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【ダ腐ルス】 Sweet Holiday 【File002】/Novel by 黒澤多香子

【ダ腐ルス】 Sweet Holiday 【File002】

5,789 character(s)11 mins

5月4日のスパコミで無料配布したペーパーの再録になります。若干、手を入れてあります。本当は、5話をみたあと別のお話を書いてたのですが、PCが起動できなくなってしまいサルベージできないので、悲しい心を慰めるべく、スマフォにデータが残っていたこちらをアップさせていただきました。。。■ブクマ、評価、コメント、メッセージなど、いつも本当にありがとうございます。すっごく嬉しいです!! 山下と田代が、かわいくて大好きすぎて書きまくってしまって申し訳なく思いつつ、どうしても止めることができなくてですね。。。PCが生き返ってデータが飛んでなければ、次回はがっつりエロいやつあげに来まーすw

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「「え? 明日、休みなんスか!?」」
 山下と二人、おもいっきり台詞がかぶってしまった。笠井係長の前での出来事。
 仕事熱心な俺が休日の確認を忘れてたのはともかく、山下までもがチェックし損ねていたというのは実に意外だった。
「なんだ、明日は休みかよ」
 ちぇ、っと俺は舌打ちする。
 それならそれで、いろいろと予約を入れておくべきところもあったのだ。髪も切りたかったし、トレーニングジムの予約も取っておきたかった。まあ、天気が良いなら、掃除洗濯を片付けるだけでもいい。
 すると、すぐ横にいた山下が、くしゃりと笑ってこっちを見た。もともとたれ目がちなのに、笑うとますます目が垂れる。それが決して善人面に見えないところが、こいつのすごいところだ。なんとはなしにあざとい感じがするのはなぜなのだろう。
 それはともかく、なにか含みのありそうな笑顔で、山下が俺に訊いてくる。
「お前、明日はなにする予定?」
「え?」
「急な休みだし、暇なんじゃねえの?」
 え、なに、なにが目的なんだ? 訊きかえす間もなく、立て続けに山下が誘ってくる。
「暇ならさー、どっか遊びに出ようぜ」
 唐突に……なにを言いだすのだこいつは。
 とっさに返答できずに、俺はうっと言葉を飲んだ。すると、
「やあねえ、亜紀ちゃん。中年まぎわの男二人が、休日なのに、他に遊ぶ相手もいないみたいよ」
 デスクの向こうから、涼子が亜紀にこれ見よがしに囁くのが聞こえてくる。
「ちょっと待て! 俺が暇だなんて決めつけるな!」
「えー。なんだよ、田代。暇じゃないのかよ。休日だってことさえ知らなかったくせに」
「いいや。俺は明日、忙しい!」
 やたら捨て鉢な言いかたをしてしまう。山下と連れだって遊びに出たってまったく構わないはずなのに。涼子の台詞が、胸にぐっさり突き刺さったせいだ。
 悪かったな。中年まぎわの男が、急な休日と知った瞬間、うきうきと掃除洗濯の算段なんて立てたりしてさ……。
「ちぇ。せっかく、上手いラーメン屋を見つけたのになあ」
 向こうの方では、涼子が亜紀に、「亜紀ちゃんは、あんな大人になっちゃだめよお」なんて嘯いてる。
「まあいいや。なら、ひとりで行くか」
 山下は、意味ありげな流し目をひとつくれると、さっさと帰ってしまった。一緒に署を出ようと思っていたのに。


