第432話 さらば将軍!
俺はできる限り魔力を抑え、手のひらに“闇”を集中させた。
これを使うのは久しぶりだな。
街が無事であるといいんだが、ルキウス相手ではこれしかないだろう。
「ちょ、サトル。その構えは……まさか!」
メサイアも気づいたようで、煎餅をポロリと地面に落としていた。
更にベルも「こりゃマズイね」と巨大盾を取り出し、みんなを守る姿勢に。それでいい。
火力を控えめにするとはいえ、このスキルは爆発的な力を持つ。
「なんだ……? なにをする気だ!」
「吹き飛べ……イベントホライゾン!!」
右手から莫大な量の“闇”が放出され、それは瞬く間にルキウスに激突した。
「な、なんだこりゃああああああああああああ…………!!」
全てが闇夜に染まるように深淵がルキウスを飲み込み――吹き飛ばす。
元々は闇の勇者ユメの必殺スキルだが、俺も会得した。ただし、これ一発で魔力を全て持っていかれるのが玉に瑕だ。
けれど、ルキウスの気配は掻き消えた。
どうやらぶっ飛ばしたようだな。
「……や、やったのね!」
「ああ、メサイア。ヤツの気配はない」
やった~! とリースとベルも交えて喜ぶが……誰か忘れている。
あ……!
フォルがどっか行ったままだ!
探さないとなぁ……心配だ。
◆
賢者の街・ギンヌンガガプは、将軍ルキウスを失い――兵たちも士気がどん底に。
ほぼ投降というか、武器を捨ててしまった。
貧民街の人たちは一気に駐屯地を制圧。
もはや革命が起きてしまい、街は大混乱に。
そして、俺たちは感謝されたのである。
「ありがとうございました、サトルさん」
貧民街にいた、あのおっちゃんが代表して頭を下げていた。娘も無事だ。みんなもね。
「いや、いいんだよ。そもそも、食べ物もロクにないってのがおかしいんだよ。これからは、みんなで協力して良い街にするんだぞ」
「はいっ、本当にありがとうございます! あなたは神様みたいな人ですね! まるで神王アルクトゥルス様のようです……!」
その通り、俺は『アルクトゥルス』なんだけど、ナイショにしておいた。正体をバラしても余計な混乱を招くというか、崇め奉られるというか。それはそれで居心地が悪いので遠慮しておいた。
「よくやったね、理くん」
珍しくベルから頭をナデナデされた。
うむ……悪くないな!
「そうだ。この街の空いている土地に畑を作ってやろう」
すっかり忘れていたが、俺には『農業スキル』がある。
このスキルを活かして畑を耕してやろうと思ったのだ。
さっそくサクっと畑を作った。
ジャガイモの種をかなり撒いてやった。
これで食糧難は回避できるはず。
「なにからなにまで……本当に感謝します」
「おっちゃん。娘さんを大事にな」
「はい! またギンヌンガガプにいらしてください」
「おうよ! じゃ、これで『ケントゥリア』を登ってもいいんだよな?」
「もちろんです! 将軍がいなくなった以上は、問題なく通れます。ただし……」
おっちゃんは険しい顔になっていた。
「ただし?」
「ケントゥリアは、とても危険です。一応、ダンジョンとなりますので……防寒装備はしっかりと。それと食料も」
そうだな、山を舐めたらアカンと昔亡くなった爺ちゃんが言っていたっけな。
まだ日本にいた頃に俺は唯一、富士登山だけはしたことがあった。シンドすぎて懲りたけどね。
「分かったよ。じゃあ、この街で買い出ししていくよ」
「それがいいでしょう。この辺りのお店なら色々売っているはずです」
おっちゃんと別れ、俺たちはお店へ向かった。
フォルよ、もう少し待ってくれ!
あと少ししたら探しに行ってやるからな。
防寒着やら冬装備をそろえまくった。
ラッキーなことに、このギンヌンガガプには貴族向けのアイテムショップがあった。高級アイテムばかりが取り揃えてあり、おかげで品質のよいアイテムを入手できた。
「見てみて、サトル。わたしの服~!」
おぉ、メサイアは黒いマウンテンパーカーに身を包んでいた。暖かそうだな。リースは、ウサギのような刺繍が入った緑のマフラーを追加。あれで十分暖かいらしい。
ベルはそのままビキニアーマー。
――って、寒いだろうに!
そういえば、山の麓にある拠点に滞在していた時も平然としていたな。
「ベル、お前はなにか防寒しなくていいんか?」
「いやぁ、わたしって寒暖差にニブイいんだよね。聖者だからかな?」
俺に聞かれても困る。という俺も、そこまで暑いだとか寒いだとか気にならない方なんだけどね。神様属性だからだろうか。
まあいい、アイテムは十分そろった。
ギンヌンガガプを離れ、フォルを探しにいく!