MAMOR 最新号

1月号

定価:780円(税込)

 日本を守る海上自衛隊の装備品のなかでも、最強といわれるのが潜水艦だ。潜航して敵の情報収集をし、攻撃力に長けた海自の潜水艦は、60年以上にも及ぶ歴史のなかで進化してきた。

 そして、2022年3月、海上自衛隊の最新鋭潜水艦『たいげい』型1番艦(注)が就役した。

 最新鋭の『たいげい』はこれまでの潜水艦とどう違うのか?軍事ジャーナリストの柿谷哲也氏に解説してもらった。

(注)同じ設計で最初に建造された艦を「1番艦」と呼び、以後、それに付けられた艦名が型式名となり、以降、建造される艦を、「〇〇」型2番艦、「〇〇」型3番艦……と呼ぶ

潜水艦が持つ2つの特長「隠密性」と「攻撃力」

画像: 潜水艦が持つ2つの特長「隠密性」と「攻撃力」

 潜水艦の大きな特長は「隠密性」と「強力な攻撃力」だ。潜水艦は海中を潜航するため、肉眼での捜索は不可能で、海面に出た潜望鏡をレーダーで探知することも至難の業。

「25メートルプールに落ちた1本の針を探すようなもの」と例えられるほど、居場所が特定されにくい。だから、行動を察知されずに秘密裏に敵の情報収集ができるし、警戒監視活動を実施できるのだ。

 また、潜水艦はその高い静粛性により、敵艦に気づかれずに近づき、攻撃することが可能。一般に軍艦と呼ばれる艦艇は頑丈に造られていて、そう簡単には沈まない。だが、水面下の部分に亀裂が生じてしまうともろい、という弱点がある。

 潜水艦は艦艇の底部に致命的な損害を与える魚雷を装備している。潜水艦が自衛艦のなかでも最強の艦艇だといわれるゆえんだ。

静粛性が向上し大型化した新鋭潜水艦『たいげい』

画像: 2020年10月14日、三菱重工業神戸造船所で行われた『たいげい』型潜水艦の命名式と進水式。自衛隊の潜水艦の名称は、「海象、水中動物の名、ずい祥動物の名」を付与することが標準とされ、海自部隊などから募集し、防衛大臣によって『たいげい』(大鯨)に決定した

2020年10月14日、三菱重工業神戸造船所で行われた『たいげい』型潜水艦の命名式と進水式。自衛隊の潜水艦の名称は、「海象、水中動物の名、ずい祥動物の名」を付与することが標準とされ、海自部隊などから募集し、防衛大臣によって『たいげい』(大鯨)に決定した

 海上自衛隊独自の潜水艦の運用の歴史は、1960年に戦後初の国産潜水艦『おやしお』の就役以来、60年以上にも及ぶ。その間、鋼材や溶接技術などの進歩によって、潜航深度の増大、電池の性能やソナーによる捜索・探知、攻撃能力の向上、機器の低雑音化など、性能が進化している。

 では、2022年に就役した最新鋭の『たいげい』は、既存艦からどう進化したのだろうか。柿谷氏は「全体的に見ると、静粛性が向上し、船体が大型化しています」と解説する。

 潜水艦はアンテナや潜望鏡などを海上に出したとき、敵に発見されやすくなる。また、電池に充電するため、海上に出したシュノーケルから外気を取り込み、ディーゼルエンジンを稼働するときは騒音も大きくなり、これも発見される原因となる。

「そこで、『たいげい』の前級の『そうりゅう』型潜水艦の11番艦以降は、リチウムイオン電池を搭載しています。また、『たいげい』には、その効果を生かすための新ディーゼル機関(注1)や、シュノーケル発電システム(注2)などが新しく搭載されています」

(注1、2)どちらも従来の鉛蓄電池より大きな容量を持つリチウムイオン電池の特性に合わせて新しく開発されたシステム

「潜水艦といえば…」おなじみの装備も廃止に

画像: 艦長らが指揮を執る発令所には、操だやセンサー関連機器のコンソール(出入力装置)やディスプレーが並ぶ

艦長らが指揮を執る発令所には、操だやセンサー関連機器のコンソール(出入力装置)やディスプレーが並ぶ

 これらの新しい技術により、『たいげい』では、長時間、浮上することなく中速・高速で潜航することが可能になった。また、静粛性のさらなる向上などによって、敵に発見されにくくなっているのだ。

「艦体の大型化は、リチウムイオン電池やそれに付随する装置の搭載を可能にしました。大型化によって居住性もよくなり、乗員がストレスなく活動できるようになります。潜水艦へ女性自衛官が配属されるようになったことを受けて、女性が使用できる居住区画が、初めて作られました」

