現代社会に欠かせないプラスチックは、ほとんどが石油を原料として自然界に残りやすい。近年は微細な「マイクロプラスチック」などによる環境への悪影響が深刻化し、世界的な課題となっている。理化学研究所でグループディレクターを務める相田卓三・東京大卓越教授(超分子化学)らの研究チームは、これまでの常識を覆し、食品添加物に用いられる化合物などを原料とした海水で溶けるプラスチックを開発。11月22日付の米科学誌「サイエンス」で報告した。強度や加工性などは既存のプラスチックと変わらず、環境に優しい新たな素材として期待される。
微細な破片は世界の課題
プラスチックは世界で年間約4億3000万トンが生産される一方、再利用は1割にも満たないとされる。廃棄後は大半が焼却処分されるが、化石燃料である石油が原料だと温室効果ガスである二酸化炭素を排出する。また、廃棄されたプラスチックが次第に分解して微細な破片(マイクロプラスチック)となり、生態系や人体に悪影響を与えることも懸念されている。
折しも11月25日からは韓国の釜山で、プラスチックごみによる海などの環境汚染を防ぐため、初の国際条約に向けた案をまとめる政府間交渉委員会が開かれている。プラスチックによる環境汚染は、もはや気候変動対策などと並ぶ世界的な課題だ。
無色透明で頑丈だが、塩で分解
このたび研究チームが開発したのは「超分子プラスチック」と呼ばれる。超分子とは、2つ以上の分子が水素結合のような比較的弱い相互作用で集まった集合体で、単一の分子では得られない革新的な機能を実現可能とする。近年、材料開発への応用などで急速に発展している注目分野だ。
一般的にプラスチックは、最小単位である低分子化合物「モノマー」が無数に結合した巨大分子「ポリマー」で構成されている。このポリマーが超分子でできていると、結合を解いて簡単にモノマーに戻すことができる。ただ、それ故に従来はゴムのような柔らかい材料にしか使えず、既存のプラスチックに置き換わることは難しいとされてきた。