 そんなわけで、孤独な休日。
 朝、目を覚ますと嫌味なくらいの快晴だった。洗濯物を干すにはもってこいの良好なお天気。
 本当なら、出かけても良かったのだ。いい歳したおっさん二人連れ――しかも二人とも独身――っていうのが少々ひっかからないでもなかったが、でも、ここまで天気がいいのなら、山下と二人、海にでも山にでも出かければよかった。
 なんて。
 朝っぱらからあいつのことを考えちまったせいだろうか。
 突然、部屋の隅から「セーラー服を脱がさないで」のメロディーが聞こえてきた。
「えええっ?」
 誰もいない部屋で思わず叫んで、きょろきょろとあたりを見渡してしまう。
 大急ぎで、音の発信源を探した。音質からして、鳴っているのはスマフォか携帯だ。でも、どう考えたって、それは俺のものじゃない。
 俺のものじゃない、っていうか、いまどきあんな着メロにしてんのは、日本狭しといえどもアイツくらいなものだろう。
 耳を澄ませると、八〇年代を彷彿とさせるその懐かしのメロディーは、通勤用に使っているカバンの内側から聞こえてくるらしかった。ソファの上に投げ出してあったカバンを探り、急いで音を発しているそれを取りだす。
 発信元は、なぜだか俺の名前になっている。頭をひねりながら、着信マークに指先で軽く触れた。
「はい、もしもし?」
「おはよう。田代だろ?」
「……そっちは、山下か?」
「そう、山下。朝起きてカバン見たらお前のスマフォが入ってたんで、とりあえず自分の番号にかけてみた。やっぱ俺のは、お前んとこに行ってたか」
「どういうこと?」
「よくわかんねえけど、昨日、なにかのタイミングで入れ替わっちゃったのかもね。つきましてはコレ、今すぐ、お返ししたいんですけど。ていうか、俺のスマフォ、今すぐ返してよ」
「明日、署で交換すればいいじゃねえか」
「ふうん。まあ、俺はそれでもいんだけどさ。田代って、スマフォにロックかけてないじゃん? 明日まで時間たっぷりあるから、中身、さぐっちゃうかもー」
「なっ!? それなら俺も、お前のデータ見てやる」
「残念でした。俺はパスかけてるよ。この電話切ったらたぶん、アクセスできなくなると思う。あーあ、せっかく返してあげようと思ってたのに残念だなあ。仕方ないから、田代クンにまつわる全データを解析して、休日の暇潰しにしようかな」
 いいかげんそうに見えるが、山下は案外、誠実な男だ。中を見るとは思えないし、そもそもこれは仕事用だし、特に見られて困るような写真とかプライベートな情報は入っていないはずだ。
 でも、もしかして、見られたら困るようなメモだとか、独白めいた記述みたいなものを入れてしまっていたとしたら?
 たったひとつだけ、絶対に山下には知られたくない秘密が俺にはある。
 それは、山下にだけはどうしても知られたくない情報であり、けれど、ずっと持ち歩いている記憶媒体には、その痕跡がしみこんでしまっているかもしれない。
「ちょっと待て! 山下!」
「そろそろ、切るからな」
「ちょっと、待て! マジで待て。わかった。今すぐ交換に応じてやる!」
 こうやっていつも、気づけば必ず、俺の方が劣勢に立たされてしまうのだ。でも、山下にその秘密を知られてしまうのは嫌だった。今はまだ、その感情を知られるわけにはいかないから――
 慌てたような口調で引き留めた俺の態度に、電話の向こうの山代が薄く笑う。
「お前、今日は忙しいんじゃなかったのかよ?」
「……ちょっとだけ、暇になった」
「あ、そうなの? なら、今すぐ田代ン家に届けに行くね」
「え? ちょっと、……???」
 状況を把握できていないうちに、通信は切られてしまっていた。そして、その直後に鳴らされる玄関の呼び鈴。
「え? まさか、もう?」
 よもや山下のはずはないだろうと考えながら、ドアスコープ越しに扉の外を確認する。
 予想に違わず、ドアの向こうに立っているのは背が高くてハンサムな、たれ目の男だった。にやけた面が、楽しげにこっちを見ている。
「実はもう、来ちゃってたんだよねー」
「……マジかよ」
 仕方なしにドアを開けてやった。
「田代がロックかけてないって気づいた瞬間、もうなんか、中を見たくてうずうずしちゃってさ。このまま持ってると危険すぎるから、大急ぎで駆けつけた。あ、ちなみに俺、紅茶よりコーヒーの方が好きな人だから」
「……入れよ」
 なんというか、帰れとは言えない空気を瞬時に押しつけられてしまって、俺はしぶしぶ山下を家に入れた。まあ確かに、せっかく来てくれたのに玄関口で互いのスマフォを交換してサヨウナラじゃあ、こいつがあまりにも可哀想だっていうのもある。
 それにしても……玄関で靴を脱ぎ、揃えもせずに上がりこんだ山下をしり目に、俺は静かにため息を吐く。
 中年まぎわの男二人で休日に仲良く遊びに出るならまだしも、おうちに遊びに来てもらうっていうのは、「完全に終わっている」という状態なんじゃないだろうか。
「へえ、思ったとおりだ。部屋、きちんとしてるな」
「汚すなよ」
「そう言われると、なんか汚してやりたい気分になるのな」
「……わかった。好きなようにしてろ。それで?」
「なに?」
「コーヒーが、飲みたいのか?」
「よろしく」
 したり顔で応じる山下に背を向けて、俺はまた、盛大にため息をひとつ。
 勧めてもいないうちからソファにすわり、深緑色のフライトジャケットを床の上に脱ぎ捨てカバンを放りだした山下に、なにを言えばいいというのだ。
 それでも、豆を引くところからいっさい手は抜かず、山下の所望するコーヒーを淹れて出してやる。
「あ。美味しい」
 一口飲んで、子供じみた素直な口調で言うと、山下は顔をほころばせた。
