カバーとANYCOLOR、盛況「フェス」でついた意外な明暗

収入増が続く一方で採算は…
2024/03/28 08:00
幕張メッセで開かれたホロライブのフェス
幕張メッセで3月中旬に開かれたホロライブプロダクションの大規模フェス。前年の倍近い来場者数を記録した(写真:記者撮影)

今や日本のエンタメ業界の牽引役となったVチューバーの勢いは、どこまで続くのか。

Vチューバー事務所「ホロライブプロダクション」を運営するカバー

5253)は3月16日から17日にかけて、幕張メッセ(千葉市)で大規模なエキスポ・フェスを同時開催した。チケット販売をベースにした来場者数は2日間で8.6万人超におよび、前年の約4.5万人を倍近く更新した。

同イベントの関連収入として、カバーは前2023年3月期に約18億円を計上した。今期はそれをはるかに上回る売り上げ貢献が期待されている。

会場には、遠方からの旅行客とみられる参加者も数多く見られた。中でも目立っていたのが、外国人ファンの多さだ。アジア圏に限らず、アメリカやブラジルからの参加者の姿もあった。

海外のアニメ人気がVチューバーに波及

「2020年頃からホロライブの配信を見ており、仕事の前後などで週2回程度視聴する」。日本で働くアメリカ人のデービッドさん(30)は、ホロライブの動画視聴が習慣になっているという。

幕張メッセで開かれたホロライブのフェスの様子
ホロライブのフェス会場では、参加者の長蛇の列が。外国人客の姿も目立った(写真:記者撮影)

デービッドさんに限らず、海外のVチューバーファンの多くは、日本アニメのファンでもあるという点で共通する。旅行で来日したインド人のサヒルさんは、1週間後に開催されるアニメイベント「Anime Japan 2024」にも参加する予定だったが、そちらは「チケットが買えなかった」と残念がった。

「7年前からアニメを見ていたが、この2年ほどでVチューバーのファンにもなった」というサヒルさん。ユーチューブの「切り抜き動画」を中心に、日本語を話すVチューバーの動画も視聴しており、日本語を少しずつ理解できるようになった。

海外でのアニメ人気拡大の影響が、Vチューバー業界にも波及している様子が見て取れる。

外国人の多さに加えて、衝撃的だったのはグッズ販売の盛り上がりだ。

会場内にはグッズ販売専用の巨大エリアが設けられ、グッズを買い求めるファンが長蛇の列を作っていた。応援するVチューバーのぬいぐるみを買いそろえたり、大量の缶バッジでリュックを装飾したりする「推し活」が、こうした購買力を強力に下支えしている。

Vチューバーの推し活グッズ
ファンの「推し活」がフェスの関連収入を押し上げている(写真:記者撮影)

異様な盛り上がりを見せるVチューバー業界。しかし、ここに来て不安材料も見え始めている。

カバーの競合で、Vチューバー事務所「にじさんじ」を運営するANYCOLOR

5032)は3月14日、2024年4月期の第3四半期累計(2023年5月〜2024年1月)決算を発表した。グッズ販売の拡大を軸に、売上高・営業利益ともに前年同期比で約20%の成長となった。

ところが発表翌日、同社の株価はストップ安水準にまで急落した。第3四半期の累計決算は増収増益だった一方、直近四半期(2023年11月~2024年1月)だけで見ると、売上高は前年同期比4.7%増、営業利益は同20.1%減に落ち込んでいた。これまで急速に成長してきただけに、市場の高い期待を下回ったとみられる。

昨年末のフェスでは赤字が拡大

直近の業績が伸び悩んだ要因の1つとなったのが、昨年12月に2日間開催された「にじさんじフェス」だ。会社の説明によれば、フェスによる収入自体は前年と比べ5割近く増加したものの、「関連費用の想定以上の上振れ」によって赤字が拡大し、全社の営業利益率の低下を招いたようだ。

