川崎町「向山食堂」こんな食堂がある町で 生きたい、働きたい。
2023.10.11
年齢を重ねるほど、この世でいちばん難しく、価値があるものは「続けること」なのではないかと思い至るようになった。ひとつのお店が続くこともそう。個人経営の食堂は「続くことが難しい」最たるものだけれど、川崎町にはなんと150年以上も続く、大衆食堂がある。その名は「向山食堂」。創業、明治元年。歴史の教科書でしか見ない字面だけど、店名も、場所も変わらず、そこにあるという。
お店を訪れるより先に、別の機会で向山食堂の6代目・向山皓紀(こうき)さんと出会うことができた。皓紀さんは5代目の両親と共に、日々向山食堂の厨房で腕をふるっている。29歳と若いが、世田谷区・経堂にある四川料理の名店「蜀彩」で修行を積み、その後中国への留学を経て実家の向山食堂にジョイン。超本格中華料理の新たな風を吹かせ「老舗食堂なのに中華もめっちゃ旨い!」状況をもたらしている。皓紀さんとの場に同席していた、川崎町周辺で働く知人たちに「向山食堂を取材する」と伝えると「唐揚げがマジで最高」「肉うどんだけでお店をだせる」「親子丼は冗談抜きで日本一」「豚骨ラーメンも専門店級」などと口々にすごい熱量で語ってくれた。
念願の初訪問。事前に聞いていたことは全て本当だった。50種類近くあるメニューは、どれも度を超えて美味しい。そして安い。日替わり弁当は500円、うどんは400円〜。お昼前から14時までほぼ満席が続き、駐車場も常に埋まっていた(台数が少なめなので、路駐などしないよう気をつけましょう)。よく働く人、食べる人がいる食堂ならではの活気。お店全体が「生きている」感じ。長い歴史もさることながら、向山食堂は、今がすごい。
揺るぎない名物、親子丼。透き通った玉ねぎ、ほろりとくずれんばかりの鶏肉、絶妙な半熟加減で具材と絡み合う玉子。家庭的ながら「家じゃ絶対ここまで美味しくならない」と一口頬張って強く思った。味噌汁付きで500円。
「昼営業がメインになったのは私たちの代からです。それまでは2階の宴会場(※現在は住居に改修)で夜の宴会だったり、早朝から朝ごはんを提供していた時期もあったみたいで…」と真由美さん。京都出身で、嫁いできたばかりの頃のこともよく覚えている。「肉うどんと、チャンポンも昔からあってずっと人気ですね。作り方も、そんなに変わってないと思う」。メニューが増えて今のような構成になったのも5代目から。鶏ガラを使っていたラーメンを100%豚骨にしたり、2年かけて唐揚げをアップデートしたりしつつも「ずっと変わってないことのほうが、多いかなぁ」と裕二さん。その一つが、仕入先だ。「物心がついた頃から、醤油は中村商店さん、魚は市川(鮮魚店)さん、お肉は山本食肉店さんと決まっていて。その選択肢しか無かった頃から変わっていないだけではあるのですが、今では少し珍しいのかもしれないです」。大正時代から続く醤油蔵や、地域に根ざした専門店。この一つひとつが、毎日食べても飽きない、最高峰の「普通のおいしさ」に繋がっている。
もうひとつ、裕二さんと皓紀さんが熱を込めて語ってくれたのが、向山家で代々作っているお米のこと。お店のお米は全て自家製で、販売もしている。品種はヒノヒカリ。年々収穫量は増え、今年は160俵がお店だけで完売した。
「川崎には山と川があって、米や野菜からつくったものをお客さんに食べてもらえる。自然や土地と仕事がつながる感覚は、代えがたいですね。お米も、まさかこんなに買ってもらえると思わなくて。本当に嬉しい」と裕二さん。お店は10時〜20時まで通し営業なので、農作業は早朝と昼のピークが落ち着く夕方に行う。いつ休んでいるのだろう、という感嘆と共に「食堂の仕込みも大変では?」と問うと「ずっとこれが当たり前で、大変という感じはないですね」と事もなげにいう。
向山食堂には、1日に平均100人ほどが訪れ、そのうち毎日来る方が約30人。川崎町役場や、病院への出前で毎日30〜50食を届けているそう。川崎町の人たちはこんなに美味しいご飯を毎日食べているのか、と心から羨ましくなった。
【向山食堂】
田川郡川崎町大字川崎1069-18
0947-73-2137
10:00〜20:00
日曜・祝日定休
ショップページは
こちら。