当日の会見の様子。左から全国医師ユニオン代表の植山直人氏、事務局長の土谷良樹氏
全国医師ユニオンは2024年11月26日に厚生労働省で会見を開き、一般紙の記事に取材協力した全国医師ユニオン事務局長の医師が所属する病院が、記事掲載を理由に労働基準監督署による臨検を受けたことを問題視する声明を発表した。全国医師ユニオン代表の植山直人氏は、「当事者にとっては臨検に入られること自体が『圧力』となる。臨検に入ることで、その医師が当該医療機関でどういう状況に追い込まれるか分かるはず。こうしたことを看過すれば、当事者は声を上げにくくなり、マスコミにも話しにくくなってしまう。おかしなことがあれば自由に言える環境を作ることが大事だ」と訴えた。
声明文名は「医師の情報提供によるマスコミ報道を利用した労基署の臨検に抗議する声明」。植山氏によると、東京新聞に2024年11月13日付で掲載された記事に取材協力した医師の土谷良樹氏が勤務する医療法人財団東京勤労者医療会・東葛病院(千葉県流山市、366床)に、記事掲載の翌日に労基署が臨検に入った事案が起きたという。臨検に来た労基署の担当者からは「新聞に出たので調査に来た」と言われたと土谷氏は話す。
同記事は、宿日直許可を取得する病院がここ数年で全国的に増えたことや、宿日直時は労働時間扱いにならないことなどを説明する内容となっていた。記事中には、土谷氏がどのような条件で宿日直勤務しているのかについても記載されていたが、宿日直許可を得た時と同じ条件だったと土谷氏は説明する。月4~5回ある当直時には1回当たり平均20人が来院するほか、救急車が5~6台来ること、約300人の入院患者の急変にも対応することが書かれていた。
土谷氏によると、労基署による臨検当日は事務職員が対応し、当直室を見せることになったほか、当直に関する書類を提出。今後、当直医にヒアリングが行われる予定だという。記事掲載後、土谷氏は院長に呼び出され事情を確認されたといい、現時点では特に不利益は被っていないという。「退職を迫られるわけではないが、相当なストレスになる」と土谷氏は話す。
今回の事態を受け、植山氏は「報道の自由と取材の協力者の保護に関して看過できないと考える。近年、公益通報者保護が大きな問題となり、日弁連も公益通報者保護の徹底を求める意見書を発表している」と説明した。その上で今回の該当医師は公益通報者ではないものの、これに準ずるものと考えている旨を補足した。
声明文では、「厚労省が『医師の働き方改革』の名の下で乱発する、不当な宿日直許可に関して憤りを感じ、これを適正化することを求め取材に協力したものである。一方で、当該医師は自らも宿日直を担っているが、同院の労働実態は厚労省が許可した宿日直許可の基準を満たしたままの状態であり、それ以上の問題があるわけではないことから、労基署に訴えることは行っていない」と説明。その上で「今回の医師の報道機関への協力は、単独医療機関を告発するものではないが、医師の働き方改革の実態を社会に告発するものであり、公益通報に準ずるものであると考えられる。(中略)私たちは、現場の医師の取材協力に基づく報道を理由に一医療機関への臨検などを行わないこと(本人が労基署に訴えている場合を除く)、ならびに、すみやかに宿日直許可病院に対する全国実態調査を行うことを求める」としたほか、「今後は報道機関への取材協力者に対しては公益通報に準ずるものとして、その保護の視点から十分な配慮を行うことを強く求める」としている。
今後影響が出れば、厚労省に要請を出す可能性もあると植山氏は話している。
なお、臨検に入った柏労基署に事実関係を確認したところ、臨検に入ったかどうかを含め「個別の事案につき、回答しかねる」とコメントしている。