Rechtsphilosophie des als ob

かのようにの法哲学

刑法Ⅱ(各論)(第03回 脅迫の罪 2016年10月13日)

2016-10-14 | 日記
 刑法Ⅱ(各論) 個人的法益に対する罪――自由に対する罪
 第03週 脅迫の罪

 刑法は、個人的法益として生命・身体だけでなく、意思決定の自由・意思活動の自由、さらには行動・移動の自由をも保護する決定を設けています。そのために、逮捕・監禁の罪(31章)、脅迫の罪(32章)、略取・誘拐の罪(33章)は、行動の自由に対する罪が定められています。

 行動の自由・移動の自由を行使するためには、どのように行動し、どこに移動するかについて意思決定する必要があります。従って、論理的には、意思決定・意思活動の自由が行使され、そのうえで行動・移動の自由が行使されることになります。従って、保護法益の序列としては、まず意思決定・意思活動の自由に対する罪があり、ついで行動・移動の自由に対する罪を位置づけるのが論理的です。

(1)脅迫罪
 刑法222条 生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は、2年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する(1項)。
 親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者も、前項と同様とする(2項)。

1脅迫の罪の保護法益
 脅迫とは、相手の生命などの法益を侵害することを告知することです。その行為によって、どのような法益が侵害され、危険にさらされるのでしょうか。脅迫とは、畏怖させる(恐怖に陥れる)ことです。それによって侵害され危険にさらされるのは、恐怖ゆえに行使できなくなる自由、すなわち自由に考え、意思決定・意思活動する自由です。

 しかし、意思決定の自由・意思活動の自由を侵害する罪としては、強要罪があります。それは、脅迫して、自由に意思決定すること、自由に意思活動するこを侵害して、権利を行使させなかったり、また義務のない行為を行わせた場合に成立します。そうすると、意思決定の自由・意思活動の自由は、脅迫罪と強要罪によって二重に保護されていることになります。しかし、一つの法益を二重に保護する必要はないので、脅迫罪は意思決定の自由・意思活動の自由とは別の法益を保護する罪として位置づけ直すべきだという議論もあります。例えば、私生活において他者から脅かされずに安全かつ平穏にいられる自由が脅迫罪の保護法益であるととの主張があります。

 強要罪は、脅迫という手段を用いて個別的な意思決定の自由・意思活動の自由を侵害する罪であり、それは個別的な権利の行使の自由、また義務のない行為を行わない自由を侵害する罪(侵害犯)です。脅迫は、一方で強要罪の手段行為として位置づけられながら、他方でそれ自体としても犯罪になる行為と定められています。このような規定の成り立ちを踏まえますと、脅迫罪は意思決定の自由・意思活動の自由に対する「侵害」の一歩手前の「危険」の段階において成立する犯罪ということになりそうです(危険犯)。脅迫罪も強要罪も同じ法益を保護するものですが、脅迫罪はそれを危険にさらした段階で成立する危険犯、強要罪はそれを侵害した段階で成立する侵害犯です。

2行為
 脅迫とは、生命などに害悪を加えることを告知して人を畏怖させる行為です。告知されたことを相手方が認識すれば、実際に畏怖したことは必要ではありません(大判明43・11・15刑録16・1937)。意思決定の自由が侵害されていなくても、それに危険が及んでいる以上、脅迫罪が成立します(危険犯)。このような理解に基づいて、判例は、脅迫にあたる行為が行われれば、ただちに脅迫罪が成立すると解しています(大判大6・11・2刑録23・1195)(抽象的危険犯説)。しかし、被害者が歯牙にもかけなかった、鼻で笑って無視したような場合にまで、脅迫罪が成立するというのは妥当ではありません。意思決定の自由に対する一定の危険が及びうる行為でなければ脅迫罪にはあたらないと思われます(具体的危険犯説)。

 なお、脅迫は、暴行と同様に他の犯罪の手段行為として用いられることがあります。個々の犯罪によって、意思決定の自由・意思活動の自由に対する影響の程度が異なります(強盗罪の場合、被害者の抵抗が不可能になるような脅迫でなければなりません)。

3加害の告知対象(行為客体)と加害の対象
 加害の告知対象は、意思決定と意思活動の自由の主体である人(自然人)です。「法人」もまた告知対象になりうるかについては、判例は否定的です。本罪の保護法益は、意思決定・意思活動の自由なので、その主体たりえない「法人」は行為客体から除外されます(東京高判昭50・7・1刑月7・7=8・765、大阪高判昭61・12・16高刑集39・4・592、高松高判平8・1・25判時1571・148)。ただし、脅迫によって法人の業務が妨害された場合、「人の業務」が妨害されたといえるので、脅迫罪よりも重い威力業務妨害罪(234条)で対応することができます。

