公共空間にあふれる「性的な」広告 表現の規制よりも大切なものは
駅のポスターや公共機関の広告の表現が「性的だ」として問題視されることがあります。2次元キャラだからNGなのか、表現を規制するべきなのか。メディア研究者の田中東子さんに聞きました。
2次元キャラだからNGなのか?
公共性の高い広告が性的だと批判される事象は繰り返し起きています。
代表的なのが、鹿児島県志布志市が2016年に制作した、ふるさと納税の返礼品である養殖ウナギのCM動画です。スクール水着を着た若い女性「うな子」が、プールで「養って」とささやき、男性に育てられる話です。終盤に「うな子」は擬人化したウナギだったと明かされます。
「わいせつ」かどうかに加えて、表現が「性差別的であること」が問題なのです。女性を「養われる性」として、人格のないモノのように扱っている。また、スクール水着など児童ポルノを連想させる要素もありました。
胸を強調したマンガの女性キャラクターを起用して、議論になった広告もあります。描写だけでなく、なぜこのキャンペーンにこのキャラを起用したのか、という文脈に必然性がありません。
議論を呼ぶ広告には、2次元キャラが多く見られます。一部には、女性の胸や尻などの性的な身体部位を強調したり、肌を露出したりするものがあります。これも性差別的な表現と言えます。リアルな女性タレントだったら、身体の部位を切り取って強調したり、同じポーズをさせたりできるでしょうか。
そんな2次元キャラの描かれたマンガが書店に並んでいて、買いたい人が手にとることとは別の問題です。個人が性的な絵を描いたり、個人で楽しんだりするのは自由です。だけど広告の場合、見たくない人が、公共の空間で遭遇してしまう。広告を制作する側が、性差別に鈍感なのです。日本社会に広がるこの認識の低さが、炎上を繰り返す原因だと考えます。
表現を規制するのではなく、その時代の倫理観や社会常識に照らし合わせて、よりよい表現を模索していくことが大切です。あとは学校でのジェンダー教育も大事です。
性的な表現は、時代の要請に合わせて、少しずつ変わってきています。かつては電車の中づり広告でも、露出の高い女性の写真が多く見られました。ビールの広告でも、水着の女性がジョッキを持っていました。
性のステレオタイプなイメージは長い年月をかけて作り上げられてきた。できるところから少しずつ変えていって、10年後、20年後に「こんな広告もあったんだよ」と言える日が来るのを目指すしかないですね。
いまはデジタル空間の方が社会常識に照らした自主規制も少なく、裸同然の女性のイラストを使った広告が出てきます。デジタルでは、プライベートと公共の空間が秒速でぶつかってしまいます。まだネット広告の歴史は浅い。ここでも共通のルールやエチケットを作っていくことが重要です。(聞き手・吉田純哉)
田中東子さんプロフィール
たなか・とうこ 1972年生まれ。東京大学大学院情報学環教授。専門はメディア文化論、フェミニズム。共著に「ジェンダーで学ぶメディア論」。
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- 【視点】
近所のファミレスに入ったら、何かのアニメのコラボ企画で、幼女風なのに性的な体と服装をしたイラストが店内いっぱいに並んでいてギョッとしたことがあった。 昔なら気にしなかったかもしれないけど、大人になって、いろんな影響が見えてくるようになると、こんな世界に住んでいるのかと愕然とする。 よく絵ならいいだろうと言う人がいるけれど、もしも、小学生男児が半裸で局部を強調したイラストが、公共の場にたくさん掲示されていたら男性はどう思うのだろう? 実際、知られていないだけで男性の性被害者はたくさんいるし、その加害者は圧倒的に男性が多い。そういう世界で、堂々と男児を性的に見ることが公共の場で許されていたらゾッとすると思うのだけど。なぜか女児や女性になると、それくらいで目くじら立てるなとなってしまう。 問題として「性差別的であること」「人格のないモノのように扱っている」というのは本当にそうで、公共の場で目にすることによって、成長過程で知らないうちに、女はこうあるべきという歪んだ価値観がじわじわと浸透してしまうことは本当に危険だと思う。 自信のない女の子は、そういう風になろうと努力してしまうだろうし、アニメと現実は違うといっても、実際に、整形手術で2次元キャラに近づこうとする女の子たちは増えているのだから、中身までそうあろうとすることは容易に考えられる。多方面に影響があることに気付いてほしい。
…続きを読む - 【視点】
筆者は今、英国に住んでいます。年に1-2回、日本に一時帰国するのですが、そのたびに「幼女」をアニメ的キャラクターにしたイメージがあふれていて、驚きます。 幼い子ども(少女)を性的な対象としていることに、気味が悪い思いをします。 少女ではなくても、少女っぽい顔つきのアニメ画像で、胸が極端に大きいイメージもよく目につきます。とても不自然な感じがします。 あまりにもこういうイメージが広がっているので、一つ一つを指摘しても「どこが?」と言われてしまうほどだと思います。 記事の中に「性的な表現は、時代の要請に合わせて、少しずつ変わってきています。かつては電車の中づり広告でも、露出の高い女性の写真が多く見られました。ビールの広告でも、水着の女性がジョッキを持っていました」という指摘がありますね。 「少女を性の対象として描く」=「気持ち悪い」という感覚が自然に芽生えないとなかなか、変わっていかないかもしれません。 広い意味では、男性中心社会(こういう画像が日常空間に出ていても、「よし」とする=広告やイメージを使う際の決定権を男性が持っている)や女性を低く見る考え方(女性=性の対象=幼くて可愛いのが良い=広告やタレント起用に使う)がまん延していることも示すように思います。
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