 なかでも柿谷氏がいちばん衝撃を受けたのが、貫通式の潜望鏡が廃止されたことだという。

「『そうりゅう』型では、映画などでおなじみの、発令所から艦外までを貫く筒形の貫通式潜望鏡が搭載されていましたが、『たいげい』では、それがなくなり、高性能のデジタル画像で艦の周囲を瞬時に、発令所のディスプレーに映し出す非貫通式のみとなりました。おかげで、潜望鏡の設置場所の自由度が増し、さらに、潜望鏡を海上に出す時間が短くなることにより、被探知を防ぎやすくなっています」

最新の魚雷と潜水艦発射型対艦ミサイルを装備

画像: 18式魚雷と対艦ミサイルが装備された魚雷発射管室

18式魚雷と対艦ミサイルが装備された魚雷発射管室

 戦術面での装備についてはどうか。

「新型の『ZQQ−8高性能ソナーシステム』が搭載されています。これにより、音を発する対象を艦首ソナーアレイで立体的に認識でき、方位、深さ、自艦との距離が正確に分かります。さらに側面ソナーアレイでは、音波を受ける部分の面積が大きくなり、潜水艦の側面の探知能力が向上しています。

 従来のえい航型アレイ(注)では音波を受信する方向が不安定でしたが、側面の音を受信する能力、すなわち指向性が向上しているのです。そして、艦首と両舷、えい航型ソナーアレイといった4カ所の異なるソナーの探知情報を自動統合化することで、敵艦の探知能力が『そうりゅう』型に比べて強力になっています」

 攻撃力では、最新の18式魚雷の搭載が可能になったと、柿谷氏は言う。

「18式魚雷は目標の形を識別してオトリとの区別も行える『音響画像センサー』や、最適なタイミングで起爆が可能な『アクティブ磁気近接起爆装置』が搭載されています。また、対艦ミサイルについては、従来の『ハープーン』より性能が高く、対地攻撃も可能な『ハープーン・ブロック2』を搭載できるようになっています」

(注)音波の受信器を取りつけたケーブルを自艦から離し、えい航して探知する方式のソナー

写真提供/本人

【柿谷哲也氏】
1966年生まれ。軍事専門のフォト・ジャーナリスト。これまで、海自の歴代の潜水艦の艦内を取材。著書に『知られざる潜水艦の秘密』(SBクリエイティブ)や『知られざるイージス艦のすべて』(笠倉出版社)など

(MAMOR2023年11月号)

<文/魚本拓 写真提供/防衛省 写真/星亘(扶桑社)>

コミュ力でつくった新鋭潜水艦『たいげい』

 海上自衛隊に25年以上前から配備されているホバークラフト、LCAC。2024年に、持ち前の実力を改めて発揮し、注目を集めた。

 この年の元日に能登半島を襲った地震は海底を隆起させたため、多くの港に艦艇が入れなくなってしまい、さらに土砂崩れなどで陸路もふさがれて、救助隊が被災地に入れないという事態がおきた。

 そこで、空気の力で船体を浮かせて、深度の浅い海でも高速で航行でき、そのまま砂浜へ上陸できるLCACが、多くの救難物資や救助隊員を運び、能登を救ったのだ。

 今回は全自衛隊に6隻しかないLCACの整備を行う呉造修補給所、工作部エアクッション艇整備科の実力を紹介する。

総勢16人でLCACの整備・修理を行う

画像: 基地から海に出るためのスロープ。緊急の場合には、地上でエンジンをかけてそのまま自走することもあるが、普段はクレーンで海上までLCACを移動させてから降ろす

基地から海に出るためのスロープ。緊急の場合には、地上でエンジンをかけてそのまま自走することもあるが、普段はクレーンで海上までLCACを移動させてから降ろす

 海上自衛隊幹部候補生学校、通称「赤れんが」や、第1術科学校のある広島県の江田島。そんな江田島の一角にひっそりと存在するのが「呉造修補給所工作部エアクッション艇整備科」だ。

 LCACの整備を行う基地である。ここには整備を行うための各種施設のほか、LCACのクルーを育成する施設、隊舎などがある。背後を山に囲まれた小さな入江の「秘密基地」のような場所だ。

 ここで6隻あるLCACの整備を担うのが、エアクッション艇整備科の隊員たち。総勢16人で多くの整備を行っている。

「安全第一で整備を行っています。整備の面でもLCACのスペシャリストを育成していきます」と川畑1尉

「私たちは、LCACの整備・修理を行っています。年間を通して予定されている計画整備のうち、3カ月点検である四半期整備、6カ月点検にあたる中間修理を行うほか、故障が発生した場合には臨時修理をしています」

