第9話 国家祓魔官試験ー2
そして週末。
電車とバスを乗り継ぎ、二時間近く。
「うわぁ……デカい」
東京――陰陽庁祓魔局本部。
見上げるほどの高階層ビル群の摩天楼、その一角にひと際高く、それでいて立派な建物の前に俺は立っていた。
ここが日本守護の中心、すべての祓魔師を統括する陰陽庁祓魔局だ。
初めて見る東京は、ぐうの根も出ないほどに大都会だった。
そんな大都会に、俺は立つ。
両手を父さんと母さんと繋いで。
「……父さん、母さん。ちょっと恥ずかしいかも」
「えぇ! やだやだ! 小学校入るまではママに甘えてさせて! ママには、夜虎とイチャイチャする権利があるの! ほら! 抱っこしよ!」
「そうだぞ、夜虎! あの日俺は誓ったんだ。もっと家族の時間を作るって。取り返そう! 家族の時間! ほら、夜虎を抱っこする母さんを抱っこしよう!」
なぜか俺を抱っこする母さんを抱っこする父さんで、祓魔局に入った。
ちょっと恥ずかしい。
綺麗なガラス扉が自動で開き、目の前にはまるで大企業のような立派な受付がある。
「すげぇ……」
すると黒スーツのような祓魔官の制服を着た人が近づいてくる。
眼鏡をかけて、真面目そうだが、目の下にクマが出来てどこか疲れている印象だ。
祓魔官は給料が良い分、残業当たり前の超ブラックと聞くしな。
「光太郎さん! 香織さん! どうしたんですか、祓魔局本部なんかに! あ、ご家族でご見学ですか?」
「あぁ、土田君! 紹介するよ、息子の夜虎だ。二人とも、土田君は一級祓魔官で、若手のエースだぞ」
「お久しぶりです。土田さん」
この祓魔官の人は、土田さんというらしい。
年は20歳半ばというところか。
父さんと母さん……を下の名前で呼ぶということは、ある程度見知った間柄なのだろう。
俺の父さんは、白虎光太郎という。
家では常に、パパや、父さんと呼ばれるので呼ぶ機会はほとんどないが。
「初めまして、夜虎です!」
「はい、初めまして。いやぁ、いつも光太郎さんが自慢する通り、すごくイケメンですね! 将来は女の子を泣かせるのかな? 俺も残業がきつくて泣きたいぞ!」
(子供に愚痴るなんて相当きてるな……しかも父さん本当に自慢してるし)
「土田君は、今日は国家試験の審査員か?」
「えぇ、そうです。土属性の祓魔官が必要ですからね。いやぁ……久しぶりに楽ができますよ。ははは! はぁ……しんど」
「ははは! 一級祓魔官は、日本中で、引く手あまただからな。やりがい搾取という奴だ。給料はいいが」
「人の命がかかってるから休むなんてできないですし……給料が良くても使う時間がないですよ。まぁそれは置いといて。試験のご見学ですよね?」
「あぁ、そのつもりなんだ。頼むよ」
「やっぱりそうでしたか!」
そういうと、土田さんはしゃがんで俺を見る。
「夜虎君、今日はたくさん呪術……つまりは魔術が見れるぞ! たくさん受験者がいるからな」
「いや、夜虎は受験するほうだ」
「…………はぁ?」
何を言ってるんだこの人は、という顔で父さんを見る。
「受験? 夜虎君が? え? どういうことですか?」
「そのままの意味だ。今日夜虎は史上最年少祓魔官になる」
「あの……光太郎さん。一応知っていると思いますが……二級祓魔官ですら歴代最年少合格は中学一年生ですよ?」
「あぁ! 御屋形様がそうだな。俺もそうだ。だが、中学卒業のときには、一級に合格したしな!」
「そ、それはそうですけど、それでも中学生と小学生入学時ではあまりにも……あ、記念受験! なるほど、早くから経験を積ませておこうということですね!」
「いや、今日は一級まで受かる予定だ。よろしく頼む」
「…………はぁ?」
土田さんがまた何を言っているんだこの人は、という顔で父さんを見る。
そりゃそうだろ、どこの世界に小学生が最難関の国家資格を受けに来るというんだ。
それは置いといて、俺は疑問に思っていたことを聞いてみた。
「土田さん! 二級とか特級とか教えてもらってもいいですか?」
