ニンジャヘッズ・ウィズ・タイマニン   作:Schuld

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ニンジャヘッズ・ウィズ・タイマニン・ウィル・マゾクスレイヤー・ゲット・マリード? 3

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 「ドーモ、五車学園の皆さん。臨時カラテ・メンターの藤木戸・健二です」

 

 愛用のジューウェアを纏い、黒帯をキッチリ締めた藤木戸はメンポだけは身に付けたままの珍妙な出で立ちで、数十名の五車学園高等部一年生達にアイサツをした。

 

 返って来るのは、よろしくお願いしますという普通のそれであるが、藤木戸は別にもうシツレイだとは感じなかった。

 

 井河ニンジャ・クランは一風変わったニンジャの集団なのだろうと慣れているのだ。

 

 「急だが……まぁ、知らん者はおらんだろう。あの動画を見た者も多かろう……というより、全員見たか」

 

 その隣でジャージを纏っているのは、五車学園の演習・シミュレーション戦術担当教官に就任した八津・紫であった。彼女は教育実習も行っていたので一年生達とは既に顔見知りであるため、これといって名乗ることなく隣の珍妙なニンジャを手で示した。

 

 「今回対魔忍に復帰し、徒手格闘インストラクターに就任することになった藤木戸先生だ。人生の芸風がかなり違うが気にしないように。いいか、真似するなよ? 重ねて言うが真似をしようとするなよ」

 

 これまた謎な注意をしながら、紫は五車学園の体育館、板張りの基本的な修練場の各所に配置された蝋燭に火を付けて回る。

 

 「といっても、跳ねっ返りの貴様らには、この男の法外さがイマイチ理解できんだろうから、教えを授かるに値するニンジャだということをデモンストレーションしてもらう」

 

 「……聞いてないのだが?」

 

 「お前は下忍時代、最初の授業で生徒全員に掛かって来いと挑発し、乱闘して半数以上を早退させただろう。同じことをやられては困る」

 

 ポストアサギとも称されるようになった、対魔忍の中ではほぼ不死身と言って良いズンビーめいた再生力を持つ彼女は、ライターで修練場の方々に設置された蝋燭に火を灯し終えると、端的に問うた。

 

 「何秒だ?」

 

 「……まぁ、2.5、いや、2秒だ」

 

 「ならやって見せろ」

 

 「よかろう」

 

 挑発的に笑う紫に藤木戸もメンポの下で応え、何が始まるのだと軽くザワついている生徒達を余所に腰を落とした。

 

 「イヤーッ!!」

 

 そして、色付きの風としか認識できぬ、尋常ならざる速度の赤黒い影が体育館を瞬く間に駆け抜ける。

 

 読者の中にニンジャ動体視力の持ち主はいらっしゃるだろうか。

 

 さすれば分かっただろう。藤木戸がチョップで、ケリで、そして様々な徒手格闘技で蝋燭の芯だけを叩っ切って鎮火していくのを!

 

 胸の高さの蝋燭台総計四五本。それらを一つたりとて倒すことはおろか、揺らすことなく、巻き起こす風ではなくカラテで芯を両断して火を消していく姿を視認できた生徒は皆無! 皆、瞬きを終えたと同時に蝋燭が細い名残を立てて消えていることに瞠目した!!

 

 そして、カラテに精通する一部の生徒は戦慄する! そう、用意された蝋燭の数は生徒の数と同じ!! もしここれを狙ったのが自分の首であったならば、この修練場はツキジめいた惨状を晒していたであろうことに!!

 

 「1.98秒……宣言通りか、つまらん」

 

 「先に勝負をふっかけたのはオヌシだ。昼の学食は奢ってもらう」

 

 「クッ……」

 

 紫が少し悔しそうに舌打ちをすると同時、全ての蝋燭に再び火が灯った!

 

 藤木戸は本当に際の際を斬り飛ばしたため、僅かに残った余熱で再燃したのである!!

 

 「まぁいい。ともかく、貴様らの中には自らの忍術を誇りに思っている者もいるだろうが、世の中にはこれだけ素早い対魔忍も存在する」

 

 「アサギ=サンには負けるがな」

 

 「当たり前だ! ただ、どうあれお前達の未熟な術が発動するより前に、何の訳もなく首を飛ばす妙手がこの世にいることを忘れるな。己の忍術に傲ると、こういった手合いに何もさせて貰えず殺されるぞ」

 

 故に体を鍛えろ。身体能力は全ての基礎だと強弁し、紫は生徒達にアップとして無音での修練場ランニング百週を生徒達に言い渡した。

 

 これは五車の里に伝わるニンジャ・インストラクションの一つで、一切の音を立てず走る鍛錬であり、衣擦れ一つ発した瞬間に百週をやり直すキビシイ目標が設定されている。とはいえ、中等部から繰り上がった者達は慣れているので、恙なく終わることであろう。

 

 「ノーカラテ・ノーニンジャ。さて、どれだけ浸透してくれるか」

 

 「実際に手刀を叩き込んで回るよりは効率も良いだろうさ。学生相手なら派手なデモンストレーションの方が印象に残る」

 

 「しかし、動かぬロウソクの芯を斬ったところでな」

 

 カラテの足しどころか、何の自慢にもならぬと体育館の壁に背を預けた藤木戸に、紫は分かっていると言った。

 

 「最初は動かぬ巻き藁から始めるものだろう。あまり高度な物を見せても、目がついていかない」

 

 「ムギ=サンのように適度に加減しながら日に十回ほどハンゴロシにすれば、加速度的に目がよくなるのだがな」

 

 「それに反比例して生気が抜けていっただろうが。お前の訓練だけで一日使い物にならなくされては、他の教諭が困るんだ」

 

 「ヌゥー」

 

