常軌を逸したパワハラ上司が管理職(課長)に就任して最初の被害者は先輩のNさんでした。

Nさんは早稲田大学を出た優秀で後輩にも優しい、とても頼りがいのある先輩で私も頼りにしていました。

しかし、パワハラ上司は彼の業務を逐一把握して、マイクロマネジメントと称して、あれこれと重箱の隅をつつくような細かい指摘を業務時間中にずっとするのです。

今からやろうとしていた仕事を「あれはやったのか?なんでやってないんだ?」とか、

会議中でメールの返信が遅れると「大切なお客さんなのにメールを放置するなんてお前には任せられない」とか、

社外会議に朝から直行して、帰社すると「お前どこ行ってたんだ?昨日の業務報告うけてないぞ?」と、業務報告は義務ではないのに勝手に義務化したり、その上司自身が直行の許可を出しておいて「どこ行ってたんだ?」と聞く頓珍漢ぶり。


N先輩も最初の頃は事情を説明して、悪意が無いことや仕事に特に問題が発生していないことを丁寧に説明していましたが、「お前のそういう態度がダメなんだ」「問題ないと思ってるのはお前だけだ」とか、周囲の人間からすると明らかにN先輩には問題ないのに、パワハラ上司は自分の言うことが通らないと気が済まないらしく、徹底的に自己正当化してしまうのです。この人と話しても結局まともな会話にはならないなと思ったのか、だんだんと事情を説明することもなくなり、とりあえず謝っておこうという感じになってしまい、N先輩だけでなく、他の同僚もそういう雰囲気になってしまいました。


N先輩は特に仕事ができないわけではないのですが、そのパワハラ上司はN先輩は出来ない奴というレッテルを張り付け、部署の会議の中でも「Nはダメだから」が枕詞になるほど、徹底的に人格を否定するのが日常化してしまいました。それでも、部署の他の人たちはN先輩がちゃんと仕事をする人ということはわかっていたので、陰で「気にすることないよ」とか「あの上司はいったい何がしたいんだろうね」と、諦めと開き直りの境地であることをみんなで確認しあっていました。



そうした日々が続いてしばらくすると、人事異動の季節になり、N先輩が他の部署に異動することになりました。パワハラ上司は自分の「おもちゃ」がいなくなるのを嫌がったのか、パワハラ上司(課長)の上司である部長にかけあって、「あいつはまだ全然戦力になりませんから、私が育てるんで、異動とかしなくていいんじゃないですか?」「あいつができることなんてないんですから、今の仕事をもう少しやらせましょう」とか、いろいろと吹き込んだようです。しかし、部長はきちんとしている人で、パワハラ上司(課長)があまりいい管理職ではないとも認識しており、N先輩の異動は変わることなく、無事に異動していきました。


他の同僚達はN先輩に対して「よかったね」とか「次の部署の課長はいい人らしいから安心だね」と口々にN先輩の異動を祝福していました。私もN先輩がパワハラ上司から解放されてよかったと思っていました。


そして、N先輩が異動してしばらくすると、パワハラ上司は次のターゲットを探し始めました。彼にとっての新しい「おもちゃ」です。そして、運悪くそのターゲットは私に向けられるようになってきたのです。つづく