国民年金保険料の1カ月未納期間があると、満額支払いに対して1700円少なくなるのはどうして?
- 11/23 18:30
- あるじゃん(All About マネー)
全国で社会問題になっている「転売ヤー」による買い占めと価格吊り上げの問題。彼らが転売するものは多岐にわたり、一部のファン層で熱烈な需要がある商品もターゲットとなる。
例えば北京五輪後に開かれた、フィギュアスケーター・羽生結弦さんの軌跡を伝える「羽生結弦展2022」では、会場で販売される限定グッズに人気が高まった。
当時はコロナ禍の最中で入場人数を制限。限られた予約枠を取り合ったのは純粋なファンだけではなかったようで……(本記事は、奥窪優木氏の新著『転売ヤー 闇の経済学』からの抜粋記事です)。
■中国のファンコミュニティで強いニーズを察知
日本橋髙島屋での羽生展の最終日、入場のための受付へと続く日本人マダムたちに紛れ、一人の中国人女性の姿があった。
在日中国人のL(30代)。アニメ関連グッズからアパレルブランドの限定商品など幅広いジャンルの転売を行っている。
L自身は、フィギュアスケートにも羽生にも全く興味がない。羽生グッズに目を付けたのは“マーケティング”の結果だった。
中国のSNS・微博には『超話』という機能がある。趣味や嗜好、悩みなど、ありとあらゆるテーマごとにコミュニティが作られており、参加者は自由に書き込みすることができる。
Lはかねてから、このコミュニティを転売ビジネスのマーケティングに利用している。アニメやアパレルブランド新商品の販売情報をいち早く得ることができ、またどのくらいの人がその商品に興味を持っているか、需要の規模も手に取るようにわかるからだ。
北京五輪直後、Lは羽生結弦のコミュニティに150万人もの参加者がいることを知り、金の匂いを嗅ぎ取った。そして羽生結弦展の開催や、限定グッズが販売されることもそのコミュニティ内で知ったのだ。
彼女は、日本橋髙島屋で同展が開催されていた20日間、ほぼ毎日足を運んだ。一日複数回、入場した日もあった。
事前予約のルールでは「全日程を通し予約は1人1枠まで」「同一のお客様による複数の予約が判明した場合、全ての予約を無効にする」などの制約があった。
しかしLは、予約時にメールアドレスを使い分けることで、この制約を易々と突破していた。近年、転売ヤー対策として事前予約や事前登録を求められることも多いが、この方法を使えば、多くの場合、複数名義で予約を取ることが可能なのだ。
名義は、念のためそれぞれ異なる偽名で予約していた。しかし、会場では予約時に発行されたQRコードを提示して入場するだけで、身分証の確認などはなかった。中へ入るとLは展示物には目もくれず、物販コーナーに直行する。
「転売行為はお控えください」。壁にそう張り紙がされたその場所で、彼女は展覧会写真集やトートバッグやストラップ付きフィギュアなどをどんどんと買い物かごへと放り込んでいく。
一見、手当たり次第に見えるが、実は同じ商品を5点ずつ選んでいる。同一商品の購入は、一人当たり5点までに限定されているからだ。他の客からは冷たい視線が刺さる。
入場するたびにこの調子で大量購入しているLは、何人かの店員の顔を把握している。特に転売行為について釘を刺すようなことを言われたことはない。
この展覧会に転売目的で来場している客は、彼女だけではなかった。Lはこれまでに、日本人の転売ヤーとみられる来場者も何度も目撃していた。先ほども、過去に限定品の販売会場で何度か顔を合わせている中国人と出くわしたばかりだ。
■展覧会での仕入れ総額「600万円」超
この日購入したのは、約200点しめて23万円超。最終日で品切れの商品もあったため、少な目だ。Lがこの展覧会のグッズ売り場での「仕入れ」に費やした金額は、600万円を超えている。
日本国内では、Lのような転売ヤーの存在に業を煮やした羽生ファンたちは、Twitter(現在のX)上で転売品の購入を控えるよう呼びかけあっていた。また、同展の限定グッズを高値で出品したフリマサイトのアカウントが、SNS上で晒されるなどということも行われていた。
確かにLには中国という国外の売り先がある。しかし総額600万円分ものこまごました雑貨がそれほど売れるものなのか……。
結果から言うと、彼女は、20日間で仕入れた羽生グッズを2カ月あまりで全て売りさばいた。売上の総額は約800万円。単純計算で200万円を儲けたことになる。
しかも彼女は、日本橋髙島屋の後に行われた名古屋と大阪での展覧会にも足を運んで仕入れた約300万円分も完売し、400万円を売り上げた。東京分と合わせて計300万円の儲けである。
Lがこれだけの儲けを出した背景には、“生配信”がある。微博で羽生関連商品に商機があると判断した後、彼の情報を配信するアカウントを中国の若い女性に人気のSNS・小紅書で開設。
以前から、日本のメディアが取り上げる羽生関連の情報を翻訳して投稿して地道にフォロワーを獲得していった。同時に、羽生特集を組んだ雑誌や、彼の写真が使用されている企業の販促グッズの転売も行っていたのだ。
フォロワーは800人ほどで頭打ちとなったが、購入意欲は高かった。フォロワーから「柚子がイメージキャラクターを務めるこんな商品が発売されるからぜひ入手してきて」と、要望を受けることもあった。
展覧会開催前と会期中、Lは小紅書で生配信を複数回行い、会場で売られる限定商品の注文を受け付けた。結果、同展終了までに、約250人から注文を受けた。会期中に羽生が現役引退を表明すると、それまで以上のペースで注文が入るようになった。
Lは注文量以上に購入した商品もあった。即売はできなくても、いつかは売れるだろう、もしかすると少し時間が経ったほうが価値が高まるかもしれないと思ったからだ。
実際に、同展終了後に行った生配信や投稿で、完売。これらによって300万円の利益をたたき出したのである。これほど簡単に売れるのであれば、もう少し価格を高く設定するべきだったと多少後悔したという。
■結婚の話題で羽生グッズ転売からは身を引いた
大変だったのは梱包と発送だ。注文から発送まで1カ月の猶予期間を設定していたが、それでも流石に1人で250件以上の注文を処理するのは気が重い。
過去に、1日に1人で50点程度の発送をしたことはあったが、なにせ今回は桁がひとつ違うのだ。そこでLは友人2人にアルバイトに来てもらい、2日がかりですべての発送作業を終えた。
ちなみにLはこのアカウントの更新を、2023年9月末以降行っていない。最後の投稿は羽生結婚の話題だ。彼が伴侶を得たことにより、羽生の中国でのカリスマ的な人気は落ち着きを見せると予想したLは、羽生グッズの転売から身を引いたのである。
そのLの「読み」は結果的には当たることとなる。衝撃の結婚から3カ月後に、羽生は妻との離婚を発表。一部のファンに再び大きなショックを与えたようで、羽生グッズの需要にも陰りが見えたという。
「人気を誇った転売品もいつか必ず旬が過ぎる。だからこそ、また新しい転売品に注目が集まり、私たちに儲けのチャンスを与えてくれる」
Lは新たな商材探しに没頭しているためか、微博の『超話』を開いたスマホからひとときも目を離すことなく、独り言のようにそう呟いた。
Toyo Keizai, Inc.,