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第5話 母の愛ー2

 夏。

 セミが鳴き、蒸し暑い夜が続く頃。

 

 俺は3歳になり、器が完成した。


「夜虎、三歳おめでとう!!」

「ありがとう!!」


 飾り付けられた居間で、母さんの盛大な拍手で祝われる。


 名残惜しいが、俺は母乳を卒業した。

 そしてあの本に書かれていたとおり、最近俺の呪力量の成長が大幅に鈍化したのだ。

 まだ若干増えるのかもしれないが、もはや俺の呪力は全力で枯渇しようとしても枯渇できないレベルまで鍛え上げられた。


 これもすべて母さんと父さんのおかげである。

 三年間も、毎日のように体調を悪くし、あの糞まずドリンクを飲み続け、俺の呪力増強計画に付き合ってくれた。

 寝る間も惜しんで(シン)と戦いお金を稼いでくれた。

 

 確かに俺もめちゃくちゃ辛かったし、後半は泣きながら数時間全力放電人間となって、呪力切れまで頑張ったが、それ以上に両親は辛かったはずだ。

 そんな俺の我がままのせいで、どこかに遊びに出かけるような暇もなかったし、これからはどうかゆっくりしてほしい。


「夜虎、今日はね。お祝いにお外に遊びにいこっか!!」

「お外!? いく!」

「パパはお仕事だって……ごめんね?」

「大丈夫だよ」


 変な眼鏡と変な帽子をかぶっている母さんは申し訳なさそうに謝った。

 今日も父さんはお仕事で(シン)と戦っているらしいが、それも俺が家計を火の車にしたせいなんで謝らないで欲しい。


「最近(シン)の顕現率が上昇してるらしいの……はぁ、怖いわぁ」

「うん……」


 あれから結構この世界のことがわかってきたが、(シン)と呼ばれる化け物はこの日本だけではなく世界中に突然顕現するようだ。

 霊災と言われるように、それはまるで災害のようで突然現れる。


 なので日本では祓魔官と呼ばれる国家公務員がその対応に当たり、海外ではエクソシストなどと呼ばれる人たちが活躍している。

 まぁつまるところ日本では古くは妖怪、海外では悪魔やヴァンパイアなんて呼ばれている者たちが(シン)ということなのだろう。


「さぁ! 出発だ! 夏祭りに行くぞ!」

「お祭り? やったぁぁ!!」


 そして、体調が良くなった母さんと俺は手を繋いで外にでた。

 今日はこの村の神社でやっている夏祭りらしい。


 ピキッ。


「ん?」

「どうしたの、夜虎」

「…………ううん、なんでもない」


 なんだろう、今空が少しひび割れたような気がした。 



 

 夏。

 前世では、ずっとクーラーの効いた病室にいたから感じることのできなかった夏。

 セミの声、川のせせらぎの音、少し薄暗いが提灯の温かいオレンジ色の光が神社を照らしている。


 俺は母さんと二人、夏祭りにやってきた。

 このド田舎……失礼、自然豊かで山々に囲まれたこの村では年に一度、夏祭りが開かれるらしい。 

 実は結構人口がいるこの村の夏祭りは、村の中心にある神社で行われるようだ。

 

 射的や輪投げ、スーパーボールすくいなど……夏祭りといえばの屋台が神社の参道に並んでいる。


「お盆には、夏祭りがあるの。日本中でね。なんでか知ってる?」

「え? うーん……夏休みが長いから?」

「ふふ、残念はずれ。お盆はね……ご先祖様をお出迎えするためのものなの。盆踊りもそう。お迎えしたご先祖様の霊をもてなして一緒に過ごし、送り出す行事なの。この国を守って戦っていった英霊たちに、あなた達の火は途絶えていませんと炎をくべて、楽しそうに踊って迎えるの」

「そうなんだ……なんか素敵だね」

「そうね、ママは夏が好き、夜虎が生まれたのも夏だもん」


 人込みにはぐれないように、俺は母さんと手を繋ぐ。


「あ、夜虎! あれ! あれやってみよ!」

「うん!!」


 射的をやってみた。

 当たった。

 輪投げをやってみた。

 入った。

 なんてことはない遊びだが、ただこの場の雰囲気だけで俺はとても楽しかった。


「はいよ! 景品! 大当たり! 好きなの選んでね」

「わぁ…………」


 一応空気を呼んで、喜んでみたがさすがにこのレベルのおもちゃで心から喜べる精神年齢ではないんだよな。

 ん? これは……指輪かな? 安物だろうけど母さんがその指輪をじっと見ている。そういえば育児中はおしゃれも何もできなかっただろうな。


「これにする」

「え? 夜虎、指輪がいいの?」

「ううん、母さんにあげる」


 俺は母さんに指輪をあげた。

 まぁ母さんもこんな子供用の指輪なんてしないだろうが、ただの感謝の気持ちだ。


「わ、わぁぁ!! え!? いいの? わぁ! 指輪もらっちゃった! 夜虎に指輪もらっちゃった! えへへ、どう? どう? 似合う? 似合う?」

「そんなに嬉しい? おもちゃだよ?」

「すごく嬉しいよ。だって夜虎が初めてママにくれたプレゼントだもん。今日はママにとっても記念日だね」

「そ、そっか」


 大げさに喜ぶ母さん。

 俺も少し気恥ずかしさがあったが喜んでくれたことが嬉しかった。

 なんでだろう。

 なんで……母さんが喜んでくれると俺も嬉しいんだろう。

 

「あ、みてみて、夜虎! 次あれしよ!」

「待ってよ、母さん!」


 わからない。

 でも…………すごく……心が満たされていた。



 ピキッ。


「ん?」


 また……空が少しひび割れたような気がした。 

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