TS騎士の誓いと周囲の思うところ
不慮の出来事でTSしてしまったがいろいろ思うところがある中で誓いを胸に刻みますが、なんやかんや周囲も思うところがある、という感じの話です。
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自分、カイルは割と恵まれていると思っていた。
確かに生まれはしがない人口数十人程度の開拓村で、幼い時に流行り病で自分以外の家族も村人も全員が死んでしまった。
だがほどなくして領主のグレゴリー様が自分の事を拾ってくれて、おかげで不自由なく生活できた。
無論農民として産まれたゆえに働かざるもの食うべからずの精神が染みついていて、タダ飯を受けるわけにはいかなかったので屋敷では家事手伝い、馬の世話、護衛のために戦闘訓練もさせてもらった。
さらには勉学まで受けさせてくれた。グレゴリー様曰く「教養は大事だから」との事で。
グレゴリー様には子供がなく周囲は大人ばかりであったものの、皆がやさしくしてくれたので自分は恵まれていると思った。
成長したら体格にも恵まれ、領地の護衛にも適任であるし、勉学が役に立ち領主としての仕事の手伝いもするようになった。
自分としては恵まれた環境に感謝し、拾ってくれた恩を返すため懸命に働いた。
そうした中での出来事だった。
グレゴリー様の領地から馬で数日ほど離れた場所にグレゴリー様の甥であるピエール様が治める領地がある。
子供のいないグレゴリー様の数少ない血縁であり、グレゴリー様が管轄する開拓地を一部委任する形で治めている。
ここ最近自分はそのピエール様の領地を往復することが多かった。グレゴリー様から預かった書簡を届けるという役目であるが。
その日も数日かけて移動し、日が傾き始めていたころに屋敷が見えてきたのだが……
その屋敷が、魔物に襲撃されていた。
遠目で領地に所属する護衛の兵士がその対処に当たっているのがわかるが、その戦線は明らかに乱れている。
魔物一体一体はそれほどの脅威ではないが、数に圧倒されて対処しきれていない。
護衛兵一人一人も混乱のためか士気が低下している。領地に勤める護衛兵はそれほど多くなかったはずだからあれでは崩壊も時間の問題だろう。
自分は危機を察し、馬を素早く走らせる。そのまま戦線に突っ込み、馬から飛び降り剣をふるう。
やはり近くで見ると魔物一体一体は決して強いものではない。数は多いが自分一人でも対処できる程度だ。
もしかしてこの領地の護衛兵は訓練不足ではないか? 後で部隊長にはそれとなく申し出ておくとしよう。
こうして一体一体潰していき、確実に数を減らしていく魔物たち。
脅威が落ち着いたと見えて自分も護衛兵たちも気を緩めてしまった、それがまずかった。
自分は、触手に捕まってしまった。
小物の魔物しかいないと思い込んでしまっていたのも悪かった。大型の、植物系の魔物が姿を現したのだった。
完全に油断していた。剣をふるってその触手を切り落として逃れようとしたが、それより早くそいつの触手が自分の体を封じてしまった。
他兵士たち援護を、と思ったが負傷している護衛兵が多くこのままでは自分同様に捕食されてしまう。
触手の魔物が自分を鹵獲してそのまま接近して、そして……そこで記憶が途切れた。
しばらくして意識を取り戻した。領地の護衛兵が、どうやら護衛長らしいが、自分の頬を叩いて目を覚まさせてくれたようで。
周囲を見渡せば夜が明けており、自分は魔物との戦闘を行っていた場所から多少屋敷から離れた場所にいた。
捕食されそうになってからリ記憶がないが、どうやら命は助かったようだ。あんな魔物に襲われ捕食されそうになって助かったとは、自分は本当に恵まれているな。
と思ったが、何かおかしい。体を起こそうとしたら、体感がおかしい。
ふと下を見たら、魔物に襲われたせいで鎧が壊れており、ほぼ裸の状態だったのだが、それよりも……胸が異様にふくれていた。
いやこれはふくれていたというかなんというか、女性の、乳房?
むくりと立ち上がる。多少ふらつくが、これは体の重心がずれているのか?
胸が異様に重い。それもだが腕や足の感覚が違う。肩幅が狭くなってわずかに腕が細くなり、一方で下半身が重くなっている?