 こう語るのは、整備科で整備係長を務める川畑誠人1等海尉。具体的にどんな修理や整備を行っているのだろうか。

画像: スカートの補修は一番頻度が高い。裂けた部分に補修用のゴム生地をあてがい、ボルトで固定する。傷が多い場合にはまるごと新品に交換することも

スカートの補修は一番頻度が高い。裂けた部分に補修用のゴム生地をあてがい、ボルトで固定する。傷が多い場合にはまるごと新品に交換することも

「一番多いのは、スカート部分の修理ですね。不整地などを走行すると、どうしても傷つき破れるので、補修や交換は頻繁に行います。あとは電子、電気機器の修理。就役して長くたつ艇なので、どうしても壊れる部分は出てきます。ほかにも、定期点検ではエンジンなどたくさんの項目をチェックします」

画像: 「ロックボルトガン」という名のLCAC専用工具。左の写真のように、スカートとスカートをつなぎ留めているボルトを固く密着させるときに用いる

「ロックボルトガン」という名のLCAC専用工具。左の写真のように、スカートとスカートをつなぎ留めているボルトを固く密着させるときに用いる

 少人数で整備、修理を行っているため、突発的な故障が起きた場合などのスケジュール調整が大変だという。

「定期整備だけでも6隻を3カ月ごとに行わなくてはならず、それだけで1年に24回。加えて故障の修理もあります。また、整備のためにはつり下げた艇の下に潜り込む必要があるなど、危険を伴う作業もあるので、ちょっとしたミスが大事故につながりかねません。そのため基本的には2人以上で、声を掛け合い確認し合いながら作業を進めるようにしています」と川畑1尉は言う。

長く乗務するのは大変!「LCAC」の構造とは?

画像: 専用の自走クレーンでつり上げ移動しているLCAC。クレーンにはタイヤと操縦席、エンジンが付いていて、動けるようになっている

専用の自走クレーンでつり上げ移動しているLCAC。クレーンにはタイヤと操縦席、エンジンが付いていて、動けるようになっている

 さらに、整備する立場から見たLCACの構造上の特性について聞いてみた。

「LCACは、軽量なアルミ合金製で、分割された『モジュール構造』で成り立っているのが特徴です。艇の本体ともいえる浮力ボックス、乗組員が乗るキャビン、浮力を生むリフトファン、エンジン、推進力を発生させるプロペラです。

 モジュール構造の利点は、仮に大きな損傷を受けた場合でも、壊れた部分だけ容易に交換可能だという点。LCACは、全ての艇体構造を組み立てた後、浮力ボックスの下に黒いゴム製のスカートを装着して完成です」

画像: 大きな推進用プロペラの近くにある、ラダー(かじ)をチェックする整備員。常に全力を出せるよう丁寧な作業で整備を行う

大きな推進用プロペラの近くにある、ラダー(かじ)をチェックする整備員。常に全力を出せるよう丁寧な作業で整備を行う

 一方で、アルミの軽量な構造は大きな衝撃に弱く、また腐食しやすいという欠点もあるという。

「乗組員から見ると、洗面所もトイレもありませんし、冷蔵庫もベッドもありません。爆音で振動もすごいですし、長く乗務するのは大変だと思います」と川畑1尉はクルーの苦労をおもんぱかる。

 ところで爆音といえば、動かす際の騒音をできるだけ減らすための工夫がある。それが「LCAC専用のクレーン」の存在だ。川畑1尉が説明する。

「エンジンやファンの音がものすごいので、周辺住民の方々への影響を考慮し、通常であれば海からスロープを通じてそのまま陸上に上がってくるLCACを、クレーンを使って海上から陸上に揚げたり、またその逆に発進させるために海に降ろしたりしています」

 この巨大クレーン、正式品名は「輸送用エアクッション艇用移送装置」といい、約150トンまでつり下げ移動することが可能だという。

「タイヤが付いていて移動できるのですが、荷重状態での速度は分速20メートル。カメが歩くくらいのスピードですね」と川畑1尉。

LCACを知り尽くした自分たちにしか直せない!

