ウマ娘。それは異世界からこちらの世界に流れ着いた魂を宿した俺達人耳とは違う人類である。
俺達人耳は男も女も生まれるのだが、ウマ娘はその名前の通り女性しか生まれず馬を彷彿させる特徴的な耳と尻尾が生えた獣人とも呼べる存在だ。
そう、この世界では普通の事なのだが俺に関してはちょっと事情が違っていた。
そう、俺は何を隠そうともしがない一般転生者だ。それも恐らくウマ娘達、競馬の魂が来たであろう元異世界出身の転生者。
それはつまり、なんか俺にもウマソウルパワー的なモノが宿っていた。いや、俺、人耳の男なんだけど?
時は遡ってつい先日の5歳の誕生日を迎えた日。俺こと加賀谷 啓介は肺炎により生死の境を彷徨った後、唐突ながら前世の記憶と共にこの不思議なパワーを自覚した。
ちなみに加賀谷啓介とは、この世界での俺の名前で前世の記憶に関しては思い出せなかった。
転生とは元よりそういう仕様なのか? それともウマソウルパワー的な固有名詞によって消されたのか? は今も定かでは無い。
ただ本人としては、なんて言うか肺炎になる前までの自分と生死の境の後に思い出した自分の人格が統合されて記憶が共有された感覚である。
多分、伝わらないと思うがコーヒーにミルクを混ぜてコーヒーミルクになった感じだ。俺も正直よく分かっていない。
ただし、今までの記憶を振り返ると自分は生まれ付き体が弱い様だ。
今回の肺炎もそうだけど、なんか日常的に何処かしらの骨が折れたり熱で死に掛けたりしていた様だ。
「今回、奇跡的に息を吹き返しましたが今後も似た様な事は起きるでしょう……」
「っ!? そんなっ……!?」
「先生、何とかならないんですかっ……!?」
「……申し訳ないです。こればかりは現代医療では何とも……。啓介君のお力になれず申し訳ないです。お辛いと思いますが万が一の覚悟だけはしていて下さい」
病室で両親と共に医者からそう診断された。どうやら自分の想像以上に俺の体は弱いらしい。
多分、先生も啓介の凄い弱過ぎる原因が分からないのだろうが、俺は何と無くその原因が分かった。
それは俺に宿るウマソウル的な不思議パワーだ。本来ならこの力はウマ娘に宿る力だ。
それを人耳の体に宿した事による力の暴発で器である肉体がその許容値を超えてしまっているのだろう。
意気消沈した両親。何も言えずただその事実のみを聞き固まってしまう。
医者やナースもそんな両親達を見て空気を読み退室する。今は家族で話し合う時間を設けた方が良いと思ったのだろう。
「母ちゃん、父ちゃん……俺、頑張るよ」
「……えっ?」
「何を……」
「頑張って生きるから、そんな顔しないでよ……」
「啓介……」
「……そうだな。私達が弱気になってどうするんだ」
「っ!? そう、ねっ……! 一緒に頑張りましょうっ……!」
「うん! よろしく! ゲホッ、ゴホッ」
「っ!? だ、大丈夫っ……!?」
「う、うん。ちょっと大声出し過ぎたみたい……。ちょっとずつ頑張るよ」
「そうしよう。無理は良く無い……」
それからと言うモノ、俺はどうすればこの力を制御出来るのか? を考える事から始めた。
ウマソウル的な不思議なパワーはこの世界でも謎が多い、と言うか解明されていない事がほとんどだ。
そう言う訳もあって両親に相談出来ないし、例えしたとしても意味が無い事は分かっていた。
と言うか何をどう説明すれば良いのか? 俺自身が1番聞きたい所だ。
多分、俺の来世だったオリジナルの啓介は肺炎の際に心停止が起きてそのまま意識が前世に取り込まれたのだろう。
それはつまり前世の俺が来世の啓介を殺した事と同義だ。元より同じ魂だけど前世と今世では生まれた世界が文字通り違う。
だから、そのままの事実を伝えれば両親は恐らく壊れてしまう可能性が高い。何ならそのまま心中と言う可能性すらあるだろう。
これは俺の中で一生隠しておく必要がある事実だ。見だりに誰彼構わず話す事は厳禁だ。何かない限り心の内にしまっておこうと決めた。
そうしてウマソウル的なパワーを考えながら入院生活が終わり帰宅した。
相変わらず脆く弱い体であるが、この力を自覚した頃から回復力と言うか再生力が上がった気がした。
「(昨日も足の指が折れたけど……今日起きたら治っている? えっ? どう言う事??)」
確かに昨日、力み過ぎて足の指がその負荷に耐えられず折れてしまった。記憶にある限り何度も起こしていた痛みだから忘れるわけがない。
それなのに寝て起きたら指の痛み所か腫れた後もない。ウマ娘は人耳と比べて3〜5倍ほど体が頑強に生まれてくるらしいがあくまでもそれだけだ。
肉体の再生力が特別高い訳でも無い。人耳よりはウマ娘は沢山食べてられる消化機能を持っているからそれに比例するだけだ。
「(もしかして……俺のこの力はウマソウル的なモノでは無い? いや、まぁ、良く考えればウマ娘じゃ無いからそうなんだけど……)」
そう考えればまだワンチャン制御出来る可能性があった。
母がウマ娘で父が中央のトレーナーだから難しい話は分からないが、ほぼ間違えなくサイゲが関わっていたプリティーダービーと言うゲームの世界線だろう。
多少やった事があるしアニメや漫画、映画展開していたからなんか覚えていた。前世の名前を覚えてないのに実に都合の良い記憶だと思った。
だけど、これくらいで丁度良いのだろう。自分が何故死んだのか? どう言う人間関係を築いていたのか?
などの記憶が覚えてない代わりにウマ娘に関する記憶だけは鮮明に覚えていたから妙に転生した事を割り切れた。
取り敢えず具体的な解決策はまだ見つからない。だけど、あの世界では割と俺みたいな良く怪我するウマ娘が3年を完走していた。
だから、今は良く食べて、良く休み、良く動き、良く遊び、良く学ぼうと思う。
DBの亀仙流かな? まぁ、人生を面白おかしく生きた者が勝ちなのだろうから新たな人生の指標としてリスペクトしようと思ったのだった。