 やばい。
 俺は慌てて視線を反らす。普段の策士っぽいいかがわしさが混じった笑顔と違って、ひどく柔和でおおらかなそれ。その安心しきった感じの笑顔が眩しすぎて、俺はもはや耐えきれそうになかった。
 とはいえ、一人暮らしの俺の家は、さほど広いわけでもない。視線を反らそうがなにをしようが、どうやったって山下の存在を意識しないわけにはいかない。普段は狭いと感じるような部屋ではないのだが、嵩の大きい男二人でいると、なんだかちょっと暑苦しい。
「田代もすわりなよ」
 所在なさげに突っ立っていた俺に向かって、山下が自分の隣の空いたスペースをぽんぽんと手で叩いてみせた。
 まさか隣にすわれと言うつもりか? 黒革の男らしい硬派な素材だとはいえ、二人掛けのラブソファ的な造りのこの長椅子の隣に……? 涼子に見られたら、どんな毒舌を吐かれることだろう。
「すわるって……どこにだよっ!?」
「どこって、俺の隣に決まってるじゃん」
「どう見ても、二人掛けのソファなんだが」
「二人掛けなら問題ないじゃん。それともあれか? もしかして、俺の膝の上にすわりたかったとか?」
「……ばっ――アホかてめえ」
 開いた口が塞がらないとはこういう状況を表すのだろう。それなのに、気づくと顔が赤らんでしまっていた。
「なに照れてんだよ。いいからすわれ。なんか、録り溜めしてた映画とかねえの? そういうの消化するためにあんだろ、休日」
 もちろん、そうするつもりだった。ひとりで過ごすことができたのだったなら。
「お前、映画とか見るのかよ」
「んー。実は、あんまり好きじゃない。あ、アクション物とか、そーいうのは得意よ?」
 どうやら、徹底的に趣味は合わないものらしい。とりあえず、あまり意識しすぎるのはおかしいと気づいて、おれは静かに山下の隣に腰を落としていた。
 だがしかし。
 ……近い。いくらなんでも近すぎる。
 そもそも自分自体がでかいのだから、家具はつねに大きめのものを買うようにしている。それでも、身の丈一八〇センチ越えの男二人が並んで腰掛ける日が来ようとは、さすがに購入の時点で想定していなかった。太腿は接触するすれすれだし、これだけ近いと互いの熱を嫌でも感じてしまう。
 きちんと磨かれたつやのある革の表面が、二人分の重みできしきしと淫靡な音を立てる。くそ。ただ座っているだけなのに、なんとも言えない空気が流れる。
「もうちょっと、端に寄れ」
「田代こそ」
「これ以上は無理だ。ていうか、なんでお前とこんなぎゅうぎゅうになってすわらなきゃならねえんだ」
「仕方ないじゃん。そこに椅子があるのだから」
「なに登山家みてえなこと言ってんだ!」
「だって登山家だもーん」
 もーんじゃねえよ、もーんじゃ。
 どうすんだ、この状況。馬鹿みたいに考えなしにどんどん話を進めてくから、もはやわけのわからない不思議な休日になっちまってるじゃねえか。
「じゃあ、とりあえず、いちゃついてみる?」
「はあ?」
「だって、仕方ないじゃん。ここに田代がいるんだから」
「わけわかんねえし」
 のしかかってくる山下を押し返して睨みつける。すると、
「どうせ、流されちゃうくせに」
 へらっとした気配が鳴りを潜めて、やけに真剣な声色で山下が囁いた。
 止めろって、そういう切り替えし。冗談めかして距離を詰めてきておきながら、突然、マジになんのは卑怯だ。
「……それはッ、お前が、図々しいからだろ!」
 猛烈な危険を感じて、のし掛かってくる山下のからだを、俺は全力で押し返そうとした。すると、鼻の先が触れそうになるくらい近い場所から、眸のなかをのぞきこまれる。
 やばい。記憶媒体以上にきっと、眸には秘密が書きこまれてる。
「いちゃつくの、嫌なの?」
 こくこくと必死に首を縦に振る。
「うそつき」
 低めの声が、耳元で囁く。ほんと、卑怯だ。そんな声で囁かれたら、どうしたって抵抗できなくなってしまう。
「お前……いつも、そんなふうにオンナを口説いてんのかよ」
「俺が口説くのは、田代だけだって」
 ……うそつき。
「あー、信じてないって顔してる」
「当たり前だ」
 詰問口調の俺に答える代りに、山下の手が伸ばされた。前髪に触れ、そのままくしゃりとかきまわされる。指の先が耳朶に触れた。愛撫するみたいに優しくいとおしげに、耳の後ろを撫でられる。
「……ッ」
 懸命にこらえようとしたけれど、ひきつるような吐息があふれでてしまう。
 油断していたせいだ。別に、気持ちいいとか、そういうんじゃねえ。
 それでも、山下の行動は予測がつかない。次になにを言いだし、なにをされるかまるでわからず、いつの間にか、俺は身を固くして、息を飲んでしまっていた。
「田代のその、緊張してる感じの顔、すごく好き」
 とんでもない台詞を口にしながら、肩口に山下の顔が埋められる。耳の辺りを優しげな手つきで愛撫したまま、くちびるが首筋を這いあがってきた。大型犬がじゃれてくるみたいに体重をかけられ、仕方なく俺は後ろに身を倒してしまう。
 流されちゃだめだと、頭のどこかで声が聞こえる。
 でも、仕方ない。布地越しに伝わるこの熱が、山下のものである以上。
 俺は疾うに知っていたのだ。この場所に招き入れてしまえば、きっとこうなってしまうに違いないと。
「止めたほうがいい?」
 ずるい男だ。確信犯めいた微笑みとともに、山下がまた低音で囁く。返事はもうひとつしかありえない。
 だけど、それを告げるのは癪だったから、応える代りに、その背中にそっと腕を回すことにした。

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