画像: 騒音に配慮しつつエンジンの試運転ができる「試運転場」。クレーンでLCACを台車に載せ、台車ごと中に移動。ドアを閉めれば騒音を抑えながら試運転が可能

騒音に配慮しつつエンジンの試運転ができる「試運転場」。クレーンでLCACを台車に載せ、台車ごと中に移動。ドアを閉めれば騒音を抑えながら試運転が可能

 実際に動かすところを見せてもらったが、大きなLCACがつり下げられたまま静かに動いている姿は迫力があった。

「整備のために格納庫に入れるときや、試運転場、整備用ピットに移動するときにも使います」

 一種独特の苦労があるLCACの整備作業。整備科の隊員たちは、この仕事にどんなやりがいを感じているのだろうか。

「海自で唯一、LCACが整備できるのは私たち呉造修補給所のエアクッション艇整備科だけです。『俺たちしか直せない』というのが一番の誇りであり、やりがいですね。今回の災害派遣のように、われわれが整備・修理したLCACが活躍しているのを見ると、達成感を覚えます」

 整備というスペシャリストの中の、さらに少数精鋭のスペシャリストとして、LCACの整備・修理を担うエアクッション艇整備科の隊員たち。今後、新型のLCACを運用する時代になったとしても、彼らの任務の重要性は変わらない。

(MAMOR2024年8月号)
※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです

<文/臼井総理 撮影/村上淳>

能登を救え!改めて実力を示した自衛隊のLCAC(エルキャック)とは?

 毎日のようにテレビ画面に映し出される戦争の最前線シーンを見ていると、兵士の任務は迫撃砲やミサイルを撃ったり、戦車や装甲車で進撃することと理解されている方も多いのではないだろうか? 

 しかし、その数百倍の兵士が後方で戦っている。自衛隊も同様だ。領空侵犯を阻止するため緊急発進する戦闘機や、領海への侵入を防ぐために監視する護衛艦、潜水艦、哨戒機などの任務は、報道などで国民の目に触れる機会もあるが、その任務を支えるために、国民の目に触れない多くの隊員が日本を守るために戦っているのだ。そんな“あなたが知らない自衛隊の仕事”を、マンガで紹介しよう。

冷凍庫の在庫調査

極寒の倉庫内で食材の在庫調査

【海上自衛隊給養係】

 隊員食堂で調理などを担当する給養員。月に1度ほど、マイナス25℃という極寒の冷凍庫で在庫調査を実施する。食材は消費期限が早いものから使用するので、古い食材を出しやすい位置に移す入れ替え作業を行う。耳や鼻が凍傷にならぬよう、10分ほどで1度は外に出るという、ハードな力仕事だ。

楽譜の管理

演奏会で使用した楽譜を収納棚に整理

【自衛隊の各音楽隊】

 自衛隊の音楽隊は広報のためや、隊員の士気高揚のためにイベントなどで演奏している。使用した楽譜の整理・収納を行うのも、隊員のおしごとだ。全ての楽器のパートが書かれた譜面「総譜」に記された順番どおりに並べる。それを袋に入れて、楽譜室のジャンルごとに分かれた棚に収納するのだ。

かいのきせ巻き

短艇で使う「かい」を補強するおしごと

【海上自衛隊教育隊など】

 教育隊幹部候補生学校などで行われる、海自伝統の短艇訓練。気力と体力、団結力を養うため、12人のこぎ手が木製の「かい(オール)」をこいで短艇を進航させる訓練だ。そこで使用するかいの整備は教育隊の教材係などが担当。タールを染み込ませた麻のロープをかいに巻きつけ補強するのだ。

砂盤作り

学生指導用のリアルなジオラマを作製

【陸上自衛隊の各学校など】

 陸自の学校などで使用される「砂盤」は、地図の等高線を立体的にしたジオラマのようなもの。これを作製するのも隊員だ。砂盤を使って行われるのは、戦闘指導や戦闘予行など。リアルに作られた砂盤の上で車両や敵兵の模型を動かすことで、実際の現場での行動をイメージしながら学べる。

航空機の機付長名の塗装

機付長の名を書くことで業務への士気を高める

【航空自衛隊各飛行部隊】

 航空機の整備を担当する主任は「機付長」と呼ばれる。戦闘機などには、この機付長の名前が整備担当の機体に書かれることがある。それは、その機体に対する「責任の所在の明確化」のため。名前を書くことで、機体の安全のための整備を意識させ、「俺の機」を管理するという“愛機精神”を醸成させるのだ。

自衛隊の「縁の下の力持ち」たち。取材して痛感したことは…

 このマンガは、雑誌『MAMOR』に2017年から2年間連載された「岡田の手も借りたい!」という体験ルポを基に描いた。普段、光の当たらない部隊に脚光を浴びせたい、と取材にあたった、元予備自衛官でライターの岡田真理さんに、今回のマンガに登場する各部隊での経験やその印象について語ってもらった。

地味な任務の人がいて今の平和があると実感

 全国各地にある陸・海・空の各自衛隊の部隊を取材して『MAMOR』で記事を書いている岡田さん。自衛隊のさまざまな仕事に触れるうちに、気づいたことがあったという。

「自衛隊には戦車や戦闘機、護衛艦といった華やかな部隊がある一方で、『え!? 自衛隊でこんなお仕事を!?』とか『華やかに見える自衛隊の任務はこういう部隊に支えられていたのか!!』と知ることができました。どの部隊にも、与えられた仕事を地道に黙々とこなしている隊員さんがいることを実感しましたね」。中でも印象に残っているのが、自衛官が使う物品の整備をしている隊員の言葉だったと、岡田さん。