 そう指摘されて納得しつつも、藤木戸的には「なら自分は大勢相手のメンターに向いてないのでは?」と至極当然のことを思ったが、アサギからの頼みなので簡単に諦めるのではなく、ちゃんとしたカリキュラムを組むことにした。

 

 基本的に殴り倒して身の程を教え、限界を引き出す方が成長も早いのだが、彼等は五車の対魔忍候補。基礎鍛錬の時間以外にもジツ鍛錬の講座もあれば、連携訓練や座学もあるため午前中で一クラス使い物にならないようにされては、他の教師からクレームが来る。

 

 それに、中にはもう課外訓練での実戦演習が入っている生徒もいるのだ。予定を大いに狂わされては困るとばかりに紫はしっかりと新任メンターに釘を刺すのであった。

 

 「それと、お前には落伍しそうな生徒の補佐も頼みたいんだ。アサギ様が望んでおられるのは、五車全体の地力強化だからな」

 

 「そうなると基礎訓練重点としか言えぬ故、俺が出るまでもなさそうなのだがな」

 

 藤木戸はてっきり、学生時代の麦のようにジツが使えない生徒にカラテを骨の髄まで叩き込んで、カラテマシーンに転生させればよいのかと考えていたが、どうやらコトはそう簡単ではないらしい。

 

 ジツ頼りでカラテが疎かな生徒、そもそもの対魔粒子量が少なくて落伍寸前の生徒、ジツがまだ目覚める兆候がない生徒などを腐らせぬため、最初からそこそこ優秀な者は伸びるに任せて下の方を増強させたいようだった。

 

 まぁ、やってやれないこともないか、と頭の中でインストラクションを組み立てる藤木戸に対し、紫は少しモジモジした後に問うた。

 

 「なぁ、その……貴様は厳密にはアサギ様の何なのだ?」

 

 「……? 幼馴染みだが?」

 

 「そんなことは知っている。だが、井河傍流ということは、ホラ、血縁があるんだろう? 存外と近かったりするのか?」

 

 八津家は外様の下忍家系であることもあって、あまり里内に権力がある訳ではない。紫がポストアサギと囁かれるようになったのは、その尋常ならざるカラテと再生能力による任務達成率の高さからであって、実際は里内の政治には疎かった。

 

 故に藤木戸がアサギと、如何なる血縁関係なのか知らなかったのである。

 

 「俺は傍流だ。分家ですらない。つまり単純な血の濃さで言えば従兄弟の再従兄弟くらいだな」

 

 「……そうか、ほぼ他人か……。なら、お前と結婚してもアサギ様の妹にはなれないのだな……」

 

 はぁ、と嘆息する紫に、藤木戸は素で今なんて? と問い返した。

 

 「いや、幼い頃のアサギ様、そのお遊び相手に選ばれたということは意外と血が近いのではないかと期待しただけだ。そうすれば、もしかしたらアサギ様の妹になる幼少期の夢が叶うのではないかとな」

 

 「オヌシは何を言っているんだ? 何か良くないものでもキメたのか? オハギでもダースで食ったか?」

 

 「なに、叶わぬ淡い夢だ。忘れてくれ」

 

 当人は切なげに空を見上げてカンショウたっぷりの表情を浮かべているが、藤木戸からすると、完全に発言が狂人のそれであるため忘れようがなかった。

 

 よもやこの女、藤木戸がアサギと血が近かったらアサギの妹になるという、狂的な夢が実現するという一縷の望みを抱いて今の話を切り出したのではなかろうな。己も割とファナティックなところがあることを自認している藤木戸なれど、自分より一等イカレた狂人がいると思うと一歩引かざるを得なかった。

 

 「……いや、待てよ?」

 

 しかし、血縁関係は無理でも義理の関係ならばと思い至った紫の脳内UNIXが狂ったコードを吐き出し始める。

 

 「おい、嫌な予感がする。止めろ、聞きたくない。その狂った考えをすぐに止めろ」

 

 藤木戸はそれを止めようとしたが、顎に手を添えて自分の世界に入った彼女のニューロンは、よろしくないスパークを止めなかった。

 

 「お前が井河家に養子に入って、結婚すれば自動的に私はアサギ様と義理の姉妹ということに……」

 

 「誰の養子になれというのだ。シュゼン=サン、つまりアサギ=サンの父はとっくに鬼籍だから養子になりようがないぞ」

 

 「なら百歩譲ってお前とさくらが結婚して、その義理の娘になれば私はアサギ様のッ姪っ子……?」

 

 さして年齢の変わらぬ娘なんぞ御免被る! と発狂マニアックも裸足で退散しそうな発想をする狂人に藤木戸は二歩後ずさった。

 

 コイツは真顔で一体何を宣っているのだろうか。

 

 よしんばさくらと藤木戸が結婚したとして、紫を養子にするのは絶対に嫌がるだろう。自分と同年代の娘ができるなど発狂物だ。

 

 しかもそれが、憧れのアサギが妹にならんがためという、バリキかシャカリキをダース単位でもキメるか、重度の血中アンコ汚染でも引き起こしていないと捻り出せない発想に基づいているのであれば、さしものさくらも友人だろうが何だろうが紫の謀殺を真剣に考え出しかねない。

 

 とりあえず倫理的に、法的に不可能であることを懇々と説くことで発狂した野望は何とか食い止めたが、藤木戸は今後一切、紫からドン引きされてもお前には何も言う権利はないと言い返すことに決めた…………。

 

 




オハヨ!!

ムラサキ=サンの執着は変態を通り越してアイエエエ……狂人……と思う時がたまにあります。

作者は起きる時間にムラがあるから、Twitterを決断的にフォローしてくれると更新が分かりやすいですぞ。備えよう。
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