第25話 高校生活ー2
「はぁ……疲れた」
俺は渋谷駅周辺の、その辺にあるベンチに座って空を仰いだ。
これなら修行してる方がいくばくかマシだ。
知らない人と話すのは想像以上に疲れるし、断るのも心労が凄くて、全部清十郎にぶん投げて逃げてきた。
俺にナンパは向いてないことがわかった。
あいつは楽しそうにしてたし、生まれ持ったチャラ男だからな。
これがコミュ力か。
「はぁ~帰ろ…………ん? なんか騒がしいな」
「はぁ!? これないですってぇ!?」
「申し訳ありません、申し訳ありません! きつく……きつく言い聞かせますんで」
「ふざけんじゃないわよ。うちの姫ちゃんはね! 今をときめく超売れっ子現役JKモデルなのよ? それを高々登録者10万人程度のYoutuberがドタキャン!?」
「ど、どうも昨日の企画で……夜通しだったようで。連絡がつかず……」
「はぁ!? 寝坊なんでしょ!? 家まで行ってぶんなぐってやろうかしら!! うちの姫ちゃんがどれだけ早くきて準備してたと思ってんのよ! しかも入学式を途中で抜けてよ!!」
ペコペコと謝るサラリーマンと、おそらくは男だが少し濃いメイクをした筋骨隆々の派手な服を着ているオカマが言い争いをしていた。
「早乙女さん。私は気にしてませんから。そんなにマネージャーさんを怒らないであげてください」
「だめよ、姫ちゃん。この業界ね、遅刻は厳禁。高校生Youtuberだがなんだか知らないけどね!! 社会に出たなら常識ってものがあるのよ」
その隣には、めちゃくちゃ綺麗な女の子がいた。
制服を着ているから高校生なのかな?
茶色い髪と少しウェーブがかかっていて肩まで伸びてふわっと柔らかそう。
ほんのりなメイクで頬が少し赤く、泣きぼくろがちょっとエッチだ。
たぶんモデルか女優だろうな。俺が実際に見たことある人の中で一番可愛いかもしれない。
「はぁ…………姫ちゃんの顔を立てて、これぐらいにしてあげるけどね。今日これだけの人間が朝から集まって、準備したのが全部無駄になるってことをしっかり教育して、事務所まで菓子折りもって謝罪にこさせなさいよ」
「申し訳ありません! 申し訳ありません!! 必ず、必ず言い聞かせますんで!!」
「ごめんね、姫ちゃん」
「いいんですよ。久しぶりにお休みもらっちゃいましたね。せっかくですから、お買い物でもして帰ろっかな」
「あんたどこまで良い子なのよ。はぁ……代役でもいればいいんだけど……今回の雑誌特集は、現役高校生カップル。姫ちゃんに釣り合う顔面レベルの男子高校生なんて、うちの事務所にもてそう簡単に…………」
するときょろきょろと、周りを見渡すオカマさん。
俺と目が合った。
俺は目をそらした。
もう一回ちらっと見てみる。ずっとこっち見てるわ。
「ちょっとぉぉぉぉ!!! そこの男子ぃぃぃぃ!!」
「………………え? 俺?」
パシャパシャ!!
「グレートよ!! グレイトォォォ!! ビューティフォーでエクセレント!! もう一枚今の頂戴!」
パシャパシャ!!
「そう! そこで肩に手を回して! そう! もう!! なにやってんのよ、もっと近づいて!! カップルでしょ!! 腰に手を当てて! 恥ずかしがってんじゃないわよ! もっとイチャラブをみせて!!」
パシャパシャ!!
「いいわ、いいわ! あなた達いいわ!! うーん、でもまだちょっと表情硬いわよ。よし、じゃあそこでキス!! あっついの、頼むわね! 大人のでもいいわよ!」
「え!? キ、キス!?」
「も、もう! 早乙女さん!! バカ言わないでください!」
俺達は顔を見合わせて、少し顔を赤くした。
「あら、ごめんなさい。ちょっと興奮してヒートアップしちゃったわ。はい、じゃあクールダウンでみんな! 30分休憩!」
「はぁ……疲れた。修行のほうが写真撮るより楽だよ、これ」
俺はその辺のベンチにまた座った。
なんでこんなことになったのか。あの早乙女さんって人、強引すぎる。
断れる気がしなかった。
「お疲れ様です。隣いいですか? 田中さん。 …………田中さん?」
「え? あぁ、俺か。どうぞ」
俺は田中太郎。
なんでそんな名前にしたかって? 白虎家だってばれたらめんどくさそうだったから。
あと、いきなり早乙女さんに詰め寄られて焦って田中と言ってしまった。
「すみません、早乙女さん。本当に強引で、いきなり撮影始めちゃって……猪突猛進なところあるから」
「あはは、なんか……パワーを感じます。断れる気がしなかった」
「私のマネージャー兼、事務所の副社長なんですよ。あ、私ったらまだ自己紹介もまだですね。姫川姫野です」
「こちらこそよろしく」
「田中さんってもしかして太陽学園ですか?」
「え? なんで?」
「だって制服が……」
しまった。普通に太陽学園の制服だ。
せっかく偽名使ったのに意味なかったな。
「そう、今年から太陽学園に入学するんですよ」
「うそ! すごい偶然! 私も実は今年から太陽学園に通うことになってて……祓魔官を目指してるんですよ!」
「え!? そうなんですか?」
珍しいこともあるもんだ。
しかしこんな美少女が祓魔官か。美しすぎる現役JK祓魔官とでも呼ばれるのだろうか。