「その隊員さんが縫製したシーツや枕カバーのクオリティーがあまりにも高かったので、ここまでする必要ある? 給料に見合わないのでは? と思ったんです。するとその隊員さんは、“自分たちは自衛官の活動を支えるサービス業で、無償のサービス、心のこもった支援を心がけている。その結果、自分が整備した物品を使った隊員に喜んでもらって、『ありがとう』の一言がもらえれば、それで満足だ”って言うんですよ」

 岡田さんは、災害時に被災した方たちが派遣された自衛官に感謝するのは、自衛隊がこの「無償のサービス」を追求しているからだと思い至ったという。「でも、災害派遣に参加した隊員の皆さんは『当たり前のことをしただけ』と必ず言います。そんな無償のサービス精神に溢れた自衛隊って、やっぱりすごいなあって」。普段は人目につかない縁の下の力持ちたちの作業によって支えられ、日本の平和を守っている自衛隊。取材を通してそのことを痛感したと岡田さんは、今回の漫画化に寄せてコメントをしてくれた。

【岡田真理】
1977年、福岡県生まれ。同志社大学工学部中退。フリーライター、元陸上自衛隊予備自衛官。著書に、当ページで紹介した連載をまとめた『誰も知らない自衛隊のおしごと』(扶桑社)、『いざ志願! おひとりさま自衛隊』(文春文庫)などがある

(MAMOR2022年2月号)

<文/魚本拓 漫画原案/岡田真理 漫画/日辻 彩>

あなたが知らない自衛隊のおしごと

※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです

最新号のご案内(11月21日発売 定価:780円)

画像: 最新号のご案内(11月21日発売 定価:780円)

MAMOR2025年1月号を購入する

父、母、兄弟姉妹……隊員一家の日常は? 自衛官ファミリーの肖像

 自衛官ファミリーの肖像父、母、兄弟姉妹……隊員一家の日常は?

 俳優の藤岡弘、さん一家は「芸能ファミリー」として有名ですが、マモルが取材で各地の基地や駐屯地を訪れると、“わが家は自衛官ファミリー”という隊員に、よくお会いします。

 自衛隊においては、親やきょうだいも自衛官という隊員は珍しくないようです。家族でありながら同僚であり、場合によっては上司や部下となる人間関係って、興味ありませんか?

 そこで、9つの自衛官ファミリーに取材して、その素顔に迫りました。

 なぜ、自衛官の子は親の後を追うのか? その秘密にも迫ります。自衛官の家族に敬礼!

パリ五輪のメダル獲得をマモル読者に報告! 自衛隊体育学校アスリートの強さとは?

 400人余りの日本代表選手が出場し、世界中を熱く盛り上げた2024年パリオリンピック。
 
 自衛隊体育学校に所属する7人の自衛官アスリートもそれぞれの活躍を見せてくれました。

 見事メダルを獲得した高谷大地1等陸尉、新添左季2等陸尉、佐藤大宗2等海曹の3人から、
本誌連載で彼らを応援してきたマモル読者へ凱旋報告をしていただきました。

 そして、自衛隊体育学校の監督やコーチからも、その強さを生み出した秘密を伺いました。

隊員食堂:「エビ・エスカロップ」航空自衛隊 根室分屯基地

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 わが国が他国などから侵略を受けた際に、地上で敵を迎え撃つ陸上自衛隊は、弾薬や燃料は当然のこととして、食糧から医療まで必要なあらゆるモノ、コトを全て自前で用意し、最前線の部隊を支えている。攻撃を受けたり故障などで飛べなくなった航空機を、最前線で修理・整備、回収をする整備部隊まで用意されているのだ。それが「航空野整備隊」だ。

マルチな整備員を育てる教育

 航空野整備隊では、設備の整った格納庫だけでなく、クレーンも機材もない野外での修理・整備を行わなければならないこともある。そのために、整備の技術はもちろんのこと、野整備隊として必要なさまざまな能力を隊員に身につけさせるために多種多様な訓練・教育を実施している。

 彼らが普段どんなことを習得しているのか、前回の記事に続いて具体例を紹介しよう。

「危険見積」で修理・整備中の事故を未然に防ぐ

画像: 危険見積と対策は安全な整備作業には不可欠。クレーンでつり下げ中の重量物には不用意に近づかないこと、つり上げに使うスリング類の事前点検、工具・部品などの紛失や機体への置き忘れ防止などを徹底する