加害の対象は、告知対象である被害者本人とその親族です。親族以外の者(恋人や婚約者)に害悪を加える旨を告知しても、親族でないので、脅迫罪は成立しません。ただし、改正刑法草案303条2項は、加害の対象を「親族その他密接な関係にある者」と規定し、脅迫罪の成立範囲を拡大させています。

4告知される害悪の内容
 告知される害悪の内容は、生命、身体、自由、名誉または財産に対する害悪です。過去に生じた害悪ではなく、将来において実現可能な害悪でなければなりません。また、告知者がそれを直接的または間接的に支配・左右し、実現しうるものでなければなりません(最判昭27・7・25刑集6・7・941)。例えば、対立する相手陣営から「出火お見舞い申し上げます火の元にご用心 八月十六日」と書いたハガキが郵送された事案に関して、脅迫罪の成立が認められています(最判昭35・3・18刑集14・4・416)。言葉のニュアンスや脈絡、客観的な状況などから勘案すれば、放火の予告ともとれる内容であったからです。

 内容的に害悪であっても、およそ起こりえないようなものであれば、脅迫にはあたりません。従って、天変地異の告知(丑の刻参りなど)は、相手が畏怖しようとも、そのような迷信を「害の告知」として脅迫罪で裁く必要はありません(迷信犯)。

5権利行使(濫用)と脅迫罪の成否
 告知される害悪の内容について、例えばドイツ刑法では「重罪」と規定されているため、それ以外の害悪を告知しても、脅迫罪は成立しません。日本の刑法の場合も、「生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える」と規定しているので、その解釈としては、殺人罪や傷害罪であると考えることもできます。しかし、通説・判例は、犯罪行為だけに限定していません。例えば、告訴する意思がないないにもかかわらず、相手を畏怖させるために、告訴するぞと述べた事案について、「告訴権の濫用」は脅迫罪にあたると傍論で述べたものがあります(大判大3・12・1刑録20・2303)。

(2)強要罪
 刑法223条 生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対して害を加える旨告知して脅迫し、または暴行を用いて、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者は、3年以下の懲役に処する(1項)。
 親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対して害を加える旨告知して脅迫し、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者も、前項と同様とする(2項)。
 前2項の未遂は、罰する(3項)。

1強要行為
強要罪は、脅迫または暴行用いて、人に義務のない行為を行わせ、または権利の行使を妨害する行為です。実際に、個別的な意思決定の自由を侵害し、自由な意思行動を侵害するところに特徴があります。

2義務のない行為を行わせる
 「人に義務のない行為を行わせる」とは、法的に履行すべき義務のない行為を行わせることです。感情を害する発言をした人に対して、暴行・脅迫を用いて、謝罪状を書かせた場合、法的に謝罪状を書く義務がないならば、強要罪にあたります(大判大15・3・24刑集5・117)。また、13歳の子守の女性を叱責するために、暴行・脅迫を用いて水入りバケツを長時間頭に持たせた場合も、そうしなければならない法的義務はないので、強要罪が成立します(大判大8・6・30刑録25・820)。

 法的義務を履行させるために、暴行・脅迫を用いた場合、義務の履行を求めるのは、権利の行使であり、強要罪にはあたりません。ただし、その手段につき、脅迫罪が成立する可能性はあります。

3権利の行使を妨害する
 「権利の行使を妨害する」とは、法律によって保障されている権利はもちろん、法的保護を受ける個人の自由の行使を妨害することをいいます。例えば、「代金を払わなければ法的手続をとるぞ」と催促されたのに対して、「お前の店は~~の問題があるようだから、新聞に書くぞ」と告げて、法的手続を中止させた場合、強要罪の成立を認めた判例があります(大判昭7・7・20刑集11・1104)。動物の品質・技能を競う競技大会へ出場する自由もまた「権利」にあたります(岡山地判昭43・4・20下刑集10・4・416)。

4未遂と罪数
 脅迫したつもりが、それが被害者に伝わっていなかった場合は、脅迫それ自体が行われていないので、強要罪の実行の着手は否定されます。暴行・脅迫を加えたが、義務のない行為を行わせるに至らなかったなら、強要未遂です(大判昭7・3・17刑集11・437)。義務のない行為を行わせても、それが暴行・脅迫との因果関係がない場合もまた強要未遂です。