それと、股間が落ち着かない。存在感がない。確認のため触れてみる……無い。
一応自分を起こしてくれた隣にいる顔を赤くした護衛長にたずねてみる。自分はどうなっているか? と。
そしたら……「女になってますね」、と。
その後知った話だが、植物系の触手の魔物が男を襲って女にしてしまう、などと言う噂があったそうだ。
まさかそんな噂が真実になってしまうとは恐ろしいものだ。そして自分がそのせいで女になってしまうとは。
それよりも魔物襲撃の被害だ。護衛長によると突然大量の魔物が屋敷を襲ったらしい。
その襲撃でこの地の領主であるピエール様とその奥様が亡くなったと。どうやら魔物襲撃の際に領主がいの一番に出ていき妻もまた補佐として出て行って魔物と対峙したらしいが、力及ばずだったそうで。
無念極まりない。
残されたのはその息子、エリック様。
この領地とは自分は往復していたので当然顔も知っている。グレゴリー様を慕い、訪ねると自分にもよく稽古を求めていた。
明るい気さくな少年だが、今は突然の両親の死に戸惑いを隠せていない様子。あまりにも突然すぎて泣くことすらできないようだ。終始うつむいて静かにしている。
しかし領主がいなくなったとあればここは機能しない。早いところ代行でも領主を手配しなければならないだろう。
そうすると元々この地は委任する形であるゆえに、グレゴリー様が管轄するのが妥当だろう。
いずれにしても早く事を報告しなければ。
そうすると今のこの地の状況には不安がある。
護衛兵の状態は負傷しているものが少なくなく、ましてや大量の魔物襲撃の原因も不明。そうすると再び大量襲撃がありうる。
今回は屋敷が破壊されたのみだったが、領民に被害があっては問題だ。なによりも残されたエリック様の身の安全もある。
それらを総合的に勘案し、護衛長と相談の上、一度自分がエリック様を連れてグレゴリー様の元に戻る、ということになった。
両親が亡くなっているのだから療養の必要はある。それにはここにいるよりはグレゴリー様の方が充実しているだろう、との判断もある。
少々あわただしい帰路であるが、準備でき次第出発となった。
触手の魔物によって破壊された装備を何とか修繕して使えるようにする。剣は無事だったが、鎧は損壊が大きい。グレゴリー様からいただいた鎧を損壊してしまうとは、無念でならない。
少々心もとないが、ないよりはマシない程度に修繕して再利用することにする。
一方のエリック様はいまだ静かで、あまり話をしようとしない。
自分からも話しかけてはいるが、やはり今回の突然の出来事に戸惑いは大きいのだろう。
エリック様はまだ乗馬ができないとの事で、自分の馬に二人で乗っての移動だ。
馬車があればよかったのだが、かの襲撃で動かすことができなくなってしまってはどうにもならない。エリック様を前に乗せて馬を操ることにしよう。
多少の不安を抱えつつも、自分とエリック様はこの地を発った。
それにしても、胸が邪魔だな。
この節は誠に申し訳ございませんマジで本当に。
突然の魔物の襲撃に皆パニックになりましたけど、あれ本当にウチのバカな両親のせいなのですよええ。
僕、エリックの両親はグレゴリー叔父様から領地をちょっと分けてもらって調子に乗っていたんでしょうねぇ。
「俺は領主だー」なんて馬鹿みたいに散々しておりましたし。いやちょっと分けてもらっただけでしょそんな贅沢する余裕ないでしょ家系が火の車になるんですけどってレベルで。
そんなバカな父親に輪をかけて母も「領主の妻なんだから贅沢だー」な感じで数々の品々お取り寄せしまくってましたし。
いやいくらかかると思っているんですか輸送費、マジでそんな金ねーですってば、な感じで。
そのせいでグレゴリー叔父さん激おこですよ? 毎回カイルさんが持ってきた書簡、アレには「いい加減にしろバカ甥が」って感じの内容だったし。
それに対して父は「うるせーなあの叔父は」な具合でして。もう頭が痛い。
僕はそんな両親を反面教師として、絶対にああはなるまいと叔父にあれやこれやと助けを求め恩師として学を学び、カイルさんにも稽古をつけてもらっていつ家出してもいいように備えておりました。
それがまあ、計画実行よりも先に両親の自爆ですよ。
その日はめっちゃ酒飲んで泥酔しておりまして、何を考えていたのか「俺は領主だ強いんだー」などと言いだしていきなり魔物寄せの笛吹いちゃって。
あれ、緊急避難的な呼子なアイテムなんですけどそいつを屋敷で吹いたんですよ。当然魔物来ますよねぇそりゃ。