危険見積と対策は安全な整備作業には不可欠。クレーンでつり下げ中の重量物には不用意に近づかないこと、つり上げに使うスリング類の事前点検、工具・部品などの紛失や機体への置き忘れ防止などを徹底する

 航空野整備隊では若手整備員を対象として、整備訓練専用のヘリコプター(UH−1Jなど)を使い、トランスミッションやエンジンの交換など難易度の高い整備を実習している。

 作業前には「危険見積」と呼ばれる、一連の作業中で危ないのはどのあたりかを確認し、その対策を練ることが大切だと教える。さらに、過去に発生した事故や不安全の教訓を確認し、風化しないように徹底。安全に関する知識、意識を高めるよう教育を進めている。

「航空学校に入校」し整備員としての基礎を学ぶ

画像: 航空機用エンジンの仕組みについて学んでいる学生たち。航空学校霞ヶ浦校では、陸上自衛隊が装備する航空機や通信・電子器材の整備や補給について学ぶ 写真提供/防衛省

航空機用エンジンの仕組みについて学んでいる学生たち。航空学校霞ヶ浦校では、陸上自衛隊が装備する航空機や通信・電子器材の整備や補給について学ぶ 写真提供/防衛省

 航空野整備隊に新しく配置された隊員は、部隊の現場で実務経験を積みながら「初級航空機整備」という自衛隊内での資格を習得する。その後、実務経験を積みながら陸曹候補生を目指し、課程修了後は、霞ヶ浦駐屯地(茨城県)にある航空学校霞ヶ浦校で「航空機整備課程」に入校。3~6カ月の教育を受ける。

 さらに、エンジン交換やトランスミッション交換など専門性の高い技術を習得するため、同校の「航空機体整備課程」に入校する。なお、整備を担当する機種の多い航空野整備隊では、1人で2、3機種の機体を整備する必要がある。

修理・整備前後の「飛行支援」で離着陸をサポート

画像: 飛行場までの誘導は航空管制の仕事だが、飛行場に到達してから着陸、そして格納庫などへの移動については航空野整備隊も担当する 写真提供/防衛省

飛行場までの誘導は航空管制の仕事だが、飛行場に到達してから着陸、そして格納庫などへの移動については航空野整備隊も担当する 写真提供/防衛省

 航空野整備隊は、航空機を運用する飛行隊に対して、機体整備以外でもサポートを行う。航空機が不具合などによって予防着陸(注)や不時着した場合などに航空機の回収を実施するほか、事故などで航空救難が発生した場合の搭乗者の救出・救護、さらには現場の保存や警戒、そして航空機の回収も航空野整備隊の仕事だ。これらは大型トレーラを持つ輸送科部隊などとも連携して実施する。

 これに加え、有事にはヘリによる戦闘を実施する場合の、補給地点での燃料や弾薬補給、そして周囲の警戒や警備も彼らの仕事だ。また、平時には駐屯地に野整備隊でしかできない整備のために訪れた航空機に対して、格納庫への誘導などの支援を行っている。

(注)予防着陸:予期せぬ異常や状態の変化に伴い、危険を避けるために予定外の着陸を行うこと

第12旅団のヘリコプターを対象に「巡回整備」を実施

ヘリの機体下面にあるレーダーを整備する整備員。航空機を安全に運用し性能をきちんと発揮するためには、彼らの不断の努力が必要だ 写真提供/防衛省

 東部方面航空野整備隊は、立川駐屯地に所在する東部方面航空隊、および第1飛行隊がもつヘリコプターのほかに、相馬原駐屯地(群馬県)に本拠を置く「第12ヘリコプター隊」のもつ機体の整備も担当している。現地の航空隊(飛行部隊)が自ら行えない高度な整備を出向いて実施する。

連絡幹部の石下谷1尉。部隊内での連絡・調整のほか、情報管理や情報流出防止の教育も担当している

 連絡訓練幹部として各種部隊内での連絡・調整を行う石下谷由美子1等陸尉は、「伝達漏れがないように、言葉遣いや念押しを徹底するよう心がけています」と語る。

航空野整備隊のメカニック魂とは?