もともとANYCOLORは、利益率の高いグッズ販売やプロモーションで先行してきた。前期実績では売上高に占めるグッズ販売とプロモーションの割合は、カバーが52.2%であるのに対し、ANYCOLORは72%だった。結果的に営業利益率でも、カバーが16.7%、ANYCOLORが37.1%と、倍以上も差が開いている。

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会社四季報オンラインの銘柄ページでは、複数の項目でライバル銘柄との比較ができます(画像はカバーのライバル比較

ある業界関係者は「通常の営業利益率が40%近い水準にまで上がっているANYCOLORにとっては、コストがかかるフェスの規模が大きくなるほど、利益率が下がってしまうのだろう」と指摘する。その点、カバーはフェスの開催が収益性にマイナス影響を与える可能性は相対的に低いといえる。

フェスの採算悪化以上に、今回の決算で不安視されたのが、英語圏向けのVチューバーグループ「NIJISANJI EN」の苦戦だ。前期のNIJISANJI ENの全社売上高に占める割合は25%に達し、この先会社の成長を牽引すると期待されていた。しかし、直近の売上高は前年同期比で24.6%の減収となっており、収益柱であるグッズ販売が落ち込んでいる。

ANYCOLORの釣井慎也CFO(最高財務責任者)は3月14日に開いた決算説明会で、前期に「特定商材が非常によく売れたこと」の反動が減収の一因としつつも、「NIJISANJI ENは少し課題がある。成長に向けての安定的な事業体制の構築が必要だ」と述べた。

会社によれば、研修などの体制構築が追いついておらず、新規Vチューバーのデビューが遅れている状況にあるという。今後は中長期で活躍できるVチューバーを輩出するために「スケジュールの遅延やコンプライアンスの課題が起きないような体制作りを進めていく」(田角陸代表)。

NIJISANJI ENの業績推移

NIJISANJI ENをめぐっては、今年に入って“炎上事態”も起きている。ANYCOLORは2月、NIJISANJI ENに所属していたVチューバー「セレン龍月」について、「度重なる契約違反とSNS上での誤解を招く虚偽の言動」を理由に契約解除に踏み切った。

しかし、契約解除を発表したIR資料上での「当社業績に与える影響は極めて軽微(negligible)であります」という記載に、海外のファンから批判が殺到。後日、同社の田角代表がユーチューブ上で英語での謝罪動画を投稿する事態にまで発展した。

「推し活」はファン、Vチューバー、事務所の絶妙な信頼関係の下に成立しているだけに、こうした水を差すような事態は今後の活動に影響を及ぼしかねない。

決算説明会ではこの「炎上」の影響についても質問が上がった。田角代表は「予定していたコンテンツの提供の延期が発生している」と明かしたうえで、「今後、NIJISANJI EN全体を盛り上げていくような施策をしっかりと展開していくことで、ファンとの信頼関係を再構築していく」と強調した。

カバーとの差が急速に縮まる

2022年に上場したANYCOLORの時価総額は、その翌年に上場したカバーと比べて一時は2倍近い規模にあったものの、今回の株価急落を受けて急速にその差が縮まってきている。いよいよ業界内での競争が激化するフェーズに突入したのかもしれない。

苦戦するANYCOLORを横目に、カバーはさらなる海外展開拡大に踏み切っている。3月12日には、同社初の海外拠点をアメリカに設立すると発表した。

説明会に登壇した谷郷元昭社長は「北米エリアにはMD(グッズ販売)収益やライセンス契約のポテンシャルがあり、今後の収益規模拡大が期待できる」と意気込んだ。同拠点では、現地のニーズにあったコンテンツ開発や、現地企業とのタイアップなどを進めていく計画だ。

急成長が続くVチューバー事務所は今後も株式市場の高い期待に応えられるのか。大きなポテンシャルを持つ海外市場開拓の成否がカギを握っている。

(本記事は「東洋経済オンライン」にも掲載しています)

(東洋経済 記者)

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