「え? あ、う、うん。国家祓魔官には、準二級、二級、準一級、一級、そして特級の五段階があるんだ。準二級には、罪と戦う権利はなくて……まぁ事務処理だったり、避難誘導だったり、裏役だから誰でもなれるんだけど……二級からは罪を倒せる力がいる。霊度1相当を単独撃破で二級。準一級なら霊度2、一級なら霊度3の罪を単独で処理できるだけの強さが求められる。小学生にはちょっと難しかったかな」
「すごくわかりやすかったです!」
どうやら土田さんは一級なので一人で、あの夏祭り会場に出てきた鬼を倒せるレベルらしい。
そう思うと、くたびれてるけど土田さんはすごい人なんだな。
「一級の中でも飛びぬけていった者は特級認定される。まぁつまるところそれ以上の尺度がないということだ。霊度4以上と戦える最高戦力……つまりパパだな! どうだ! すごいだろ!」
「パパ、すごい!」
「そうよ、霊度4以上はもう別次元なんだからね。霊度は1上がるだけで、罪の強さは約30倍と言われているわ。だから霊度4はまだ戦っちゃだめよ、夜虎」
「うん!」
「いや、霊度1でもダメでしょ……まだ小学生ですよ」
土田さんの指摘はもっともだ。
霊度1でも、鍛えた祓魔官でなければ殺される。
そこから30倍刻みで単純な魔力量が高くなるというのだからもっと刻めよ。と思う。
まるで地震の強さの尺度である――震度みたいだなと思った。
だが、これも本で読んだことがあるが罪という存在はいきなり強くなるそうだ。
つまり霊度3と霊度4の間ぐらいの強さはなく、いきなり爆発的に強くなるのだと。
それはまるで進化のように。
そして、罪は、人間を進化の糧とする。
だから夏祭りのとき、俺と母さんをあの罪は食べようとしたのだろう。
そう思うと、俺を食べたらすごく強くなりそうだな。絶対食べられないが。
なら魔力が高い奴の近くに出現したりするのかな。
すると俺に単純な疑問が出た。
「じゃあ霊度5が出たらどうするの?」
「御屋形様が出るだろう。あとはパパや、他の十二天将家含めて数であたる。単独撃破は難しい。それほどの脅威だ。数年に一度の国難といってもいい」
「御屋形様?」
何度か父さんから聞いたことがあるが、誰だ御屋形様って。
「紫電家当主。それが御屋形様だ。そろそろ夜虎と、挨拶に行こうと思っているぞ」
「紫電家……」
「そ! 紫電家! 世界を支配……いや、守護する五大貴族の一角、かつては世界最強の名をヴァイスドラグーン家と争ったとされる最速最強と呼ばれた紫電の魔人だ」
また出てきたな、紫電家。しかもヴァイス・ドラグーン家? いきなり横文字が出てきたぞ。
うーん、わからない単語ばっかりだ。
霊度6や最高位の霊度7が出たらどうするかとか聞きたいし、そもそも紫電家とか五大貴族とかも聞きたい。
「…………かつて……か。落ちた紫電……口惜しいな」
「……はい」
「ん?」
すると父さんは少しだけ寂しそうな顔をする。
そしてそれは土田さんも同じだった。
「日ノ本に紫電ありと言われてたのも100年前、アジア全土を守ってきた紫電家も今では日本の守護のみ。それすらも危ういがな」
「頑張りましょう、光太郎さん! 月の残業200時間ぐらい大丈夫ですよ!!」
(いや、それは大丈夫じゃないだろ)
と思ったが、二人がどこか寂しそうなので俺はそれ以上聞くのをやめた。
また今度自分で調べてみよう。
すると俺の両肩に父さんが手を乗せ。ぐいっと前に出す。
「ということで、土田君! うちの夜虎の試験を頼む! いずれ白虎家……いや、紫電家と日本を背負う我が息子を!」
「ほんとに受けるんですか……小学一年生が日本最難関試験の国家祓魔官試験を……怪我では済まないかもしれないんですよ?」
「大丈夫よ、うちの夜虎は天才だから!」
「そうだぞ、うちの息子は世界一だ!」
興奮する親を抑えながら俺は頭を下げた。
「すみません、親バカで。今日はよろしくお願いします
「あはは、達観してるなぁ……ほんとに6歳?」
土田さんは、苦笑いをした。
そして試験が開始される。