NHK静岡 三保の水族館一般公開終了 存続を求める新たな動き
- 2024年11月29日
10月末、「三保の水族館」として親しまれてきた東海大学海洋科学博物館が54年の歴史に幕を下ろしました。運営する東海大学は設備の老朽化や耐震性を理由にあげていますが、市民からは三保の中核となる施設がなくなることや、世界初の大型アクリル水槽、海の生き物の研究発表を行う場がなくなってしまうことを惜しむ声もあがっています。
そうした中、水族館の施設存続を求める署名活動が動き始めました。
54年の歴史に幕
1970年に開館し、半世紀以上にわたって「三保の水族館」として親しまれてきた東海大学海洋科学博物館は、設備の老朽化や耐震性などを理由に去年(2023年)3月、有料での公開を終了していました。
その後は公開部分を縮小し、時間予約制の水族館として、無料で開放し、小中学校の校外学習などにも活用されてきましたが、運営する東海大学は10月31日をもってすべての公開を終了しました。
【10月31日放送「たっぷり静岡」】
三保半島の先端付近には、いずれも東海大学が運営する、大きな恐竜の骨格標本が人気を博した「自然史博物館」や、人の口の形をした入口から入館する、ユニークな「人体博物館」などがあり、これまでにのべ1900万人以上が訪れましたが、水族館の終了ですべて閉じることとなりました。
楽しい思い出の詰まった施設が終わることに、集まった人の中には涙する人の姿もありました。
日本や世界に影響を与えた水族館
三保の水族館は東海大学付属の水族館として、日本だけでなく世界に大きな影響を与えてきました。
この水族館の9代目の館長で、その後、マグロの回遊水槽で知られる東京都の葛西臨海水族園の園長も務めた西源二郎さんです。現在も水族館のシンポジウムを主宰し、全国の水族館の実情に精通しています。
西さんは、海洋科学博物館の大きな水槽は歴史的に価値があると言います。
「沖縄美ら海水族館」や大阪の水族館「海遊館」など、いまでは当たり前に見られるアクリル製の大型水槽ですが、54年前、東海大学海洋科学博物館が初めて導入しました。
当時、アクリルの板を水族館の建設現場で接着する技術がなかったため、水の圧力に耐えられるよう、鉄橋やビルに使われるH形鋼と呼ばれる頑丈な鉄骨を組み合わせて作られています。(現在は建設現場でアクリルの板を接着することで、1枚の大きな前面ガラスを成形しています)
箱型の水槽をのぞき込むような展示が多かった当時、目の前の圧倒的な水の塊と、その中で泳ぐ大きな魚を目の当たりにした来館者は一様に感嘆の声をあげていたと言います。
世界の水族館からも多くの視察があり、その一つ、アメリカ・モントレーベイ水族館にはその後、同じような構造のアクリル水槽が作られました。
いまや水族館の代名詞とも言えるアクリル大型水槽は、この水族館を皮切りに世界で発展していったのです。
繁殖と人材育成に貢献した水族館
また、この水族館では海洋生物の生態を解明するため、飼育環境下での研究が盛んに行われ、カクレクマノミの世界初の繁殖に成功するなど、研究や繁殖の面でも大きな成果をあげてきました。
西さんは、こうした活動は全国の水族館を支える人材の育成にもつながってきただけに、一般公開終了による影響を懸念しています。
『ここで学んだ多くの学生たちが、いまも全国の水族館で、生き物の多様性を解説したり、環境の重要性を訴えています。卒業生の中には「沖縄美ら海水族館」や福島の「アクアマリンふくしま」をはじめ、館長職についている人も少なくありません。三保の水族館の公開終了は、海洋基本法の定める海洋教育を担う人材の育成という点でも、影響があるのではないかと心配しています』。(西さん)
施設はこれからどうなるのか?
今後施設はどうなるのか。クジラやイルカの言語や認知の研究者であり、現館長の村山司教授も分からないと言います。
『今のところこの施設をどうするのかというのは決まっていないんです。個人的には、使い方はいろいろあるし、今後のことも気にしているんですけど、その辺は東海大学が決めると言うこともあるので、まだ白紙状態ということなんですね。「どうしてやめるんですか?」とか「もったいない」という声が圧倒的に多いのですが、そういうふうにしかお答えできないのを申し訳なく思っています』。(村山館長)
「水族館をなくさないで」
署名活動が動き出す
関係者によりますと、施設の老朽化や建物の安全性への懸念から、東海大学では施設の取り壊しの計画があると言います。また静岡市の日の出地区には海洋文化施設が計画されているため、三保地区で民宿などを営む人は、人の動線が失われ、三保地区を訪れる人が減るのではと、不安の声をあげています。
『三保の水族館は世界遺産「三保の松原」の構成資産区域の一番端に位置していて、この地域の核となる施設です。もし取り壊しという話になったら地域の人はびっくりすると思います』。(竹下さん)
竹下さんのような声を受け、新たな動きが始まりました。
水族館を残してほしいと願う市民らが署名活動を行うことになったのです。
静岡市に住み、長年、三保の海岸清掃のボランティアに取り組んできた影沢孝行さんは、残してほしいと願う人の後押しで「東海大学海洋科学博物館を残す会」を作りました。
『長年、ビルの総合管理の仕事をしてきましたが、建物にいろいろな人の思いが入って初めて本当の施設になると肌で感じてきました。東海大学海洋科学博物館は50年以上の人々の思いが詰まった建築物で、残してほしいという声が多く聞かれます。まずは声を形にすることが大事かなと思っています』。(影沢さん)
会では今後、「三保の水族館」を残してほしいと願う人の声をオンラインや直筆の署名で集め、東海大学へ提出する予定です。
水族館に詳しい西さんによりますと、ヨーロッパを中心に海外には、100年以上前の建物や施設を大事にしながらいまも研究・展示をしている水族館が少なくないそうです。
地震の多い日本で同じように考えることは難しい面もあるかもしれませんが、50年以上にわたり日本の水族館に大きな影響を与えてきた水族館がどうなるのか、地域の住民や全国の関係者が注目しています。