11 レガスピのスコーター

 焼けつくような日差しのなか、マリは子どもたちに囲まれていた。下は3、4歳から上は中学生くらいまで。男の子はほとんどが上半身裸で、女の子はカラフルなタンクトップにスカート。みんなはじけるような笑顔だ。(P209)

レガスピのスコーターの子どもたち

 誰かがマリの腕をつついた。振り向くと5、6歳くらいの、つぶらな瞳の女の子がさかんに自分の顔を指差している。
「写真を撮ってくれって」エレインはいった。「この子たちは写真が大好きなの」
 マリがスマホを取り出すと、歓声があがって、誰もが思い思いのポーズをとった。何枚か写真を撮ると、「きりがないから行きましょう」とエレインが促した。(P209)

レガスピのスコーターの子どもたち

 学校の運動場ほどの土地に50〜60軒の家が建てられている。レンガを積み上げただけの壁にガラスの入っていない窓、ほとんどは茅葺きかトタン屋根だ。目の前が溶岩の折り重なる河原で、その先に川が流れているらしい。
「大雨が降ると、このあたりは洪水で押し流されてしまうの。住宅地にするのが危険だから、彼らの場所になってるってわけ」(P209)

レガスピのスコーター

スコーターは火山岩の川に沿ってつくられている

 エレインが河原に近い家を指差した。「あれがマリアの家よ」
 そこはスコーターのなかでも、さらに貧しい家だった。家というより貧相な掘っ立て小屋で、壁はベニヤ板と竹、屋根はビニールシートを石で留めただけだった。(P210)

竹とビニールシートでつくられた家

 目の前に豚肉と野菜をココナツミルクで煮たものと、トレイに入ったご飯、ペットボトルの水が置かれた。
「これ、ビコールエクスプレスっていうの。この地方でいちばん有名な料理で、フィリピンでただひとつ辛い料理っていわれてるの」マリア・ロペスは輪切りにされたトウガラシを指差した。(P213)

ビコールエクスプレス。フィリピンでただひとつの辛い料理

 そのとき、誰かが建物の外から声をかけた。マリア・ロペスがビコラノ語でこたえ、マリを見た。「ティラピアを焼いたから食べないかって」
 窓から覗くと、家の前に七輪を置いてあちこちで夕餉のしたくをしている。
 返事をするまもなく、皿に載せられた焼き魚が運ばれてきた。体長20センチほどの小ぶりの魚で、タイに似ている。(P213)

淡水魚ティラピア

白身魚で味はタイに似ている

 いったんマリア・ロペスの家に戻って下着とTシャツを着替え、広場のベンチに座って髪を乾かした。子どもたちが次々と現われては、得意のポーズを決めていく。
「すっかり人気者になったのね」マリア・ロペスが笑った。
「みんな、かわいくていい子たちばかり」バスタオルで髪を拭きながら、マリはこたえた。「自分がここにいるなんて、夢みたい」(P227)

レガスピのスコーターの子どもたち

「そうね。なにもかも神さまが与えてくれた夢なのよ」マリア・ロペスはそういうと、黙って空を見つめた。雨季の時期にはめずらしい青空で、刺すような日差しのなかマヨン山がくっきりと浮かんでいた。(P227)

ビコールのシンボル、マヨン山

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