隊長の思いを浸透させ現場をまとめる役割がある

阪神淡路大震災の災害派遣では90日間現地で活動。山の中での活動などの経験から野整備隊の任務遂行のため現場にアドバイスする山内准尉

 最先任上級曹長として部隊の曹・士をとりまとめる立場の最先任上級曹長・山内覚准陸尉。日々現場に顔を出し、隊長と現場のパイプ役に徹する。「隊長が抱く部下への思いを体現するため、また、いざ有事となっても全員が生きて帰れるよう、日々の整備を安全確実に行えることを重点に現場を見ています。現場を束ねる整備隊長、補給隊長の指導の邪魔をしないよう、あくまで裏方として隊員たちの心情把握に努めています」と語る山内准尉。

 自身が一番心がけていることは、との問いには「まずは自分が楽しくやること。皆にマイナスイメージを付けないようにしています」とにこやかに答えてくれた。

野整備隊の特殊性を踏まえマルチに活躍できる隊員を

「基本・基礎の確行」と「向上心を持て」を要望事項として掲げ、隊員にプロとしての自覚とチャレンジ精神を持たせるべく指導する隊長の三雲2佐

 東部方面航空野整備隊を預かる東部方面航空野整備隊長・三雲啓介2等陸佐は、部隊の特殊性を強調する。

「航空野整備隊は、駐屯地だけではなく野外でも整備、特に重要な部品の交換を担います。これができないと航空機の即応性や稼働率が下がり、自衛隊として任務を果たすことが難しくなります。私たちは、どのような場所でも整備を行うため、各種器材と特殊な技能を持っています。これを活用して、陸自航空部隊の円滑な運用に寄与します」

 整備を担当する部隊として、最大のポイントは安全管理。いかなる状況にあっても、安全確実に整備が実施できるように隊員を鍛え上げていくという。

「当隊のもう1つの特徴は、隊員がマルチに活躍する点です。海・空自では個々の整備員に高い専門性が付与されて担当分野が明確ですが、陸自航空部隊は少数多機種化が進んでいることもあり、1人で2機種以上、できれば3機種整備できるように教育しています。今後新機種の導入も予定されていますので、今まで以上にマルチな能力が要求されるでしょう」

(MAMOR2023年3月号)

<文/臼井総理 写真/荒井健>

戦場のメカニック

※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです

画像: LCACを動かす5人のクルー。5人は固定されたチームというわけではないが、規模の大きくない部隊だけに、それぞれの性格や特徴は把握しているという

LCACを動かす5人のクルー。5人は固定されたチームというわけではないが、規模の大きくない部隊だけに、それぞれの性格や特徴は把握しているという

 海上自衛隊に25年以上前から配備されているホバークラフト、LCAC。2024年に、持ち前の実力を改めて発揮し、注目を集めた。

 この年の元日に能登半島を襲った地震は海底を隆起させたため、多くの港に艦艇が入れなくなってしまい、さらに土砂崩れなどで陸路もふさがれて、救助隊が被災地に入れないという事態がおきた。

 そこで、空気の力で船体を浮かせて、深度の浅い海でも高速で航行でき、そのまま砂浜へ上陸できるLCACが、多くの救難物資や救助隊員を運び、能登を救ったのだ。

 今回はわれらがヒーローLCACに搭乗したクルーと、第1エアクッション艇隊の実力を紹介する。

5人のクルーが協力し最大限の力を発揮する

 輸送艦『おおすみ』、『しもきた』、『くにさき』が所属する、海上自衛隊掃海隊群隷下の第1輸送隊。その中に、6隻のエアクッション艇が属する「第1エアクッション艇隊」があり、エアクッション艇を動かすクルーたち63人が所属する。

「LCACには、クラフトマスター、エンジニア、ナビゲーター、デッキエンジニア、ロードマスターの5人が1組となって乗り組み、それぞれがスペシャリストとして自分の役割を果たします。5人のクルーは固定ではなく、任務の内容や訓練の進行状況、スキルの習熟などによって都度組み替えます」とLCAC乗組員の構成を語るのは、自身もクラフトマスターとして乗り組む久留須太一1等海尉だ。

 久留須1尉によれば、基本的に『おおすみ』にはLCAC1、2号艇、『しもきた』には3、4号艇、『くにさき』には5、6号艇が搭載され、クルーたち運航班も艦艇ごとに配置されるという。ただし、LCACや輸送艦の整備・修理状況などによって変わることもあるとか。

「当隊の任務は、人員や貨物を輸送艦と陸上の間で輸送すること。2013年には、台風被害を受けたフィリピンに対し国際緊急援助活動として救援物資の輸送を行いましたし、アメリカ海軍との共同訓練は度々行っています。また新たなクルーを育成する教育の支援も担います」

 部隊の雰囲気はどうだろうか。

「比較的小所帯ということもあり、互いの距離感も近く、結束も固いと思います。個性豊かなメンバーが集まっているため、普段から意見をぶつけ合い、理解し合いながら高め合っています」

5人のクルーの仕事内容とは?

