「王位継承には影響を受けない」──国連女性差別撤廃委員会の勧告を袖にするスペイン。肝心なニュースを伝えない朝日新聞(令和6年11月27日)
国連女性差別撤廃委員会のバンダナ・ラナ委員は、朝日新聞のインタビューに答えて、日本だけでなく、スペインなどほかの国の王位継承についても、勧告したことを明らかにしている。
スペインでは委員会の勧告を受け入れて、改革が進んでいるのか、さっそく国連の資料を読むことにする。すると、とんでもない、スペイン王制は委員会の勧告をほとんど受け流している。けんもほろろである。朝日新聞は肝心な情報を伝えていない。
◇1 「議会のイニシアチブは計画されていない」
スペインは女子差別撤廃条約に、日本と同じく1980年7月17日に署名し、日本より約1年半早く1984年1月5日に批准している。しかしその批准は、「王位継承に関する憲法規定に影響を与えない」とする留保つきであった。
〈https://documents.un.org/doc/undoc/gen/n13/622/81/pdf/n1362281.pdf〉
スペインの1978年憲法は57条で「el varón a la mujer」と男子優先を明記している。1992年の憲法改正をはじめ、3回の改正で、王位継承の原則は変わっていない。
そして委員会は留保の撤回を何度も求めてきたらしい。
2014年11月17日づけの委員会の質問票は、この留保に関する項目が冒頭にある。
Reservations 2. Please indicate whether the State party is considering the withdrawal of its declaration concerning succession to the Spanish Crown.(締約国がスペイン王室への継承に関する宣言の撤回を検討しているかどうかを示してください)
〈https://documents.un.org/doc/undoc/gen/n14/633/57/pdf/n1463357.pdf〉
これに対するスペインの回答は、素っ気ない。
Reservations 9. Title II of Spain’s 1978 Constitution refers to the Crown, whereby the rules of succession privilege men over women. Article 168 of the Constitution sets out the procedure to amend this Title. There are currently no parliamentary initiatives planned in this regard.(スペインの1978年憲法第2編は、王位継承のルールが女性よりも男性を優遇するという王冠に言及しています。憲法第168条は、このタイトルを改正する手続きを定めています。この点に関して、現在、議会のイニシアチブは計画されていません。)
〈https://documents.un.org/doc/undoc/gen/n15/113/20/pdf/n1511320.pdf〉
168条は第2編の改正の場合、各院の3分の2が修正案を承認した直後に選挙を行い、各新下院の3分の2があらためて承認し、さらに国民投票で承認することを定めている。
2015年7月29日づけ委員会の最終見解(第7回および第8回)は、当然というべきか、以下のように、留保撤回の検討を勧めている。
Reservations and declarations
12. The Committee notes that the State party maintains its declaration to the Convention regarding the constitutional provisions on succession to the Spanish Crown.(委員会は、締約国がスペイン王室の継承に関する憲法規定に関する条約への宣言を維持していることに留意する。)
13. The Committee reiterates its previous recommendation and encourages the State party to consider the timely withdrawal of its declaration to the Convention concerning the succession to the Spanish Crown.(委員会は以前の勧告を繰り返し、締約国に対し、スペイン王室継承に関する条約への宣言の適時撤回を検討するよう奨励する。)
〈https://documents.un.org/doc/undoc/gen/n15/235/15/pdf/n1523515.pdf〉
◇2 原則論vs手続き論の平行線
第9回となる今回、委員会は2019年8月19日づけでスペイン政府に質問票を送っている。2ページ目には、王位継承に関する留保について、以下のような質問がある。
Reservations and declarations
4. Please provide information on steps taken by the State party to withdraw its declaration to the Convention relating to the succession to the Spanish Crown, in order to allow women to succeed to the throne. (女性が王位を継承できるようにするために、締約国がスペイン王位の継承に関する条約への宣言を撤回するためにとった措置に関する情報を提供してください。)
〈https://tbinternet.ohchr.org/_layouts/15/treatybodyexternal/Download.aspx?symbolno=CEDAW%2FC%2FESP%2FQPR%2F9&Lang=en〉
これに対する2022年5月30日づけ、スペイン政府の定期報告書は以下のように、またしてもつれないものだった。
Reservations and declarations
