広告宣伝費は限りなくゼロ! なのにSNSでめちゃくちゃ愛される『ゆかり』は赤しそふりかけのシェア8割を誇るロングセラー商品だ。発売元である三島食品がひらがな3文字で命名する理由、常識を覆す広報戦略などを流通ウォッチャーの渡辺広明氏と取材した。
3月初旬、とある「X」(旧ツイッター)アカウントが「ゆかり一族が全部そろっているの初めて見ました!」と1枚の写真を添えた投稿が500万インプレッションを超えるバズを引き起こした。
「知らんやつがおる」「こんなにいたのか…」「しげきって誰?」などさまざまなが反応が寄せられた〝3姉妹説〟や〝6兄弟姉妹説〟もまことしやかにささやかれたが真相はどうなのか? 謎を解き明かすべく「ゆかり」シリーズを販売する三島食品株式会社(広島県広島市)を訪問した。
笑顔で出迎えてくれたのは広報兼直販事業の佐伯俊彦マネジャー。同社では現在、ふりかけ関連では約480種類の商品を販売しており、そのうち20種類がスーパーなどで売られる市販用商品、残りの460種類は業務用商品が占める。ラインナップだけで見ればBtoB企業と言っていいだろう。
「弊社は学校給食シェアがナンバーワン。昔は業務用と市販用の売上が6対4でしたが、最近は市販品が好調で45%にまで伸びました。転機は2017~18年ごろ当時のツイッターで『ゆかり』『かおり』『あかり』を3姉妹として擬人化した投稿がなされ、話題になったことでした。それまで弊社の社員は『ゆかり』はロングセラーの商品名であって、誰一人として名前に見えるなんて思っていなかったんです。そういう楽しみ方があるんだって(笑い)」(佐伯氏)
この気づきが同社の広報戦略を大きく変えることになる。『ゆかり』が発売50周年を迎えた2020年には感謝の意味を込め12か月連続キャンペーンを実施。同年公開したパッケージをデザインできる「4姉妹メーカー」へのアクセスで、同社HPのサーバーが2回もダウンするほどの話題を呼んだ。
そして同年、『ゆかり』(1970年発売)、『かおり』(1984年発売)、『あかり』(2011年発売)に続く、ひらがな3文字商品として発売されたのが『うめこ』だ。
「現行品の『あかり』はピリ辛たらこですが、実は昔、〝あかりシリーズ〟として『カリカリ梅』と『ピリ辛たらこ』で発売したことがあります。冠ブランドに育てたかったのですが、途中で満足できる原材料の維持が困難になり、『カリカリ梅』を終売して『ピリ辛たらこ』の商品名を『あかり』へリニューアルしたものです。ようやくカリカリ梅が安定的に調達できるようになったとき、社長が『うめこ』の名前を提案。ちょっと不幸なで〝情〟の世界を歌った演歌歌手をイメージしました。そのため『うめこ』のパッケージデザインは着物風で3色の使い方も他と一線を画しています」
この成功をもとに『ひろし』(21年発売)『かつお』(22年発売)、『鮭 ひろし』(23年発売)、『しげき』(24年発売)と年に一度はシリーズに新キャラが登場している。数を武器に攻勢をかけているのかと思いきやそうではない。
「弊社は広告予算が限りなくゼロなのでテレビCMなんて打てません。『ゆかり』のために赤しその新品種『豊香』を開発したほど、原材料と素材がもたらすおいしさにこだわってきましたし、宣伝にお金をかけるくらいなら良い原材料に…というのが創業者の教えなのです。幸いなことにSNSが浸透した今、お客様が楽しんで『新しいの見つけた』と届けてくれますし、双方向のやりとりで間合いを図ることもできる。『鮭 ひろし』についてもわれわれは苗字だと明言はしておりませんが、お客様に楽しんでいただくための〝変化球〟なんです」
結論を言えば、三島食品は〝3姉妹説〟や〝6兄弟姉妹説〟を公式には喧伝していないのだ(ホームページにも記載はなく、『ふりかけ4姉妹メーカー』のみ)。消費者がおのずとブランドに親しみを持てる余地を整えるというのが同社の広報戦略と言えよう。