クラフトマスター

画像: 3人並びの操縦席、一番右に座るのが操縦かんを握る操縦者であり「艇長」でもあるクラフトマスターだ。「右が機長席なのは、ヘリコプターと同じですね」と久留須1尉

3人並びの操縦席、一番右に座るのが操縦かんを握る操縦者であり「艇長」でもあるクラフトマスターだ。「右が機長席なのは、ヘリコプターと同じですね」と久留須1尉

 久留須1尉に、クラフトマスターとしての仕事について聞いてみた。

「クラフトマスターは艇長としてLCACを指揮し、自らも操縦かんを握って操縦を行います。LCACは操縦が難しい乗り物であり、特に『感覚』が重視されます。メーターだけを見ていては分からない周囲の状況、風、艇の挙動などを先読みしながら操縦します」

エンジニア

中央の席に座るのはエンジニア。エンジンや電気系統などの監視や制御を担当。「機械なのでさまざまな故障が起きます。経験を積むことでより良い運用ができるようになります」と奥山1曹

 続いて話を聞いたのは、エンジニアを担当する奥山真樹1等海曹だ。

「エンジニアは、操縦席の中央に座り、LCACが常に全力発揮できるようエンジンや電気系統などを監視したり、不具合に対処したりというのが任務です。海面状況が悪いとか、艇に不具合が起きた場合でも、エンジニアとして最大限運航を続けられるよう努めます」

 エンジニアから見た、LCACを運用する難しさはどのあたりにあるのだろう。

「経験が重要だという点です。私もここに16年いますが、艇の改修や、自分たちの知識も増えて技量も上がったことで、以前よりもさまざまな運用に対応できるようになったと実感しています」

ナビゲーター

画像: 左の席がナビゲーター。レーダーや航路図をチェックしながら、どの方向に進むべきかクラフトマスターにレコメンド(提案)する。「実質動かしているのが私です」とは高梨1曹の言葉

左の席がナビゲーター。レーダーや航路図をチェックしながら、どの方向に進むべきかクラフトマスターにレコメンド(提案)する。「実質動かしているのが私です」とは高梨1曹の言葉

 ナビゲーターの高梨晃章1等海曹は、クルー内での役割を次のように説明した。

「ナビゲーターは、レーダーや無線機の操作をするとともに、訓練や運航計画全般においてクラフトマスターを補佐する役割です。機器の不具合や気象・海象の急変もありますので、常に先を読み、もしもが起きた場合の第2、3案をイメージしながら任務に臨んでいます」

デッキエンジニア

3人が座る操縦席の下に、座るポジションがあるのがデッキエンジニア。「うねりが大きいときに、出力を上げると油圧ホースが破けることがあるので、そういうときは忙しいですね」と市山3曹

 4人目のクルーは、デッキエンジニア。担当する市山翔大3等海曹の話を聞こう。

「デッキエンジニアは、洋上でLCACが故障したり、運航中に油圧ホースが破損したり、ブレーカーが落ちたりといった場合にすぐ応急処置ができるよう、持ち場で待機するのが主な任務です。LCACはたった5人で運航しているため、ほかのクルーの仕事状況を見ながら、できることをやれるよう心掛けています」

 市山3曹によると、洋上でのトラブルは、それなりにあるという。トラブルを大きくせず、常にLCACが能力を発揮できるように対処するのが、彼の仕事だ。

ロードマスター

画像: ロードマスター。(1)主な仕事は、車両や荷物を甲板の適切な位置に誘導・固定すること (2)航行中は左の小さな見張り席に座り、左舷の見張りを担当。「1人席ですが、音声はヘッドセットでつながっているので寂しくはないです(笑)」と村上3曹

ロードマスター。(1)主な仕事は、車両や荷物を甲板の適切な位置に誘導・固定すること (2)航行中は左の小さな見張り席に座り、左舷の見張りを担当。「1人席ですが、音声はヘッドセットでつながっているので寂しくはないです(笑)」と村上3曹

 最後のクルーは、ロードマスター。LCACに搭載する車両、物資、人員の統制を行う仕事だ。この任務に就く村上諒3等海曹に、具体的な仕事内容を聞いた。

「車両や物資の重量を計算し、バランスをみて甲板上の適切な位置に誘導し、固定するのが主な仕事です。LCACが航行しているときは、操縦席とは逆、左舷の見張り台から左側の見張りを行います」

5人に共通することは「LCACに乗れることへのやりがい」

 LCACクルーの任務は、少人数ゆえ臨機応変さが求められることに難しさがある、と村上3曹は語る。

「ロードマスターでいえば、搭載する車両が変更になったときなど、その場に合わせた対応が必要です」

 5人のクルーに共通していたのは「LCAC乗りとしての矜恃」を強く持っていること。LCACに乗れること自体にやりがいを覚えるようだ。

(MAMOR2024年8月号)
※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです

<文/臼井総理 撮影/村上淳>

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