アングル:欧州の出生率低下続く、止まらない理由と手探りの現実

アングル:欧州の出生率低下続く、止まらない理由と手探りの現実
人口統計学者やエコノミストによると、欧州各国が出生率を引き上げようとする試みは何年たっても成果を出していない。写真は人口統計に関する会議に出席するイタリアのメローニ首相(左)とローマ教皇フランシスコ。ローマで2023年5月撮影。提供写真(2024年 ロイター/Vatican Media)
[14日 ロイター] - フランスのマクロン大統領にとって、国家の活力を維持するにはより多くの子どもが生まれることが重要だ。イタリアのメローニ首相も、もっと多くの女性に出産を奨励することを政権の最優先課題に挙げている。
しかし、人口統計学者やエコノミストによると、欧州各国が出生率を引き上げようとする試みは何年たっても成果を出していない。そこで彼らが促すのは、少子高齢化が進む社会経済の現実を受け入れて、適切に対応するという発想の転換だ。
ワルシャワ大学で労働市場と家族の動きを研究してきたアンナ・マティシアク准教授は、中欧各国で「産めよ、増やせよ」の出産奨励政策がいつまでも目標を達成できていない状況を目にしており「出生率の向上は非常に難しい」と語る。
確かに過去10年間、欧州の出生率は1.5前後にとどまったままだ。東アジアほど低くはないが、人口規模を保つのに必要とされる2.1を大きく下回っている。ロイターが取材したマティシアク氏や他の研究者の見解では、この2.1という数字は予見可能な将来において実現できる公算は極めて乏しい。
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欧州各国は、基本的な福祉政策に加えて、子育て世帯への現金支給や大家族向け税額控除、育児休暇制度など、国民が子どもを持つことを後押しするために何十億ユーロも支出してきた。
だが、従来は出生率が1.8前後と比較的高かったフランスやチェコでさえも、現在は下がる傾向を見せている。
その理由は国や地域によってさまざまで、中には完全に理解されていないケースもある。
<子育てと他の目標の二律背反>
スペイン首都マドリードの大学教授で家族社会学、人口動態、格差問題などを研究しているマルタ・セイス氏は、同国の出生率が欧州ではマルタの次に低い1.19にとどまっている要因として、住宅価格の高騰と雇用不安を挙げる。
セイス氏は「人々は子どもが欲しいし、より若いうちに持ちたいだろうが、構造的な理由からそれができない」と述べた。
こうした経済的な事情は、欧州各地に共通する。一方で、親になることを巡り、社会文化的に重大な変化が起きている証拠もある。
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しっかりした家族支援政策が整備されて雇用も確保され、国も豊かなノルウェーでも、出生率は2009年の2から22年には過去最低の1.41に落ち込んでいるのだ。
経済協力開発機構(OECD)は昨年、ノルウェーの出生率低下の根拠として男女の役割が変わってきたことや、キャリア志向の高まり、ソーシャルメディアが不安感を増幅している可能性などを列挙したが、本当のところは謎のままだと締めくくった。
フィンランドの人口統計学者アンナ・ロトキルヒ氏も、同じように出生率が下がっている自国の状況を分析する中で、深層的な社会文化の変容に目を向け、多くの若者が今、人生において子育てと他の目標が二律背反の関係にあると考えていると説明した。
ロトキルヒ氏は「これはまさに、望ましく喜びに満ち、魅力的な人生やライフスタイルは何かという問題や価値観、理想の多様化に行き着く」と指摘。この新しい状況でどんな家族政策が出生率を引き上げる上で有効に機能するのかは、誰にも分からないと付け加えた。
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Chart with data from Eurostat shows the average number of children per woman in 27 European Union nations from 2012-2021 with 2021 highlighted as red dot and rest are in grey.
Chart with data from Eurostat shows the average number of children per woman in 27 European Union nations from 2012-2021 with 2021 highlighted as red dot and rest are in grey.
<悲観見通し変えられるか>
では、この出生率低下により欧州には「人口統計の時限爆弾」シナリオに基づく暗い未来、つまり最終的に社会全体が縮み、年金制度が維持できなくなるほか、慢性的な人手不足に悩まされ、高齢者を介護する人もいなくなるという展開が待っているのだろうか。
実際には、各国の経済構造において少子高齢化に適応できる仕組みが構築できるかどうかに左右されることになる。
インペリアル・カレッジ・ロンドンの経済学者デービッド・マイルズ氏は「時限爆弾」シナリオを否定するとともに、1人当たり国内総生産(GDP)を維持し、人々がより多く、より効率的に働けるようになれば、人口が減少しても生活水準の低下は避けられると主張する。
マイルズ氏は、平均余命がずっと長くなっている上、サービス産業主体の欧州経済では激しい仕事は狭い業種にとどまっている。このため、65歳前後を定年退職とする論理には重大な欠陥があるとの見方を示した。
フランスで昨年、マクロン大統領が打ち出した年金改革に対して大規模な抗議デモが発生した例を見て分かるように、退職年齢引き上げはなお政治的な火種を抱える問題だ。だが、現実に2000年前後からは、先進国で労働者が退職する年齢はゆっくりだが着実に切り上がっている。
働く女性を増やすことは、もっとメリットが大きいだろう。欧州では女性全体に占める勤労者の比率は約69%と男性より11ポイントも低く、労働市場に対する潜在的な供給力は高い。
OECD社会政策局のシニアエコノミスト、ウィレム・アデマ氏は「まだ働いていない女性は、今後の多大な追加的経済資源になり得る」と述べ、女性の労働参加を促す手段として、リモート勤務などの柔軟な仕事のやり方導入などを挙げた。
また、欧州は反移民の論調を克服すれば域外からの労働力輸入を拡大できるし、自動化や人工知能(AI)は少なくとも生産性向上の余地を提供してくれる。
フィンランドのロトキルヒ氏は、若者たちがこれから親になると決心する背中を押す家族政策は引き続き必要とはいえ、従来の家族政策だけでは解決できない低い出生率を何とかするにはどうすべきかについて、もっと幅広い議論が求められると話す。
OECDのアデマ氏は「長期のトレンドを見て、人々が子どもを欲しがらないならば、無理強いしても意味がない」と述べた。

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Mark coordinates Reuters' coverage of the European economy out of London and writes on global themes ranging from demographics to climate economics. His previous stints include assignments in Frankfurt, Berlin, Paris and Dakar.

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Manages Reuters news coverage from Finland and cooperates on cross-border Nordic topics, such as defence, security, energy as well as foreign and monetary policy. Born in eastern Finland, an hour's drive from the Russian border, she speaks five languages and keeps a close eye on the eastern neighbour, NATO's Nordic borders and the Arctic region. Currently a board member of Reuters' Finnish entity, previously Finland Correspondent for AFP and amateur football wing-back.

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Gergely reports on central European economics, central banking and government policy, with content usually appearing on the Macro Matters, Markets, Business and World sections of the website. He has nearly two decades' worth of experience in financial journalism at Reuters and holds advanced degrees in English and Communication.