護衛兵の皆様、カイルさん、何者かが領主を狙って、と推測されているようですが、本当は自分でやったのです、はい。
で、酔った勢いで魔物の前に出て「俺が相手してやるー」などと絶叫しながら単身突撃、結果自爆ですよ。
で、母も母で一緒に飲んで酔っていたらしく「カッコいい姿を近くでー」などと言いながらソッチも魔物の群れに突っ込んで、お仲間入りです。
ええもう、そんな感じのろくでもない親でしたのでぶっちゃけ悲しみはあんまないです。
なにせ僕にもモラハラ的な事繰り返していましたからねぇ。失礼ながらセーセーしておりまして。
むしろ魔物襲撃によって損壊してしまった屋敷と、負傷してしまった護衛兵の皆様に本当に申し訳なくて。幸いにして領民というか開拓村ですので開拓民の皆様に被害が及んでなかったのが本当に救いでして。
ちなみに領民からはウチの両親、嫌われております。まあお察しください。
そして一番の被害者はカイルさんですよねぇ。まさか噂には聞いていた触手の魔物がこんなところに実際にいたとは。
ええ、当人は覚えていないようでしたが、僕は物陰に隠れてバッチリ見てしまいました。カイルさんが、触手にやられて、アレな光景を。
その後僕は護衛長に保護されたので最後までは見ておりませんで、護衛長もカイルさんを見失ったとは言っておりましたがさて本当かどうか。
とにかく戻ってきたカイルさんは、女性になっておりまして。
ええもう、デカかったです。色々と。スイカですかそれ。
装備破壊されたらしくて裸も同然の姿でして。すごかったです。しかもめっちゃ美人になっているんですけど。どういうことぉ?
そんな自分の事なんてお構いなしにカイルさん僕を気遣って話しかけてくださいまして、本当にいい人だなぁ。
一応両親失ったって事ですから気を使ってくださったのですけど、ちょっと目を合わせられなかったです。
何故って、見えちゃダメなところ見えちゃってまして。お構いなしに女性としてダメなところ見えちゃってまして、お願いだから前隠してください自分の方を気を使ってください。
そうしてあれやこれやと話が進みまして、僕は一旦グレゴリー叔父さんのところに行くことになりました。
両親の不届きで大変な事になって申し訳なさから黙っていたら僕が落ち込んでると思って療養が必要と思ったそうで。
いや本当に申し訳ない。まあ確かに療養は必要だとは自分でも思いますよいろんな意味で。
どっちにしても屋敷が破壊されてしまったのでそのままここにいるってのも難しいし、事の経過をグレゴリー叔父さんには説明しないといけないし。
うーん、どう説明したものか。悩むわ本当に。
てな感じで僕はカイルさんと共にグレゴリー叔父さんのところに行くわけで……あれ? もしかして二人っきり?
てかカイルさんなんですかそのいで立ちは。露出多くないですか? 何ですかそのけしからん鎧は……って壊れた鎧を無理やり使えるように直したのか。それはもう仕方ないね、仕方ないですよね、うん。
不安を感じつつも出立した僕らであります。ただ乗馬ちゃんと練習しておけばよかったわ本当に。二人乗りってのも、ねぇ?
だってその、馬が進んで上下するたびに後ろに当たるんですよ。大きいのが、すごい勢いでぷるんぷるんって。
えっと、やわらかかったです。
グレゴリー様の屋敷へは道中馬で移動して数日はかかる。
途中の宿場町に寄るのが普通だが、どうしても場所によっては野宿になってしまう。
旅慣れていないし、ましてや両親を失って傷心のエリック様に野宿させるのは多少不安があるが、仕方あるまい。
馬車があればまだマシだったが、いかんせんあの魔物の襲撃の際に損壊して動かせないのであればどうにもならない。
そうして馬を休ませ、水辺での野宿の準備をする。道中の体の汚れを洗い流すためにまずは沐浴としよう。
体の汚れを落としておかないと感染症にかかってしまう確率が上がると学んでいるため、野宿でも体を清潔にする習慣を自分は徹底していた。
なにせ身内を流行り病で亡くしているからな、病のや感染症の危険は痛いほどわかっていた。
エリック様にも身を綺麗にするよう勧めるが、やはり気落ちしているためか応じてくれず、木陰で座ってうつむいていた。
食事には応じて礼を言ってくれるようにはなったのはいいが、微妙に距離を感じる。どうやらまだ難しそうだ。
道中もあまり気分がよさそうではなかったからな。乗馬に慣れていないから調子が悪くなったのもあるだろうか。
ましてや今は自分以外いない二人での旅。不安も大きいだろうし。
そんな中、異変を察した。この気配は、魔物!?