「なら私たち同級生ですね! 敬語じゃなくていいですよ! あ、私のはもう癖なんで気にしないでください。大人ばっかりと仕事してるとどうしてもね」
「そう? じゃあ遠慮なく……あ、そういえば姫川姫野って…………俺の隣の席だ」
「うそ! あはは、すごいですね。びっくりするぐらい偶然ばっかり! 運命?」
そういって笑いながら俺の肩を叩く姫川さん。
なんて自然なボディタッチなんだ。普通に好きになりそうだ。可愛い。あとめっちゃ良い匂いがする。
そのときだった。
「ウィース! 遅れてすんません! いやぁぁ昨日飲みすぎちゃって。あ! 俺まだ未成年だから今のオフレコで」
チャラチャラしたそれでもイケメンの高校生がやってきた。
清十郎と同じ波動を感じる。
まぁあいつはファッションチャラ男で、毎日呪術訓練を欠かさない実は真面目な奴だが。
「あんたね、どの面下げてきたのよ? えぇ? ぶん殴られる覚悟はできてんでしょうね?」
「いや、きただけ偉いっしょ! 頭痛いのに。あ、マネージャー。カメラ回しといて。後で編集して俺のチャンネルにあげるから。お? 姫ちゃーん!」
なんというか鼻につく奴だな。
姫川さんの手を握ってニコッと笑う。
姫川さんも、あははと引きつりながら笑っている。
「はい、もしもし。早乙女です。え? Youtuberを使え? で、でも社長、ちょっと待ってください! さっき連絡した代役の子だってすごく素敵で! いや、でも!! …………はい、そりゃ認知度が大事なのはわかってますけど……はい……はい」
すると電話を切りながら大きなため息をつきなが、早乙女さんがこちらにきた。
「本当にごめんなさい、太郎ちゃん……このクズを使わなきゃいけないみたい。こんなんでもインフルエンサーだから」
「クズってひでぇ! あ、こいつが俺の代役だったわけ? あ、悪いね。役不足みたいで、もう帰ってもらっていいよ。バイバーイ! もしかして有名になれるかもとか思っちゃった? 勘違いおつ!」
「あんたは黙ってな!!」
「こっわ……んじゃ、姫ちゃん、今日はいい撮影にしようなー」
そしてチャラ男Youtuberは去っていった。
「太郎ちゃん、本当にごめんね。これ……バイト代。色付けてるから美味しいものでも食べて。ほんっとに、こちらから無理やり誘っておいてごめんなさい!!」
「いいですよ、気にしないでください」
どうやら代役は不要のようだな。
正直、疲れてたし、ありがたい。
まぁこの性格悪そうな奴が、姫川さんとカップル役というのはちょっと嫌だが。
「それに……貴重な経験で楽しかったです!」
「もう……なんて良いメンズなの!! 絶対太郎ちゃんのほうがいいのに!! あ! これ私の名刺。よかったら連絡先えてくれないかしら。芸能界……興味ない? 太郎ちゃんならてっぺん、目指せるわよ」
「えーっと、はは。考えておきます。今は学業? が忙しくて」
「そう……いつでも連絡してね。まってるわ」
そして俺は、挨拶だけしてその場を去ろうとした。
「あ、あの……田中君!」
「ん?」
「今日はすみませんでした。いつか埋め合わせさせてください! 席、隣ですもんね!」
「あぁ……ならさ。今度インスタのやり方教えて。なんもわかんなくて」
「インスタ? ふふ……はい、もちろん! 私、フォロワー30万人いますから」
「たぶんすごいんだろうけど、フォロワーってなに?」
「ふふ、全部教えてあげますね」
「頼む」
俺はじゃあなと、家に向かった。
今日は変に疲れたな。思いっきり呪術使って罪でも倒したい気分だ。
太陽学園の修練場で、全力の雷槍でもぶっ放して帰るか。
◇
「田中君か…………なんか不思議な人」
姫川は、夜虎の背を見つめる。
「あら、姫ちゃん。熱い視線で見つめちゃって……太郎ちゃんが、お好みに合ったのかしら? 所詮、あなたもメスってことね。発情期かしら」
「ち、違いますよ! 良い人だったなって思っただけで、あ! 良い人ってそういう意味じゃないですよ!?」
「うふふ、恋は女のエネルギーよ。大いに結構。ただしスキャンダルはやめてね。さぁ、みんな! もう一回撮り直しよ!!」
「姫ちゃん、よろしくぅ! あ、この後飲みとかどう? ってか彼氏いないよね? 俺、姫ちゃんみたいな清楚系すげぇタイプなんだよね! ウェーイ!」
そういって、姫川の肩に手を回すYoutuber。
姫川は、微笑むような顔で笑ってない笑顔を向けながら手を払った。
「ただでさえ遅れてるんですよ。これ以上手間取らせないでください」
「ウェ……ウェーイ」
そして撮影が始まった。
東京――渋谷。
世界屈指の人口比率を誇る大都会で、今日も若者が夢を追ったりと青春を謳歌する。
その日常はかけがえのないもので、多くの人が集まる場所。
だからこそそれは罪を重ねるように、何の前触れもなく現れる。
キーーーン。
耳鳴りがなり、空間が歪む。
黒い球体が集まって、そして渋谷のど真ん中に。
『霊度4の罪が顕現しました。周辺住人は、至急避難してください。繰り返します。霊度4……』
今日もまたこの国に罪が生まれる。