労基署が社福法人に立ち入り調査 改善訴え以前から 退職も
北斗市の社会福祉法人が労働基準監督署の立ち入り調査で複数のスタッフへの賃金の未払いを指摘されたことが関係者への取材でわかりました。
立ち入り調査を受けたのは、道南で30あまりの障害者支援施設などを運営している社会福祉法人「侑愛会」の本部と法人が運営する障害者支援施設「ワークショップまるやま荘」のあわせて2か所です。
立ち入り調査はことし8月に行われ、複数のスタッフに対する時間外や休日労働の賃金未払いが指摘されたということです。
労働基準監督署は施設を運営する法人に実態を詳しく調査するよう求めていています。
また、関係者によりますと、現場のスタッフたちは以前から職場の労働環境の改善を法人側に求めていて、ことし春には、スタッフの複数が、不当な勤務管理が耐えられないとして、退職するなど現場を離れたということです。
労働基準監督署の立ち入り調査を受けるなどしたことについて、社会福祉法人「侑愛会」の祐川暢生副理事長は、NHKの取材に対し「詳細はお話できませんが、法人としてよりよい職場環境を目指す努力を続けていきます」としています。
【労働環境の改善訴えは以前から 現場離れた複数スタッフも】
北斗市にある障害者支援施設「ワークショップまるやま荘」では、ことし8月に労働基準監督署の立ち入り調査が行われる以前から、現場のスタッフたちから労働環境の改善を求める声が上がっていました。
ことし3月には、この施設で働く現場のスタッフたちが法人に対して実態を訴えようと、管理職から受けたやりとりなどを記したアンケートをまとめていて、NHKはその文書を独自に入手しました。
それによりますと、管理職たちが、スタッフの存在を軽んじている実態が複数記されていて、時間外労働の申請も出来ず「ただ働き状態だ」という訴えのほか、休暇を申請したところ「死ね」と暴言を吐かれたことや、「こいつは母子家庭で生活があるから簡単には辞めない」など管理職として耳を疑うような発言が記されていました。
さらに、「暴れている利用者を遠くから望遠鏡を使って笑いながら見ている」と、福祉に携わる上でその資質を疑うような記述もありました。
また、関係者によりますと、「まるやま荘」では、不当な勤務管理やハラスメント行為などに耐えられないとしてことしの春、およそ25人いた職員の3分の1が退職するなど現場を離れたということです。
【障害者福祉に詳しい専門家「虐待や不適切対応招きかねない」】
社会福祉法人「侑愛会」をめぐっては、運営している複数の障害者支援施設で虐待が相次いでいるとし、去年、道の特別監査を受け、虐待につながった背景として「管理者が職員の支援状況を十分把握していなかった」とか「職員どうしのコミュニケーション不足が見受けられた」などと指摘されていました。
障害者福祉に詳しい日本社会事業大学の曽根直樹教授は、ハラスメントも含めて労働環境が改善されないまま福祉サービスが続くことに、「職員が利用者に対してよい支援をしようというモチベーションが湧かなくなってしまったり、組織に対する不満がより立場の弱い利用者に向けられたりすることで、結果的に虐待や不適切な対応に結びつきかねない」と指摘しています。
また、福祉の世界では現場の仕事をマネジメントする管理職を養成するための仕組みが整っていない事業者が多いとした上で、「外部からの目が入りにくい福祉の現場で、マネージャーとしての資質にかける人物が『利用者の人権だけは大切にするが職員の人権は二の次』という感覚を現場に押しつけることはあってはならない」と述べ、虐待などの不適切な状況が深刻化しないためにも是正するべきだとしています。