに次のように続けます。

「シャチが心から楽しんでいるのが伝わってくることがあるのです。目をきらきらと輝かせながら、私の小さな動きにも敏感に反応して高く跳んだり、動きが敏捷になったり。全身で喜びを表現してくれたときは大きな充実感があります。

そうやって私たちが一体となって楽しんでいるときは、おのずとお客様からの歓声も大きくなるものです。高くジャンプしたりして大喝采が起こると、とても嬉しい気持ちになります」

夢をつなぐ存在に。一人ひとりの可能性を育む環境で実現する多彩なキャリア

article image 4

トレーナーとしてのキャリアはまだ道半ば。より良いパフォーマンスを実現するために、五十嵐はさらなるスキル向上に努めていくつもりです。

「シャチの魅力を伝えるのがトレーナーの役目です。お客様がもっと楽しみ、ひとりでも多くの方が、『シャチってすごい!』と思ってくださるよう、シャチが持つ知性や運動能力を発揮できるパフォーマンスに積極的に挑戦していきたいと考えています。

めざすのは、先輩方のような存在になること。ステージ上の姿はもちろん、水中でもいつも所作が美しいトレーナーになることが目標です」

そしてもうひとつ、幼い日の願いをかなえた五十嵐にはいま、新しい夢が芽生えています。

「鴨川シーワールドでは、夏休みや冬休みの期間中、子どもたちに向けてシャチの生態や特徴などを紹介するイベントを開催しています。私も講師として参加していますが、かつて自分がトレーナーの方との出会いを通じて憧れを抱いたように、今度はトレーナーとして子どもたちに夢を与えるきっかけになれたらと思っています」

2024年で五十嵐は入社8年目。キャリアを振り返りながら、鴨川シーワールドで働く魅力についてこう述べます。

「すべてがかなうわけではありませんが、当社には社員一人ひとりの考えや希望を大切にする文化が根づいており、努力が公平に評価される環境があると感じます。

また、水族館だけでもさまざまな職場があり、それぞれ楽しみを見出しながら多様な経験ができるのも当館ならではです。お客様の笑顔をつくる、やりがいのある仕事に共に取り組んでいきましょう」

※ 記載内容は2024年3月時点のものです