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第4話 母の愛ー1

 一歳半になった。

 俺の仮説は正しく、呪力量が圧倒的に増えている。


「夜虎、おはよう」

「おはよ!」


 一歳半といえば、ある程度、意思疎通ができる年齢だ。

 しかもずっと回らなかった舌も回りだして、単語レベルならしゃべれるようになった。


 そんな日々だが、相変わらずエクストリームおねんねを決める毎日だ。

 

「ほら、夜虎。おっぱい飲もっか」

「あい!」

 

 これが毎日のルーティンだ。

 夜、呪力切れを起こすように呪術を発動し、そして泥のように眠る。

 朝起きたときに、母さんから授乳してもらい復活する。

 

「はぁ……疲れた」

「だいじょうぶ?」

「あ、大丈夫よ。ありがとう、夜虎」


 すると、母さんがソファに座ってしんどそうにしている。

 俺のことは心配せずに、しっかりと寝てほしいのだが……やはり子供がいると心配で安眠できないのだろうか。


「よし、飲もう……ふぅ」

 

 するとなにやら気合を入れて、リビングに立つと緑色の瓶に入った何かを飲んでいる。

 エナジードリンクかな? そのあと物凄い険しい顔をした後に、ふぅっと息を吐いて持ち直した。

 それでもやっぱり辛そうだ。


 最近どんどん体調が悪くなるが、もしかしたらすごく悪い病気なのではないだろうか。 

 死んでしまう?

 そう思うと俺はぎゅっと胸が痛くなった。


 母さんに死んでほしくない。


「香織! 帰ったぞ!」

「あ、パパよ。お出迎えしよっか!」


 すると、父さんが帰ってきたので、出迎えにいくことになった。


「ふぅ……よいしょ!」


 すると大量の段ボールが玄関に積み上げられる。

 中身はどうやら飲み物なのだろうが、すごい量だぞ。玄関が埋まってしまった。


「あなた……これ」

「あぁ! 貯金の大半を使うことになったが、最上級の魔力回復薬だ!」

「ありがとう……ごめんね」

「何を言う。夜虎のためならこれぐらい問題ない! それにお前にばかり負担をかけてすまない」

「ううん、お仕事まで増やしてもらって……あなたも無理はしないでね」

「大丈夫だ! 家族を守るために鍛えた体だしな。しかし一本100万は中々家計にくるな」


「え!?」


 俺は母さんに抱かれながら声を裏返した。

 高級ホストクラブじゃないんだぞ、ヤク〇トみたいなちっちゃなボトル一本で100万円ってどんな飲み物だよ。

 というかなんでそんなものを? しかも俺のため? どういうこと?


 すると母さんが、その箱を開けて青色のビンを取り出す。

 そして意を決して飲み干した。

 やはりめちゃくちゃ険しい顔をしているが、しばらくするとどうやら体調は回復したように見える。


 ん? 魔力回復薬を飲んで体調が回復する。

 つまりは呪力が欠乏していたということだろうか。

 しかし、ずっと俺は母さんといたが、呪術を使うことなんて……なかったはず…………。


 その時俺はやっと気づいた。

 

(俺だ……)


 原因は俺だ。

 俺が授乳のときに、母から呪力を母乳として吸い取っていたんだ。

 毎日毎日、気絶するまで呪力を使い切って、朝起きれば母親から呪力を奪い取る。

 しかも、こんな高級な呪力回復薬で補わなければならないほどの大量の呪力を、毎日。

 

