840 クマさん、花を採取する
マーネさんが木の下まで移動する。
「それで、マーネさんが探していたのは、この木なの?」
木にはところどころに赤い花が咲いている。
マーネさんは花をじっくり見ている。
「ええ、間違いないわ。この花よ」
どうやら、無事に目的の薬草となる花を見つけることができたみたいだ。
「それなら、わたしが取るよ」
高い位置にあって、マーネさんの身長では届かない。
まあ、わたしでも届かないから魔法を使うしかないけど。
「待って」
マーネさんがわたしのクマ服を掴む。
「言ったでしょう。採取方法が特殊だって」
そういえば、そんなことを言っていた。
マーネさんじゃないと採取ができないって。
でも、採取は誰もできそうだけど。
「もしかして、人食い花とか?」
手を伸ばしたら、食われるとか。
「違うわよ。採取方法は魔力を込めて採取するだけよ」
「それだったら、誰でもできそうだけど。マーネさんが、わざわざ来る必要はなかったんじゃない?」
やり方を教えてくれれば、わたしにだってできる。
「そうね。採取は誰でもできるわ。でも、その採取した花は、採取した本人にしか使えないのよ」
「…………?」
「この花は薬の効果を上げてくれる効果があるの。ただし、魔力に込められた本人限定」
「つまり、マーネさんが自分の魔力で採取しないと、自分に使えないってこと?」
「そういうこと」
確かにマーネさん本人が採取に来ないと、手に入れることはできない。
「ユナ。悪いけど、魔法で階段を作ってくれる?」
わたしは言われるままに土魔法で階段を作る。
「ありがとう」
マーネさんは階段を上る
くまゆるとくまきゅうに周囲のことを任せ、わたしも階段を上る。
花は手が届く位置にある、マーネさんは花に手を伸ばす。
赤い花が青くなる。
マーネさんは青くなった花を採る。
「色が変わった?」
「魔力が入った証明よ」
マーネさんは見やすいようにわたしに花を見せてくれる。
木に咲いている花は赤いけど、マーネさんの手にある花は青い。
「ちなみに、この赤い花を採取してから、あとで魔力を注げはどうなるの?」
「色は変わらないわ」
マーネさんは証明するように赤い花を採る。そして、魔力を込める。でも、色は変わらない。
「この木から離れた瞬間、効果は無くなるの」
それじゃ、確かに使用する本人が来ないとダメだ。
「ユナ、悪いけど。多めに採りたいから、木の周りに魔法で踏み台を作ってもらえる?」
わたしは階段の先を土魔法で伸ばし、いろいろな場所の花が採りやすいようにする。
「ありがとう」
マーネさんは花の採取を始める。
わたしもマーネさんから離れた位置に移動する。
目の前に赤い花がある。
わたしは腕を伸ばし、クマパペットを花に近づけさせ、魔力を込める。
赤い花が青く変わる。
不思議だ。
わたしは青くなった花を採取して、籠に入れる。
「ユナも使うの?」
「その予定はないけど、いつか必要になるときがあるかもしれないでしょう」
「そうね。わたしも多めに採取するつもりだから。あっ、そうだ」
マーネさんはなにかを思いついたのか、階段を下りる。
「リディア! ちょっと来なさい」
川で解体しているリディアさんに向けて叫ぶ。
リディアさんがやってくる。
「なに?」
「リディアも採取を手伝いなさい」
「でも、さっき本人の魔力で採取しないと効果がないって」
「わたしが使うわけじゃないわ。リディアの妹用よ」
「それでも、他人じゃ」
「確かに他人よ。でも、血縁関係なら効果はあるわ。妹なら半分ほどの効果になってしまうけど、使用しないよりはいいわ」
「えっと、なんのこと?」
わたしとマーネさんは、この花の効果を説明する。
「妹さんの病気を治す効果が上がると思ってくれればいいわ」
「それなら、採取します」
リディアさんはゼクトさんに赤猿の解体を頼み、階段を上ってくる。
「魔力を流して、青くなれば採取していいわ」
「やってみる」
わたしたちは籠がいっぱいになるまで採取をした。
ゼクトさんは1人で赤猿を解体することになって、嘆いていた。
でも、病気の妹のためと言われたら、なにも言えずにいた。
「それじゃ、親族なら、それなりに効果があるの?」
「親から子なら半分、孫ならさらに半分」
つまり四分の一。
「同じような感じで、血縁者から離れるほど効果は薄くなっていくわ。他人なら、効果はほぼないと思っていいわ。だから、薬草としての知名度は高くないから、見つけても採取する人はいなし、発見報告もない。そもそも知らない人がほとんどなのよ」
確かに、わたしからしたら、そこらに生えている草木が薬草なのか、分からない。
マーネさんやリディアさんたちが採取してきた薬草なんて、一つも知識がない。だから、採取しようと思わない。
「だから、この花のことを知っていた冒険者は稀、偶然にわたしに報告が上がってきただけ」
「そうだったんだ」
「だから、自分が来るしかなかったの」
わたしたちは日が暮れるまで採取をし続けた。
また、来年咲くからいいよね?
