重要政策で満足な説明や議論を省く国会軽視が続いてきた。しかし、衆院選大敗に伴う少数与党内閣ではそうした姿勢は通じない。国民の批判を受け止め、国会と真剣に向き合うことが基本だ。
石破茂首相が所信表明演説を行った。首相は選挙結果を踏まえ、幅広い合意形成が図られるよう取り組む考えを示した。民主主義のあるべき姿を、多様な国民の声を反映した各党派が真摯(しんし)に政策を協議し、より良い成案を得ると位置付けた。
10月の就任後初の所信表明演説では、国民の納得と共感を得ると訴えた。だが有権者の反応が冷ややかだったのは衆院選の結果で明らかだ。解散前に野党と論戦を交わす予算委員会を開催する必要性に触れながら、早期解散が有利という声に押されて実施せずに解散に踏み切った。本格論戦を避けた失望は大きい。
もちろん、それだけではない。安倍政権からの1強政治の弊害に対して厳しい視線が向けられた。岸田政権下では国家安全保障戦略の見直しや防衛費の大幅増額、原発回帰が国民的議論を欠いたまま進んだ。自民党派閥裏金事件が発覚しても全容解明に取り組む姿勢は乏しく、「政治とカネ」問題を解消できないことが政治不信を膨らませた。
首相は政治資金規正法再改正などについて、必要な法整備を含め年内に結論を示す必要があると述べた。政策活動費の廃止、政治資金に関する必要な監査を行う第三者機関の設置などを挙げる。立憲民主党などは企業・団体献金禁止を突き付ける。合意形成は簡単ではなく、中途半端にとどまれば信頼は高まらない。
年収103万円を超えると所得税が生じる「年収の壁」は、2025年度税制改正で議論し引き上げると表明した。手取り増や深刻な働き手不足解消の一助になる期待がある。
一方で国民民主党の要求を丸のみすれば税収の大幅減を招く。自治体に不安が広がるが、穴埋め策は明確にならない。来年夏の参院選を控え、地方の反発は避けたいのが本音で、首相が最重要課題と位置付ける地方創生にも影響しかねない。調整に困難を伴うことは必至だ。
経済対策の裏付けとなる24年度補正予算案は緊急性に乏しい施策も盛り込まれた。税収は過去最高となる見通しだが財政状況は悪化する。丁寧な審議が求められる。
外交・安全保障政策では、安保環境が厳しくなる中、抑止力・対処力を強化しつつ、各国との対話を重ねて望ましい環境をつくり出すと主張した。トランプ次期米大統領と率直に議論し、日米同盟をさらなる高みに引き上げるとする。国民への説明を優先すべきことだ。
石破政権には与党の過半数割れに加え、首相の党内基盤の弱さがのしかかる。首相が望む「国民の後押し」をどう獲得するかが政権運営の鍵となる。
対する野党も一枚岩になれないが、有権者の選択に応える責務がある。課題は多い。議論を深める姿勢が不可欠だ。