55. The order of succession to the Crown is regulated by the Spanish Constitution. Article 57.1 is part of Title II of the Constitution, and its eventual revision requires the use of the aggravated constitutional amendment procedure set out in article 168; hence no initiative in this respect is currently foreseen in the parliamentary sphere.(王位継承順位は、スペイン憲法によって規定されています。第57条第1項は憲法第2編の一部であり、その最終的な改正には、第168条に規定された加重憲法改正手続の使用が求められます。したがって、この点に関するイニシアチブは、現在、議会の領域では予見されていません。)
〈https://tbinternet.ohchr.org/_layouts/15/treatybodyexternal/Download.aspx?symbolno=CEDAW%2FC%2FESP%2F9&Lang=en〉
両者の議論はまったく噛み合っていない。委員会は男女平等原則論の正攻法で攻めるのだが、スペイン政府は憲法改正の手続き論を盾に正面からの議論を避けている。
となれば、2023年5月16日の審議会こそは、王位継承問題について侃々諤々の議論が沸騰したかと思いきや、そうではない。
5月31日づけでまとめられた午前の部の議事概要には、「王位継承問題に取り組む際、平等原則の援用を検討するのか」との質問に対して、スペインの代表はまたもや、次のように憲法の加重手続き規定を持ち出して答え、はぐらかしたことが記録されている。
〈https://tbinternet.ohchr.org/_layouts/15/treatybodyexternal/Download.aspx?symbolno=CEDAW%2FC%2FSR.1981&Lang=en〉
26. A representative of Spain said that succession to the Crown was regulated by article 57 of the Constitution, under which precedence was given to male heirs over their female counterparts. There were currently no plans to amend the article, since it would be a highly complex procedure involving the courts and a referendum.(スペインの代表は、王位継承は憲法第57条によって規制されており、憲法の下では男子の継承者が女子の継承者よりも優先されると述べた。現在のところ、裁判所と国民投票を含む非常に複雑な手続きとなるため、記事を修正する予定はありません。)
そして結局、委員会が5月31日づけでまとめた最終見解は次のように、「遺憾の意」を表明しつつ、留保の「宣言撤回の検討」を勧めているに過ぎない。平行線のままである。
〈https://tbinternet.ohchr.org/_layouts/15/treatybodyexternal/Download.aspx?symbolno=CEDAW%2FC%2FESP%2FCO%2F9&Lang=en〉
Reservations and declarations
15. The Committee notes with regret that the State party upholds its reservation concerning the succession to the Spanish Crown.(委員会は、締約国がスペイン王位の継承に関する留保を支持していることに遺憾の意とともに留意する。)
16. The Committee reiterates its previous concluding observations (CEDAW/C/ESP/CO/7-8, para. 13) and encourages the State party to consider the timely withdrawal of its declaration to the Convention concerning the succession to the Spanish Crown.(委員会は、これまでの総括所見(CEDAW/C/ESP/CO/7-8, para. 13)を繰り返し述べるとともに、締約国に対し、スペイン王位の継承に関する条約への宣言を適時に撤回することを検討するよう奨励する。)
◇3 一面的な朝日新聞の報道
前回、取り上げた朝日新聞のインタビュー記事(森岡みづほ記者)で、日本担当のバンダナ・ラナ委員は、委員会が日本に対して、男系主義を採る皇室典範の改正を勧告したことについて、「日本だけを標的にしているわけではなく、例えばスペインなど他国にも同様の提案をしました」と述べている。
〈https://digital.asahi.com/articles/ASSBY62K9SBYUHBI001M.html?iref=pc_extlink〉
気の早い日本の読者は、ヨーロッパ王室で王位継承のジェンダー平等が進行しているのなら、日本も改革を進めるべきだと思ったかもしれない。
朝日新聞は以前にも、スペインで女帝論議が活発化していると伝えたことがある。
しかしスペインの実態はまったく逆であることが分かる。テコでも動かないという頑なな姿勢のようにさえ見える。朝日新聞の報道は一面的に映る。
朝日新聞はラナ氏の発言に「日本を標的にしているわけではない」と小見出しを振っているが、委員会の勧告を長年、袖にしてきたスペインの対応が記事に盛り込まれていたなら、どんな小見出しが付けられるのだろうか? もしかして「スペインの二枚腰に学べ」だろうか? それとも…?



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