あの日くれたもの

あの日くれたもの


あの事件の後、"青い監獄"に戻った俺たちは普通に暮らせていた。でも心に負った傷は簡単には癒えやしなかったのだ。

___二子、そうだな、あいつは3人も仲のいいやつを失った。俺が殺したからだ。俺とすれ違うと毎回、気まずそうな顔をして会釈する。気にしなくていいのに。俺がわがままで買った役だよ。

___雷市、あいつは強えよ。強かった。我牙丸いなくて寂しそうだし、今でも結構引きこもりがちだけど、最近は飯食って話せるぐらいには回復してきた。

___閃堂、俺はあいつが心配なんだ。愛空が居なくなってからずーっとあんな様子だったからさ…まあ、それなりに信頼を置いている奴がいるなんていい事だよ。ずっとずっと忘れないでいてやったら、あいつも喜ぶと思うんだけど。

みんな苦しんで、苦しんで、それでも立ち上がって今も尚こうして生活している。俺はといえば、まだサッカーできるほどじゃねぇけど、少なくとも凪とはちゃんと話せるようになったかな。

そう、だから今日は気分転換に散歩にでも出ることにしたんだ。

長い廊下歩いて、気が済んだら部屋に戻る、それだけの散歩をするって決めていて。

でも歩いてる時に、ふと見つけちまったんだよな。


「…あ、ここって…」


がらんと空いた部屋。そこにはかつて、色んな仲間たちがここで生活していた痕跡が残っていた。


「…はは、ここ元々俺たちの部屋だったとこじゃん。」


そう、今は精神的に安定するまで、それぞれ一人部屋で生活しているんだ。絵心がたまに来て、カウンセリング…ってああ、こんな話は余計だな。


「多少の荷物ぐらい回収しておくか」


えーと、と掛け布団を捲る。

はらり、1枚の紙切れが落ちてきた。


「あ、え?なんだこれ…」


こんな紙切れにメモなんて書いたっけな。ふと裏面を見てみる。

ぱちりと目に入ったのは、文字たちだった。


「あ、あぁ…………」


俺の頭の中には、次々と記憶が流れ込んでくる。



珍しく、斬鉄がこっちの棟に来た時の話だ。

____え、玲王って今日誕生日なのか?!

____なんだ、言ってくれれば祝ったのに…あ、そうだ、ちょっと紙貸してくれ


なんども俺は"別にいいって"って断ったのにさ、あいつ聞かなくて。しかもなんか、千切まで来てさあ。


____こういうのは形に残しておくだけ得だろ!

____そうだそうだ!ほら、玲王!





紙切れに書いてある文字は

















___"たん生日おめでとう、レオ!"

___"ハッピーバースデー、玲王"






「っ………う、っ…………ッひぐ………」


ぽたぽたと雫が落ちていく。

今日は誕生日でもなんでもないのに、この紙だけは、ずっと俺の誕生日を祝ってくれている。


あんなに騒がしかったのに、静かになってしまった部屋の中で俺は、気が済むまでひたすらに声を殺して泣いた。

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