 その事実に気づき、俺は顔を青ざめた。

 すると母さんは優しく俺の頭を撫でる。


「夜虎……これでいっぱい呪術できるね!」

「そうだぞ! パパとママは全力で応援するって決めたんだ!」


 その行動を俺は理解できなかった。

 俺の両親は、なんというかすごく大らかな人だとは思ったが、それでも理解できない。

 子供だぞ? ただの子供のために、なんでそんなことができる。

 世間に疎い俺でも異常な値段だとわかる。


 なんでそんなことができる。

 なんで俺のためにそんなことができる。


 なんで……。


「……すまない、また仕事だ! いってくる!」

「はい、あなた。頑張ってね」


 すると父さんはまた行ってしまった。

 その背中を見つめながら、俺はなんでこんなに俺のために動いてくれるのかずっと考えていた。

 でも俺の中に、その答えはなかった。



 その日の夜。


「夜虎? 今日はしないの?」

「……しない」


 俺は呪術を使わずに眠った。

 これ以上負担をかけたくないと思ったからだ。

 母さんは不思議そうに俺を見るが、そんな日もあるかと一緒に布団に入ってくれた。


 そしてその翌日もまた俺は、何もせずに眠った。

 呪力を増やせないのは、少し残念だが、誰かに迷惑をかけてまでやることではない。


 そのとき、俺はひらめいた。


 そうだ。俺が回復薬を飲めばいいじゃないか。

 うん! これなら迷惑はかけない。

 いや、実際は魔力回復薬を買ってもらっているのですごく迷惑をかけているのだが、あれはもう買ってしまったものだ。

 ならば、せめてあれがなくなるぐらいまでは頑張ろう。


 俺はまた布団からこっそりと抜け出す。

 すでに俺は二足歩行が可能なのだよ。

 すいすいと、キッチンに置いてある最上級魔力回復薬を手に取る。


 そしてふたを開け、ぐっと呑み込んだ。


「げぇ!?」


 俺は盛大に吐いた。

 まずいなんてものじゃない。

 味覚とかそういう次元ではなく、人が飲むものじゃない。


 とにかく、体から拒否反応がすごくて胃が燃えるように熱い。


「い、痛い!! 痛い!!」


 あまりの激痛に、俺は意識を失った。





 目を覚ますと病院だった。

 たくさんの器具がつけられている。

 うつらうつらと目を覚ますと、隣には母さんが椅子に座りながら寝ていた。


「あ……」

「夜虎……夜虎!! もう…………なんで魔力回復薬なんて……飲んだの」

「ごめんなさい」


 一週間ほどで退院することができたが、原因は魔力回復薬による胃の炎症。

 回復薬は上級に行けばいくほど、劇薬となり、最上級ともなるとそれはもう大変な劇薬らしい。

 離乳食を始めたばかりの俺では、耐え切れないのは当然だ。


 そして退院し、実家に帰る。

 俺はもう呪術は諦めようと、布団に入った。


「夜虎、そこに座りなさい」

「母さん?」


 俺は布団の上で、母さんに正座させられた。

 

「呪術……なんで使わなくなったの?」

「…………疲れるから」

 

 俺はもっともな理由を答えた。

 しかし、全てお見通しだった。


「嘘でしょ。……ママが辛そうだったからでしょ?」

「…………」

「ママの眼を見なさい」


 その眼を見ると、俺は嘘をつけなかった。

 コクリと頷く。


「ママは今の方が辛い」

「え?」

「夜虎が呪術を使ったとき、パパもママもすごく嬉しかった。しかも雷の属性だってわかった時は二人して手を取り合って踊ったわ。きっとこの子は白虎家を……ううん、紫電家を……そして日本を救うすごい祓魔師になるんだって、ほんとにうれしかった」

 

 なんで雷だと嬉しいんだろう。

 なんで自分のことじゃないのにそんなに嬉しいんだろう。


「なんで……」

「ただ見てるのが嬉しかったから。毎日どんどん上達していく夜虎を見るのが嬉しかった。どんどん成長するあなたを見ているのが嬉しかった。一日ごとに変わっていくあなたを見ているのが……楽しかった」


 俺にはその感覚がわからなかった。

 家族というものが分からない。

 なんで自分のことではないのに、なんで嬉しいのか。

 

「だから、夜虎。ママは夜虎が我慢するのが一番辛い。それに魔力回復薬を自分で飲むぐらいだから本当はやりたいんでしょ?」

「…………うん」


 俺は頷く。

 すると俯いている俺の頭をわしゃわしゃと撫でて優しく笑ってくれた。


「さ、お庭で今日も呪術やりましょ。大丈夫、倒れてもママが運んであげるから! こう見えてママは結構強いのよ?」


 俺をまっすぐ見つめる母さん。

 俺はしばらく答えを出せなかったが、俺が縦に首を振るまで許さないとその眼が言っていたので、頷いた。

 するとにこっと笑ってくれた。


 そして俺は庭で、呪力を全力で放つため呪術を使う。

 始めたころは、発動した瞬間に力尽きたが、今では全力でも10分は持つ。

 俺は、呪力を全消費するようにただひたすらに体の細部、すべてに熱を帯びさせた。

 

「ねぇ、夜虎……」

「な、なに?」

「…………愛してるわ。世界で一番」

「わ、わぁ!?」


 魔力制御をミスって暴発――頭がチリチリになった。

 母さんはそれを見て笑って、俺も……なぜか笑ってしまった。


 なんだろう、呪力は切れかけのはずなのに……胸のあたりがポカポカと温かい。


 その日から、俺は毎日のように呪力切れまで呪術を使った。

 日に日に増していく俺の呪力、そして空いていくあのゲロまず魔力回復薬の空き瓶。

 一度の授乳では、回復しきらなくなってきて、どんどん間隔が空いていくが、母さんはたくさん母乳が出るようにと、食事を見直したりと本当に色々頑張ってくれた。

 さらには、仕事を増やした父さんが追加で魔力回復薬を、購入し、俺は両親の全力サポートを受けながら、日々呪力を増加させていく。


 そして遂に我が家の家計が傾きかけて、夏。

 セミが鳴く頃。

 

 俺は3歳になり、器が完成した。


 そして、初陣が始まる。

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