この人ににらまれたら誰もが凍りつく。冷たい目線が忘れられない名悪役が佐藤慶。地元会津での劇団活動を経て、1952年に俳優座に入ったという経歴の持ち主で、同期には仲代達矢、宇津井健、中谷一郎らがいた。
当時、映画スターはテレビに出られなかったという事情もあり、この時期の劇団系の俳優は、早い時期から映画・テレビへ進出している。佐藤は65年のNHK大河ドラマ『太閤記』で主人公の豊臣秀吉(緒形拳)の敵役、明智光秀を演じて以来、大河では『徳川家康』で武田信玄、『炎立つ』で坂上田村麻呂など主人公の強敵を演じている。中でも強い印象を残したのが70年の大河『樅の木は残った』である。
仙台藩、伊達家でお家騒動が勃発。原田甲斐(平幹二朗)は必死に伊達家を守ろうとするが、騒動の裏には仙台藩の支藩、陸奥一関藩当主の伊達兵部(佐藤)の存在があった。藩士の暗殺、襲撃、密書のやりとり、間者の暗躍、ついに兵部は「珍しい薬を手に入れた」という医師に例の冷たい目でじわじわと迫り、仙台藩を継いだ幼君の毒殺を図るのだ。この陰謀は未遂となったが、毒味役3人が吐血という事態に。クライマックスで原田甲斐らは流血事件で命を落とすが、結果的に兵部も土佐に流罪、一関藩は取り潰しとなる。このお家騒動が史実なのもすごいが、最後まで「わしが何をしたと言うのか…」と反省ゼロの兵部もすごい。
そして時代劇の歴史に残る佐藤の敵役といえば、73~74年の萬屋錦之介主演のドラマ『子連れ狼』の宿敵・柳生烈堂である。烈堂率いる柳生一族の陰謀で妻を殺された元公儀介錯人の拝一刀(錦之介)がわずか3歳の一子、大五郎を箱車に乗せ、刺客をしながら復讐の旅を続けるというストーリー。烈堂は第1部は高橋幸治、第2部は西村晃、そして完結編の第3部で佐藤が演じた。一刀に嫡男から娘まで一族郎党を殺され、ついに河原で一騎打ちすることになった烈堂。互いに白装束でのにらみあいは長い長い。1話丸ごと使ってもまだ足りない勢い。これほど長時間の死闘を延々映し続けた時代劇はなかった。
思えば、老獪(ろうかい)な伊達兵部も白髪と白ヒゲが印象的な柳生烈堂も演じていたのは40代半ば。佐藤は大作の主役を向こうに回して堂々とふるまう、スケールの大きな悪役が似合う俳優だった。 (時代劇コラムニスト・ペリー荻野)
■佐藤慶(さとう・けい) 1928年12月21日~2010年5月2日、81歳没。1981年の『白日夢』では愛染恭子との共演で話題になったことも。