みんなでファクトチェック “ガイコクジン”を巡る偽情報②

Nらじ

放送日:2024/07/12

#インタビュー

日本に住む外国籍の人と外国にルーツのある人を巡るSNSなどの誤った情報と、それらがもたらす深刻な被害。どのような対策が必要なのか、前回に続いて、外国人の人権問題に長年取り組んでおられる弁護士の師岡康子さんにお話を伺いました。(聞き手:籏智広太(はたち・こうた)記者(ネットワーク報道部)、杉田淳ニュースデスク、柴田祐規子アナウンサー)

【出演者】
師岡:師岡康子(もろおか・やすこ)さん(弁護士)

禁止条項の無い「ヘイトスピーチ解消法」

籏智:
外国人へのデマ、ヘイト等の問題への対策は、どのようなことが行われているんでしょうか。

師岡:
日本では2016年に「ヘイトスピーチ解消法」ができて、これは日本で初めての人種差別をなくすための法律として大きな意義はあるんですけども、ただ解消法には「ヘイトスピーチとは何か」という定義はあるんですけども、それを禁止する条項がないんですね。
「それ」が行われた時に処罰するような制裁規定もないですし、実際に止める力がとても弱いです。そのため解消法ができたあとも各地でヘイトデモや街宣が続いていますし、ネット上のヘイトスピーチはほとんど野放し状態で、ヘイトクライムも止まらないです。

杉田:
それはやっぱり表現の自由との線引きがなかなか難しいということで、そういう法律になってるということなんですか。

師岡:
そうですね、解消法ができるときにそのような議論があって、やはり線引きが難しいだろうということで、まずはヘイトスピーチを止めるための法律を作りましょうということで、法律がまず成立したというところです。

条例での対処には限界が

師岡:
その後、川崎市では、2019年の12月に、基本的にヘイトスピーチを禁止して、3回繰り返した場合には50万円までの罰金という刑事罰を科するという日本で初めての条例ができました。それ以降ですね、この条例ができてから死ねとか殺せとかいうような、または出て行けというような条例で明確に禁止しているようなヘイトスピーチを伴うデモや街宣がなくなりました。

杉田:
川崎市では?

師岡:
川崎市では、ですね。川崎市型のヘイトスピーチ規制条例が広がるようにということで、多くの市民が取り組んでいるところではあります。

柴田:
でも自治体が変わって別の場所に行ったらできてしまう、ヘイトスピーチができてしまうとなると、まだ完全ではない。最近の例でいうとクルド人の方々に対しても攻撃が向くようなことって起きてますよね。

籏智:
そうですね。最近ではこうしたネット上の言説のある種ターゲットになってしまっているのが、特に埼玉県の川口市で暮らしているトルコから来たクルド人の方々です。この方々は難民認定を求めて国に申請を出している方が非常に多いんですけれども、なかなか日本の今の難民行政下では申請が通っておらず、やはり厳しい生活を強いられる、その中で、地元の住民との摩擦っていうのも起きてしまっているというところもあります。
SNS上でいろんな見方を流す嫌がらせやひぼう中傷に始まり、中には誤情報などもあるということで、地元の自治体では、国に対してよりしっかりした支援策をするようにと要望も出しています。

師岡:
本来であればヘイトスピーチ・ヘイトクライムの問題っていうのは国単位で規制するべきで、例えば川崎では許されないことが川口では許されるっていうのはおかしな話ですよね。すでに埼玉県知事も厳しく批判されてはいるんですけども、やはりこれは地方だけの問題ではないので、知事や市長だけではなくて、例えば首相とか法務大臣とかそういう人たちが、やはりこれは許されないんだっていうことを積極的に発言していってほしいです。

杉田:
現状のヘイトスピーチ解消法の改正も必要だというふうに、師岡さんお考えですか。

師岡:
そうですね。ヘイトスピーチ解消法がもともとヘイトスピーチだけと非常に対象が狭いものなので、やはり人種差別全体ですね、ちゃんと差別を禁止して止める法律や条例というのは急務だと思います。