自分はとっさに水から上がりエリック様のもとに駆け寄って、その身を引き寄せる。
そして改めて周囲を確認。魔物の存在をこの目で索敵する。
いた、木の陰にいたのはゴブリン。数は……5体。
自分は剣を取り、素早く近づき、一撃で仕留める。一振りで3体仕留め、返す刀で残りの2体を一気に仕留める。
他に魔物の気配は……ないか。もう安全だろう。
とはいえ血の匂いを嗅ぎつけて他の魔物を呼び寄せては大変だからさっさとゴブリンの死体は取るものとって埋めてしまわないと。
問題はないですよ大丈夫ですよ、とエリック様に話そうと振り返ったら……エリック様!?
ど、どうされたのですかどうにも様子が……血!?
エリック様出血されています! 他に魔物の気配はなかったが、いつの間に魔物からの攻撃が!?
不覚っ。今止血しますので落ち着いて気を確かにっっ!!
馬に揺られ、背中からの乳揺れに当てられ、いろんな意味であてられてしまっているエリックでございます。
マジで距離が近いんよ。カイルさん今自分が爆乳持ちの美女だってこともうちょっと自覚してもらえませんかねぇ。
そんなこんなで本日は野宿となりました。まあ距離考えたら仕方ないですね、野宿になってしまうのは。
僕も僕とで浪費家の親のせいで家計がピンチな様子を見て冒険者になろうと決意し、護衛兵に混ぜさせてもらって野営訓練はしたことが何度かあります。
ですので野宿自体は別に問題ないのですよ、野宿自体は。
そして健康のためにも感染症のためにも清潔に保つ大事さはよく知っています。だから一日の体の汚れを落とさないとダメなのはわかってます。
カイルさんがそれを促されている理由も大事さもよくわかっているのですよ、はい。
ですけどねぇカイルさん、全裸で促さないででもらえませんかね?
破壊力ありすぎるのですよ今のカイルさんは。なんですかそのスイカみたいな胸は。すさまじくデッカ。
そんな危険物放り出さないでもらえませんか? 目のやり場にものすごく困るんですよ。僕だって年頃の男の子なんですよ?
そんなの見せられたら、ねぇ?
ですのでさすがに一緒に水浴びというわけにはいきません。後で時間をずらして水浴びすることにします。
しかし日が落ちると寒くなってくるからなぁ早くしたいのですけど、さっさと終わらせてくれます? カイルさん。
なんてこと思っていたらカイルさんが急に水から上がって、なんかこっちに来た!?
そしてそのまま僕に突撃! からのハグっ!? む、胸がっ、カイルさんの胸のスイカが僕の顔面を押しつぶしてっ!?
めっちゃ柔らかっ!? デカくて硬そうなんて思ってた自分がバカでしたっ! 何この絶妙な弾力とフカフカ感はっ!?
そしてしばしのハグの後カイルさんは剣を手に取って、そこの草むらをふるうっ!
クギャ、と何かの悲鳴。あ、ゴブリンがいたのか、そいつを仕留めたのか。
しかし剣をふるうと同時に胸もめっちゃ揺れるっ! スイカが、ばるんって感じで。
うわすごっ! あれが本物の乳揺れっ、迫力がすさまじいんだけどっ、そしてモロに見てしまったのですけどっ!