「疲れた〜」
リディアさんがソファに寄りかかる。
わたしたちはクマハウスで野宿をして、翌朝帰ることにした。
「疲れたのは俺だ。1人で解体していたんだからな」
「くまゆるちゃんとくまきゅうちゃんが手伝ってくれていたでしょう」
手伝うと言っても解体はできないので、運び役だ。
崖の下で倒した赤猿もそうだけど、崖の上で倒れている赤猿をゼクトさんにところに運んでいた。
「次から次へと運ばれてくるから終わらない地獄だった」
「でも、途中からわたしも手伝ったでしょう」
ある程度採取をしたリディアさんは途中からゼクトさんの解体を手伝っていた。
「それまで、俺1人でやっていたんだぞ」
「それも妹のためよ」
「うぅ」
それを言われたら、ゼクトさんもなにも言えない。
「それに、兄さんの解体も家族のためになっているんだから、ありがとうね」
妹にお礼を言われたら、これ以上なにも言えないゼクトさん。
「でも、本当にいいのか。俺たちが全部貰って」
「いいよ。わたしはいらないから」
ウルフは大丈夫だけど、猿の毛皮には抵抗がある。
やっぱり人型だからかな。
フィナにも、なんとなく解体はしてほしくない自分がいる。
こればかりは自己満足だ。
ちなみに赤猿が倒したウルフなども解体したそうだ。
ゴブリンキングをどうするのか尋ねられたけど、魔石もないから埋めようかと思ったけど、マーネさんが持って帰るほうがいいと言うので、回収することになった。
「でも、どうやって冒険者ギルドに報告する? 俺たちが倒したって言うのか? それとも冒険者から貰ったと言うのか?」
「普通、自分が倒した魔物を譲ったりはしないわよね」
「それじゃ、クマの格好した女の子が倒したと説明するのか?」
ゼクトさんとリディアさんが、わたしを見る。
「信じてもらえないだろう。クマだぞ」
「いや、そこは通りすがりの冒険者にしておけば」
「普通に考えて、どんな冒険者だったか聞かれるだろう」
確かに、聞かれるね。
もし、フィナが冒険者に助けられたと聞かれたら、どんな冒険者だったか尋ねる。
「そこも適当に」
「嘘が嘘で固まっていくわ」
「そんなのユナが一緒についていけばいいだけでしょう」
黙ってお茶を飲んでいたマーネさんが口を開く。
「わたしも一緒に行く?」
「だって、わたしがリディアの妹のところに行くってことは、ユナも一緒に街に来るってことになるでしょう。わたしの護衛なんだから」
確かにそうだけど。
「どんな格好していようが、ギルドカードを見せればなにも言ってこないわよ。それに、なにかあればわたしが口添えしてあげるわよ」
「なんだろう。余計に話が拗れるような……」
リディアさんは幼い姿で胸を張っているマーネさんを見て、そんな感想を呟く。
わたし同様に、見た目では信じられないからね。
まあ、そのあたりは身分証を見せれば大丈夫なのかな。
それさえも、信じてもらえないそうだけど。
「それじゃ、夕食までに花の処理をしちゃいましょう」
「わたしは、その間に夕食の準備をするね」
「ダメよ。今日はユナもこっち」
「それじゃ、夕食は」
「パンだけでいいわよ。それに花の処理も自分の魔力で行わないとダメなのよ」
それじゃ、他人に任せることはできない。
「えっと、俺は?」