お互いを知る経験が必要

杉田:
私の学生時代の話を少ししますとですね。私は学生時代、寮に住んでたんですけれどもね、そこは半分が日本人で半分が留学生だったんですね。で、その留学生たちと共に生活をして、食事やいろんな行事をしながら暮らすっていう寮にいたんですけれども、そうするといろんな国籍の留学生たちがいて、もちろんその一人ひとりはお国柄がにじむような人柄だったりする人もいるけれども、でも最終的には個人と個人の人間関係だっていうようなことをその寮ですごく教わって、相手もですね、僕を「日本人」ってひとくくりにするんじゃなくて、この問題についてお前はどう思うんだ、お前はどうしたいんだみたいな事をね、毎日のように体験したということがあってですね。何かそういう接点みたいなものっていうのがないと、師岡さん、なかなか本当に難しい問題だと思うんですけれども、その大きな、意識を変えていくための方策ってどう思われますか。

師岡:
今おっしゃった経験はとても大事で、やはり人と人として、いろんな民族やいろんな国籍の人たちと交流していく、お互いを知るっていうのは、差別をなくしていくため、とても大事なことだと思います。

杉田:
そうなんですよね。

師岡:
実際日本では、例えばコンビニなどでもさまざまなルーツの方たちが働いていて、それだけじゃなくて工場とか漁業とか、外国ルーツの人たち、外国籍の人たちが日本の産業を支えているというのは事実ですし、ともにこの社会で一緒に生きているわけですから、その人たちから学ぶ、その人たちと交流するように、私たち一人ひとりがやはり努力するということは大事だと思います。

杉田:
そうですよね、全ての人を知ることはできないけれども、それでも相手の立場を知るってことはいろいろな形でできるんじゃないかなと思って、そういう事が少しずつでもできれば、状況って本当に最悪の方向には向かなくなるんじゃないかなというふうに期待したいんですけれどもね

師岡:
そうですね。個々人の努力は大事ですし、本来ですと人種差別撤廃条約っていうのは、国や地方にそういうことも求めてるんですね。互いの交流を進めるような政策を取りなさいということを言っていって、そういう施設をつくるとか、そういう政策をとる、教育の中でさまざまな出身の子どもたちが、自分の文化をはっきり発表できるようなプログラムを作るとか、そのようなことで実際は社会を変えていけると思います。

怪しい情報の「パターン」を知ること

柴田:
あとはその、信じないということと、拡散しないということも大事ですよね。

師岡:
そうですね。やっぱりその差別っていうのは何かっていうのが、一番基本的なところは、「属性」でその人をひとくくりにして決めつけないっていうことなんですね。それは外国籍だけじゃなくって、障害がある人とか、性的マイノリティーなどもそうですけども、差別というのはそういう一人ひとりじゃなくって、属性で、特に自分が変えることがなかなか困難な属性で決めつけられて、劣ったものとか異質なものとして扱われるということなので、なのでそういう「〇〇人は」とか、そういう属性で決めつけている情報を見たら、まずちょっとこれはおかしいんじゃないかと疑ってほしいと思います。

籏智:
ヘイトスピーチ、ヘイトデマ等っていうのは、これまでも何度も何度も残念ながら繰り返されてしまっていることもあります。逆に言えば典型例、パターンというものがあるということでもあって、そういったパターンを知るっていうのも、非常に、特にインターネットやSNSと向き合う上では大事だと思います。
災害のときには、こういった外国ルーツ、外国人の方に対するデマが流れるよということを知っておくだけでも、それをタイムラインで見かけたときに、これは前も流れたやつだと、これはじゃあ拡散しないほうがいいと、自分が当事者でパニックになっている状況でも、「一拍おく」事ができるようになるはずです。
次のステップとして大事なのは、やはり差別であったりヘイトデマっていうものがおかしいということを発信するというのも非常に重要だと思います。
まず「拡散しない」の一歩が踏めたなら、次のステップとして「否定発信」をしてみるというのも重要なことじゃないかなというふうに感じます。

籏智:
外国人を巡るデマ、ヘイトの問題について2回にわたって弁護士の師岡康子さんにお話を伺いました。ありがとうございました。

師岡:
ありがとうございました。

柴田:
リスナーのみなさんから、メッセージをいただいています。

ヘイトスピーチには罰則規定をつけないと意味がないですね。禁止したということを見せただけで実効性がないですね、絵に描いた餅そのものですね。

紫田・杉田:
メッセージありがとうございました。「みんなでファクトチェック」のコーナーでした。

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2024/07/12 「Nらじ」

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