更には大股仁王立ちしてくれてるおかげで見えちゃいけないところがもっとよく見えちゃいましてっ。
あ、やべ。ガン見してしまったせいで鼻血が。
何という不覚。こんな愚かなことをしてしまった自分とこんな反応してしまった自分が情けない。
ん、カイルさんが戻ってきた。全裸が全裸で歩いてくる。お願いだから本当に隠してくれませんかね。
ってなんか様子が……あ、いや出血止血って大丈夫ですからこれはただの鼻血ですから大丈夫ですってば!
お願いだから離れてください隠してください乳を押し付けないでえぇぇぇぇっっ!!
幸いにして今回は近場の宿場町で宿を取ることができた。
先日は野宿でゴブリンの襲撃時にエリック様が軽傷を負ってしまうことがあったから、今回は宿に泊まりたかったところだった。
とはいえ、宿もどこでもいいものではない。安宿だと掃除もまともに行き届いておらず、大部屋で他の客と同じ部屋で雑魚寝なんてこともある。
エリック様も地位は低いとはいえ貴族の一人、衛生面や安全面を考えるとできる事ならば個室がいい。
そうして選んだわけだが、いい宿は満室で取ることができず、確保できたのは掃除は行き届いているとはいえ少々狭い部屋でベッドも1台しかない。
エリック様は「別に構わない」と申し出てくれて、こちらの方が恐縮してしまう。
ただまた口数が少なくなってしまって。やはり遠慮されているのだろうか?
しかもベッドはエリック様に譲って自分は床に寝ようとしたのだが、控えめな口調で「一緒に寝れるよ」と申し出て。
これもまた申し訳ない、と共にベッドで寝ることにした。硬い床に外套を敷いて寝るよりもベッドの方がずっと柔らかく快適で、自分自身も疲れが重なっていたのかすっかり深く眠ってしまった。
そして朝、目が覚めてみると……自分の乳房にエリック様が触れていた。それも、抱きつくような感じで。
なるほど、女になった自分の乳房はかなりのサイズで、体格の小さいエリック様の場合は抱きつけるほどにもなるようで。
しかし、もしかしてこれはエリック様自身の寂しさだったろうか。
思えば若くして母親を亡くされたのだ。まだ幼さも残るエリック様だから、母親の愛情を求めてしまうのも無理はないだろう。
こうした中で自分は女になったのだ。改めて自分は女になっていると自覚する。そうであれば、多少はこの身も役に立つのではないだろうか?
だから自分は、私はそっとエリック様を抱き寄せ、そして優しく語りかける。「吸ってもいいのですよ」と。
我ながら実にばかげたことを言ったものだ。しかし抱き寄せたエリック様はそのまま私の乳房に吸い付いた。
ちょっと遠慮気味に吸う感じで。出るわけがないが、授乳の真似事をする。
そんなことをしていると、私の中で何かを感じる。吸われることで、私の乳房と下腹部が何かを感じるような。
もしかしてこれが、母親としての、女としての喜びのようなものなのだろうか? 何とも言い難い幸福感のようなものが、私を満たしていく。
ふ、ふふっ。何とも不思議なものだ。
女になって、筋力が落ちて、何もかもが変わって戸惑っていた自分。特に乳房がとてつもなく巨大で邪魔に思えていたのだが、こんな形で役に立つというのか。
悪くは、ないな。こうして私の乳房を吸うエリック様の顔は、緊張しつつも癒されているようにも見える。
エリック様の心をこれで癒すことができるのならば、私の邪魔と思っていた乳房、役に立ててやろうではないか。
そんなことを使いながら、エリック様をそっと抱き寄せる私だった。
ちょっとした出来心だったのです。多分そうなのです。
先日は野宿で大変でしたが今日は宿に泊まれるとあって気が緩んでしまったのだと思うのです。
まあ宿と言っても安宿ですけどね。それでも個室だし掃除は行き届いていて清潔でしたから問題ないです。
もともと住んでいた屋敷なんて両親は見え張って自分の身の回りは豪華絢爛でしたが僕の部屋は割と雑でしたから。
「お前ロクな実績もないくせに偉そうなー」なんてことを平気で子供に言う親でしたからね。
そんな調子で僕の部屋は粗末なところありましたから、別に今の部屋になったところでなんも気にしません。
そうして個室に入ったところでカイルさんまたやらかしてくれまして。
まあそりゃあ寝るにあたって鎧は外さないといけないとは思うのですけど、元々が壊れたものを応急処置的に直した急ごしらえの露出多めな鎧でしたからねぇ。
外したら、トップレスなのですよ。
それをまあ遠慮なく僕の前にさらしてくれまして、ド迫力です。本当に目のやり場に困ります。
とりあえずは気を落ち着かせるために黙っていることにしましょう。そうです落ち着かせるのです。
だが落ち着かせすぎたのが悪かったかもしれません。1つしかないベッドな部屋でカイルさんが床で寝るといったものですから思わず親切心が発動して「一緒に寝ればいいんじゃね?」って言ってしまったのですよ。
それでカイルさんも遠慮しなかったもので、添い寝することになってしまいました。
カイルさん、意外と寝つきはいいのですね。ベッドの中で僕の隣であっという間に夢の中です。
一方の僕はというと……寝れねぇ。
だってさぁ、隣には絶世の美女ですよ? おまけに半裸ですよ? おっぱい丸出しですよ?