「あなたは、風呂掃除でもしていなさい」
マーネさんに言われて、ゼクトさんは項垂れながら風呂場に向かっていく。
「えっと、マーネさん魔力を使うんですよね。わたし魔力が……」
「それなら、これを飲むといいよ」
わたしは神聖樹の茶葉を出し、お湯を入れて、お茶を出す。
「これは、魔力を少し回復できるお茶だよ。どれだけ回復するかわからないけど。飲んでみて」
リディアさんは神聖樹のお茶を飲む。
「ユナ、わたしにもちょうだい」
わたしはマーネさんにも淹れてあげる。
「このお茶は……。もしかして神聖樹の」
「よく分かったね。エルフの長のムムルートさんから貰ったんだよ」
「そうだったわね。ユナはサーニャとも知り合いだったのよね。あのサーニャが里帰りしたときに、お土産に持ってきてくれたけど」
サーニャさん、マーネさんに渡していたんだ。
「それにしても、こんな高級茶葉、簡単に出せるわね」
「えっ、これって高級なの?」
リディアさんが飲んでいたお茶を止める。
「高いわよ。あまり流出するものじゃないし。商業ギルドに頼んでも購入はできない。エルフである長が気に入った商人にしか卸さない」
そういえば商人がたまにエルフの村に来るって言っていたっけ。
「そうなんだ。わたしは好きなだけくれるって言っていたけど」
「…………」
マーネさんが呆れた顔でわたしを見る。
「あなた、長に好かれているのね。いったいなにをしたの? もしかして、脅かしたり」
「してないよ。詳しいことはサーニャさんから聞いて」
面倒くさいので、説明はサーニャさんに放り投げた。
「まあ、いいわ。それなら茶葉を少し分けてくれる?」
「いいけど。サーニャさんから、貰えばいいんじゃない?」
「いやよ。貸しができるみたいでしょう」
難しい関係みたいだ。
わたしは茶葉が入った麻袋から、マーネさんが用意したガラスの入れ物に入れてあげる。
「そんな大きな麻袋の中身が、神聖樹の茶葉なんて信じられないわね」
大きな麻袋を呆れるようにマーネさんは見る。
まあ、一回、ほとんどの神聖樹の葉が落ちたから、たくさん作ったと聞いた。
無事に採取は終わりました。
※外伝3巻12/20発売日予定
※投稿日は4日ごとにさせていただきます。
※休みをいただく場合はあとがきに、急遽、投稿ができない場合は活動報告やX(旧Twitter)で連絡させていただきます。
※PASH UPにて「くまクマ熊ベアー」コミカライズ128話(11/13)公開中(ニコニコ漫画123話公開中)
※PASH UPにて「くまクマ熊ベアー」外伝20話(9/25)公開中(ニコニコ漫画17話公開中)
お時間がありましたら、コミカライズもよろしくお願いします。
【くまクマ熊ベアー発売予定】
書籍20.5巻 2024年5月2日発売しました。(次巻、21巻予定、作業中)
コミカライズ12巻 2024年8月3日に発売しました。(次巻、13巻発売日未定)
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※誤字を報告をしてくださっている皆様、いつも、ありがとうございます。
一部の漢字の修正については、書籍に合わせさせていただいていますので、修正していないところがありますが、ご了承ください。