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毎日新聞朝刊1面の看板コラム「余録」。▲で段落を区切り、日々の出来事・ニュースを多彩に切り取ります。

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幕末の長崎の海軍伝習所で医学を教えたオランダ人軍医ポンペは…

 幕末の長崎の海軍伝習所で医学を教えたオランダ人軍医ポンペは、安政のコレラ流行で献身的に患者の治療にあたった。その彼が悩まされたのはコレラは外国人が井戸に毒を入れたのが原因という流言だった▲加えて医者は金もうけのためにわざと病人を治さないという中傷も飛んだ。ポンペは開国と時を同じくした疫病流行で民衆の外国人への興奮もまあ分かると書いているが、流言の背後に攘(じょう)夷(い)派や僧侶の扇動があるとみる外国人もいた▲流言の量は問題の重要さと状況のあいまいさとをかけあわせたものだという。地震などの災害、戦乱や恐(きょう)慌(こう)、疫病による人々の不安や恐怖が流言の温床になるのは古今変わらないが、ソーシャルメディアの時代ならではの変化もある▲新型肺炎の感染疑いのある観光客が関西空港の検疫を振り切って逃げたとのデマがネット上で拡散、空港検疫所が否定する騒ぎがあった。デマの元は中国版ツイッターにのったという書き込みの画像だが、発信元は不明のままである▲中国では「バナナを食べると感染する」といったデマもネットで飛び交い、日本語に翻訳されるものも多いという。デマも一瞬で国境を越え、時に面白半分で拡散され、時には悪意によって改変されて混乱を広げる危うい時代である▲昔、電話ができたころにコレラは電話で伝染するとの流言が流れたが、古くからの恐怖は新しい情報テクノロジーと相性がいいようである。真偽不明の情報はまず疑い、軽々しく拡散しないようお願いする。

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