ベッドだってそんな大きい物じゃないから、一方で破壊的に大サイズなおっぱいだから距離が必然的に近いのですよ?
これでお年頃な男子が平常心で寝るなんて、ハードモードなんですけど。
ああもう距離がマジで近い。必然的に当たってるうぅぅぅっっ。
ぐうぅぅっ、冷静に冷静に、こういう時は羊を数えるんでしたっけいーちにぃーっさぁーんっ……
などとやっていたら僕も僕で神経図太いのですね。気がつけば外は夜が明けようとしていました。
窓から差し込む薄明かりで目が覚める。一方のカイルさんは、まだ寝ていた。
うーん、この人も疲れていたんだろうなぁ。無理もないかぁ。
ただ一方で寝がえり打ってしっかりこっち向いて、すると当然、目の前には破壊的サイズのおっぱいが。
うん、すごすぎる。朝から男の僕の男もしっかり目が覚めてしまってますよおかげで。
どうしましょう。すごいなぁデカいなぁ。カイルさんの寝息とともに上下する物体、すさまじいですね。
……ちょっとだけ、いいですよね?
お、おう、これはこれは。女性のをナマで触れたのは人生初めてかもしれませんね。
幼少期に母親のを触れた気もするけど、なにせ絶壁まな板大平原でしたからカウントしようがないのですが、それと比べたらもう。
大きいですが絶妙な弾力と柔らかさを兼ねそろえているとは。これはまあ、すごすぎでして。
……あ、目を覚ましたカイルさんと、目が、合ってしまった。
あー、それゃ目が覚めますよねぇこんなモミモミしちゃってたらさぁ。いやマジでごめんなうぐあぁぁっ!?
何ですか謝ろうと口を開こうとしたらいきなり抱きしめてきたんですけど何この乳圧っ。そして偶然にも開いていた口に先端がっ!?
そしてカイルさんがなんか言いました。え、なんですって? 「吸ってもいい」って。
うぐあぁぁっっ!? な、何を言い出すんですかカイルさんっ、ていうかもう既に確かに僕の口の中に先端がありますけどおぉぉっ!?
お、思わず吸ってしま……うわなにこれ出るわけがないのにどうして甘い味を感じる気がするんですかっ!?
ていうかカイルさんなんですかその顔はっ!? 頬を赤らめてエッチな感じがするんですがっ!
なんで朝っぱらからこんなことになっているんだっ! 誰か助けてーーーっ!!