流通ウォッチャーの渡辺広明氏は「宣伝費がなければスーパーの売り場を確保することも難しく、『ゆかり』以外の商品がずらっと並ぶことが少ないのはまさにそういった理由。しかし、『ゆかり』がおいしくて、他の商品群を目にしたときに『これも食べてみたい!』と消費者の心を動かすブランド力がシリーズに宿っています。30年以上前にロサンゼルスに拠点を設けFURIKAKEを調味料としてシーズニング的に広めているという海外戦略にも驚きました。あらゆるところに先見の明と奥ゆかしさを感じますね。『ゆかり』だけに」とドヤ顔で解説した。
実際、シリーズを幅広く販売するとあれもこれもと買い上げ点数が増えることから、最近では〝ゆかりフェア〟も増加傾向にあるという。あなたの街にも『しげき』がツンとした顔でやってくるかもしれない。
ところで、新商品はどのように開発されるのだろうか? これだけ人気があるのなら〝双子〟や〝三つ子〟を登場させても面白そうだが…。
「それをやってしまうと『最近、三島食品やりすぎじゃない?』といった具合にSNSの反応が真逆になると思います。お客様に持続的に楽しんでもらうという姿勢はブレちゃいけないと思っています。あと、素材にこだわっているのでそんなに簡単に新商品ができないのです。最低でも1年はかかりますし、研究所では4、5アイテムを並行で商品開発しています。2月に新商品を出せたらと思っていますが、納得する味にならなければ翌年です」(佐伯氏)
開発者たちのこだわりはハンパなく、発売されたばかりの『しげき』も〝難産〟だったという。
「本当は『しげき』は去年発売する予定だったんですね。辛味は演出できましたが、うま味が物足りない…という要望の末、研究チームが苦労してたどりついたのがとうがらし香料でした。わさびはからさを持続させる、とうがらしがからさの中にうまみを担保する効果があってようやく目指す味に改良できました。食品表示にも香料としか明記していないので、とうがらしが隠し味だということをメディアの方に明かすのは初めてです」
『ゆかり』シリーズのブランド力が高まったことで、同社のオンラインストアではふりかけ以外のグッズにも注力するようになった。
「もともとふりかけの通販を始めたのは小売店で希望商品を買えない方の救済措置といったところがありました。だから通販だと基幹商品である『ゆかり』が一番売れません(苦笑)。この先、どう通販事業を拡大していこうかというタイミングで擬人化が話題になり、コラボのお話をいただき始めたんです。たとえばクレーンゲームの景品だと海外で大量に作るわけですから、その一部をわれわれにも仕入れさせてもらえればコストも抑えられます。ゼロからやると単価は高い、在庫リスクも高いとなりますが、この方法ならイケるとここ2年、意識してグッズを増やしています」
「ゆかり」デザインのポストカードや、ゆかりと同じ色で書けるボールペン。ミニフィギュアにマスキングテープと遊び心にあふれている。靴下屋とのコラボ刺繍ソックスは完売が相次ぐ人気。「ひろし」グッズについてはプレゼント需要が高かったという。こうなるとふりかけと一緒にグッズを売らせてくれという声が寄せられるのは必然だが…。
「全国のスーパーにグッズを並べられたら価値がなくなってしまうじゃないですか? そこにしかないことの価値を大事にしていて、オンラインショップの他にはJRや道の駅など広島みやげとして売ってくださるところにだけ卸しています。おかげさまで『三島食品って広島の会社だったんだ!』と屋号の認知も高まりました」
広告宣伝費がほぼゼロなのに大手企業から続々とコラボ依頼が舞い込むなんて、にわかに信じられない話だろう。だが、三島食品はどんな状況でも地に足をつけている超堅実カンパニーだった――。



