出立して数日後、馬に乗り進めて、グレゴリー様の屋敷がようやく見えてきた。
今までは一人で往復することが多かったのだが、今回はエリック様が一緒にいた。その期間が長かったような短かったような。
屋敷に近づくとグレゴリー様の姿が見えた。奥方様もいるので共に日課のに散歩していたのだろうか。
グレゴリー様は私の姿を見ると驚いた顔をしていた。無理もないだろう。男だった私が女になっているのだから。
さらには今回は単純に書簡を渡すだけの往復だったにもかかわらずエリック様が共にいるのだ。予想外の事態に戸惑っていることと思われる。
その場にいた奥方様と使用人もまた同じような顔をしていた。このような形で注目されると、居心地の悪さを感じ緊張してしまう。
私は馬を降り、グレゴリー様のもとにひざまずき、事の経緯を簡潔に報告した。
屋敷が魔物によって襲撃されたこと、襲撃でピエール様とその奥様が亡くなられたこと、領地の立て直しと療養のために一旦エリック様をお連れしたこと。
報告を聞いたグレゴリー様はうつむき、頭に手を当てて思い悩んでおられる様子だった。
無理もない。血縁の物が亡くなられたのだ。ましてや私自身のふがいなさで助けることができなかったのも大きい。
状況からして私が加勢に入った時点でピエール様は亡くなられていたと思われるが、あと少し早く到着していれば助かったのでは? という無念も無きにあらず。
何かしらの責任は私にも問われるかもしれない。という考えはすぐに否定された。
グレゴリー様は私に「ご苦労、君ははやるべきことを尽くしたのだ」と言った。つまりのところ、責任を問うことはないという。
本当に寛大な方だ。やはり、私がお仕えするにふさわしい、恩を存分に返す必要を改めて感じる。
私の報告を聞いたのち、グレゴリー様は共にいた共にここまで来たエリック様に近づき、その様子をうかがう。
いくつか声をかけるが、その反応はたどたどしい。やはりまだ両親を失った心傷は大きいのだろう。
そんな様子にグレゴリー様は戸惑いつつ、その場に控えていた使用人に声をかけ、エリック様を客室にお連れするよう指示する。
そして私にも向き直り、「女になって苦労するだろう、私の妻に助けてもらいなさい。そしてゆっくり静養なさい」とお気遣いの言葉をいただく。
奥様もグレゴリー様の言葉に反応し、微笑みながら私に優しく目を向けてくださる。
ただの農民の生まれでしかなかった私だというのに、力もなく女にまでなってしまった私をここまでお二人とも気にかけてくださるなんて。
この状況でも私に配慮を示してくださるとは。本当に心の広い方だ。
私は心に誓う。そして感謝を持ってひざまずきグレゴリー様に告げる。「この身、生涯グレゴリー様のもとに捧げます」と。
いつもの日課、屋敷の周りの散歩道。私は妻との仲はそれはそれはいい。遠方からのお客様は大抵「美しい奥様で仲いいですねぇ」と褒めていただけるぐらいに。
しかし、その関係に緊張が走ったのが今日の話。
日数的にそろそろ書簡を渡したカイル君が戻ってくる頃だと思っていたわけで、そしたら遠方から馬に乗った姿が見えてきたのでカイル君かと思ったら、なんか違った。なんかいろいろデカい女だった。
とにかくデカい、何がって言わなくてもいい。おまけに露出も多い。誰あれ?
その姿を見た妻の様子が変貌した。ねえ、ちょっとなんでそんな顔してるの? なんで笑顔なのに殺気を感じるの?
いやマジ知りませんよあんな変な人。私がキミ一筋なのよくわかってるでしょ? 何? アタシの方が形がいい? 何の話してるの!?
ってよく見たらそのデカい女の前に、一緒に馬に乗ってるのってエリック君じゃないか?
どゆこと? なんでエリック君が? その女の人誰? などと疑問に思っていたらついにその女が目の前にやってきて、馬から降りた。
うん、マジデカい。身長も私より頭一つ分大きいし、馬から降りた瞬間めっちゃ揺れたし。だから妻よなんでそんな殺気立ってるのさ。
なんて戸惑っていたらデカい女が私の前で膝まづいて、そのせいで谷間……げふんげふん、とにかく話し始めたけど自分はカイルだと、女になってしまったと言い出した。えぇ?
経緯を聞くとピエールの屋敷が魔物の集団に襲われて、その中にいた正体不明の魔物によって女になってしまった、ですって?
あー、噂には聞いたことある。うさん臭い話だとは思っていたけど、そんな魔物本当にいるんだー。
びっくりだね。まさか、よりによってカイル君がその魔物の餌食になって女になってしまうとは。
ところでその話を聞いた瞬間、妻の様子が変わった。
なんでそんなうれしそうな顔してんの? その目はいいお友達見つけたみたいな顔的な? ちょっと失礼じゃない? 本人すごく大変な目にあってるんだよ?
するとその露出過多な鎧は私から進呈したやつが壊れたので修繕したってワケかな?
壊れたのは仕方ないにしても、直し方のセンスにちょっと疑問を感じるけどさ。
にしても、ピエールの奴ねぇ。無念というかなんて言うか。
ろくでもない性格の甥だったからなぁ。エリック君も「何とかして助けて」とまで手紙送ってくるレベルだし。
今回カイル君に持たせた最後通知で改善しなかったらエリック君を引き取って追放しようとは思っていたのだが、それより先に身を亡ぼすことになったか。
カイル君は何者かが屋敷近辺で魔物寄せの笛を使ったのではないか、って話したけど、多分自分で使ったんじゃね? あの屋敷に確か緊急要的に用意していたし。
アイツ酒飲むと「俺は無敵だー」みたいな発言する奴だったから大方調子に乗って自分で使って自滅、ってところじゃないかな? うーん、頭が痛い。
そこのところは現地の護衛兵やエリック君に確認するとしよう。
しかしまあ、どうしようもない甥だったけど、やっぱり亡くなったとあっては、ちょっと、ねぇ?
それもだが、まずは女になるというある意味一番の被害を受けたカイル君は本当に災難だったよ。本当にお疲れ様、じゃ済まないレベルだね。
さてそうするとここまでやってきたエリック君も気にかけないと。嫌な両親とはいえ肉親が死んでショックだったかもしれんが……
そう思いつつも話しかけて様子を伺うが……えーと、そんなことよりもっと大変だなこれ絶対。その様子、あてられたな?
考えてみれば移動で数日間二人っきりだったわけだ。そして旅をすれば日常の寝食も一緒であるし、となれば……見ただろうなぁ。
そしてここに来るまでも女になったデカいカイル君の前に乗馬していたみたいだから、当然背中にデカいのが当たっていただろうしなぁ。
いやもう、大変だったね。とりあえず使用人たちに彼を部屋に案内させよう。まずは旅の疲れをいやしてもらおう。
旅の疲れをいやしてもらうのはカイル君も同じだけどね。なにせこっちは女になるという爆弾級の災難だし。
でもまあ、無自覚にエリック君の性癖拗らせたのはいただけないなぁ。
あれ絶対ダメになったよ? カイル君の事だから平気な顔でエリック君の前でそのデカいのさらしてたでしょ? それだけじゃなくて接触もさせてない?
こうなったらもうエリック君、デカい人じゃないとダメになっただろうなぁ。嫁探しには苦労しそうだよ。
うーん? でも考えてみれば、エリック君とカイル君をくっつけるってのも、アリか?
噂レベルの話だけど、あの魔物によって女にされた人が元の男に戻ったって話は聞かないし、一生女のままかも?
そうするとカイル君の縁談も考えなきゃいけないよなぁ?
実のところカイル君には子供のいない私の養子として正式に迎えて跡継ぎにしようかとは思ってたんだよなぁ。
領地運営の才能は割とあるし、おまけに武術も申し分ないし、十分すぎるんだよねぇ才能あるんだよ。
まあ、薄々感じてはいたけど今回の件で意外と天然というか抜けているのはわかってたけどさぁ。
でも女にになっちゃったとなればその計画も難しい。が、エリック君がいるからねぇ。
彼も両親を失ったわけだから私が引き取るのはほぼ確定、そして性癖拗らせちゃったからその相手にカイル君との縁談にすれば、ちょうどいい?
まあ、そうするかどうかはもうちょっと考えるとして、とりあえずカイル君には女になっちゃったということでもう少し女性のたしなみを覚えていただくとしよう。
というわけで妻よ、ちょっとカイル君の面倒見てもらえないかな?
ってちょっと? 何ですかその満面の笑みは? なんでそんないい娘ができた的な顔してんの?
ダメだよちゃんと気遣ってよ女になったばかりで本人戸惑っているだろうからさぁ! 着せ替え人形にしちゃダメだからね絶対!
先が思いやられるけど、まずは二人の休養だな。そんなわけでゆっくり休んでよ。
と言ったところでカイル君またひざまずいてこうのたまった。「この身、生涯グレゴリー様のもとに捧げます」ってさ。
なに爆弾投下してくれてんだカイル君っ! 君もうちょっと言葉選んでよっ!!
いやちょっと妻よなんで笑顔で殺気MAXなんですかっ! 今の言葉の意味わかるでしょあくまで仕えるって意味だと思うんですけど間違っても女のボディを好きにしていいって意味じゃないと思うんですよっ!!
あーもうっ! なんでこんなめんどくさいことになってんだよーーーーーっっ!!