両親が離婚して10年が経った。まぁ、養父である良介に関しては割と頻繁に会っているからその感覚があんま無い。
母モブリートに関しては俺達への罪悪感からなのか連絡は一切無かったので、個人的に探してはいるけど見つかっていない。
あの時、両家の当主代理人が言った事は良介を介して両家に伝わり、当主としては本当に慰謝料としか払っていない事が発覚したのは驚いた。
まさかの大暴走に両家では大粛清があったらしい。まぁ、代理人達の気持ちも分からんでも無い啓介からしたら、本当の所どっちなのかは分からなかった。
そう言う訳で養父である良介とはなんだかんだで毎年会っている。夏休みは北海道から良介のいる東京へ行き、それ以外の日はビデオ電話でトレーナーの勉強を教えて貰っていたりしている。
俺はこの10年で体調や体質が大きく改善して今は並のウマ娘よりも身体能力が上回った人耳のバグである。
流石にこのウマソウル的な不思議パワーも20年以上の付き合いで、子供の頃のように動揺で力加減をミスする事はなくなった。
そんな俺だけど子供の頃からレースやウマ娘、トレーナーの勉強をしていたお陰で夢が出来た。
それは祖父である瑛二の按摩マッサージ指圧や鍼灸師を継いで、ウマ娘の怪我を予防するスポーツドクター的なスポーツサポーターになる事である。
祖父が行う鍼灸は笹鍼流と言う日本古来から伝わるウマ娘に特化した鍼灸術でこれが使える人は極僅かしか居ないらしい。
そんな笹鍼流は秘孔を突く事で刺激を与えてウマ娘の体を整える技術らしい。オカルト地味た技術だけど、俺の相馬眼で見る限り祖父の技術は卓越していた。
祖父はエネルギーの流れが見えてないのにウマソウル的なパワーの循環を促進させていた。俺はその技術にただ見惚れてしまった。
そう言う事情もあり専門学校を卒業した俺は国家資格である按摩マッサージ指圧師と鍼師、灸師の資格を取得した。
一応、養父の勧めもあって在学中の20歳の時にトレセン学園教官と地方トレーナー資格は取得してある。
中央トレーナー資格は来年受験予定だ。そんなこんなを良介へ報告の電話をした。
「そうか……。啓介も、もうそんな歳になったのか……」
「父さんも俺も、あれから随分老けたね〜」
普段はメジロ家とサトノ家の事を考えて人前で話す時は良介さんと名前で呼んでいるが、電話や家族がいる前では昔通りの父さん呼びにしている。
最初は遠慮がちに名前呼びをしていたが、当の本人が1番それを望んで居たから気にしない事にした。
「老けたって言うな! 私はまだまだ若い者には負けてないさ!」
「でも、この前の休みの日に体を見たけど大分血行悪くなっていたよ? また、無理してパーマーちゃん達を心配させるの?」
「うぐっ……!? わ、分かっているさ……。君の"目"がそう見たのなら無茶をしているんだろうな……」
父さんは動揺した声と共に啓介の相馬眼で見た内容に酷く落ち込みながら反省した。
俺は15歳の時、父と共にあるG1レースへ出場した教え子の勇姿を見に行った。
そのレースで父の教え子が無理をして勝利したが、軽度の屈腱炎が発症している事に気がついた。
その時にそう言う力がある事を伝えた。そして、それが恐らく子供の頃に死に掛けた理由である事も伝えた。
流石に転生した事については言えなかったし、俺もほとんど覚えていないから説明のしようがない。
父は困惑していたが俺がそんな訳の分からない事を唐突に言うとは思えず、直ぐに教え子を連れて病院へ行き屈腱炎の発症を診断された。
当時は2人とも絶望感に打ちひしがれていた。屈腱炎の発症はウマ娘にとって引退を意味する。
しかし、ここには相馬眼と言う不思議な超能力を持った啓介と笹鍼流鍼灸術を修めた熟練の使い手である瑛二がいた。
啓介の魔眼で見た内容を卓越した鍼師である瑛二が処置をして、経過観察を含み同時ウマ娘の回復力を高めるレシピ作りにハマっていた俺がそれを父へ伝えて提供。
そして、見る見る内に屈腱炎を完治した教え子が見事復帰レースで勝利した事で信じる事になったと言う感じだ。
アレから7年が経過した今では、専門的な知識が増えてウマ娘だけではなく、人耳の身体や精神状態まで見れる様になっていたからビックリである。
「ファンタジーさんが俺からも、父さんにキツく言って欲しいって頼まれてたからさ……。
もう歳なんだしチーム・アンタレスのチーフトレーナーを譲んないとぶっ倒れるよ? 病弱だった俺が言うのもアレだけどさ……」
「そ、その事だが……。啓介に1つ相談があってだな……」
良介の妻であり義母の様なメジロファンタジーと2人の娘のメジロパーマーからも心配されて若干声が震えていた良介は、啓介にトレーナーの仕事を手伝って欲しいと相談した。
「いや、俺さっき言ったけど中央の資格はまだ取ってないよ?」
「あぁ、分かっているさ。だが、つい先日の議題で中央トレセン学園ではある程度功績のあるトレーナーが、地方トレーナー資格持ちであればサブトレに推薦出来る制度が追加されたんだ」
「っ!? おぉ〜。それはつまり……」
良介のまさかの発言に啓介は思わず驚いた。それが本当なら中央トレセン学園において革新的な制度だからだ。
「そうだよ。サブトレ期間5年以上で中央トレーナー資格の一部免除制度だ。まぁ、啓介は来年受験するからほとんど関係ないだろうね。
だけど、これによって中央トレーナーはサブトレを安定的に確保出来て人手不足が解消される。
それに加えて地方トレーナーは中央に挑戦し易くなる仕組みになり、それによってチームが結成すれば多くのウマ娘達がスカウトされ易くなると言う制度だ」
正に誰もが得をする神制度だ。中央トレセン学園ではトレーナーが不足している。
それに伴い本来レースの為に入学したウマ娘達が、トレーナーと契約出来ずにレース出場が出来ないと言う自体に発展している。
この問題の一時的な解消としてトレーナーの名前貸し的な裏技があるけど、それで3年間を完走出来るのは極僅かで大半は怪我で引退がほとんどである。
だからと言って中央トレーナー資格の受験内容を簡単にしては、上記の名前貸しと似た様なことが起こるから出来なかったのだ。
「なるほど〜。父さんはその推薦が出来るトレーナーって事で俺をサブトレにするって事ね」
「そう言う事だよ。君の言う通り私もそろそろチームを引き継ごう思って整理している最中なのさ……。
ただ、引き継ぎはほぼ終わっているのだけど妻の実家からあるウマ娘を頼まれていてな……。
君の言った通り最近、無茶が祟って体にガタが来ていてサポートが欲しいんだ。頼めるかい?」
「メジロ家のウマ娘なら寧ろ俺なんかよりも、熟練の技術を持つチームトレーナーに頼んだ方が良いんじゃ……??」
啓介の質問は最もである。わざわざちびっ子ウマ娘のトレーナーとしての経験しか無い啓介よりも、良介を長年支えた熟練のトレーナーの方がサポートになるのでは? と疑問が湧いた。
「その娘、メジロラモーヌの妹のメジロアルダンでね。姉の彼女よりも脚部不安が心配されているんだ……」
「……つまり、俺の目を通じてサブトレとして俺がサポートする。そして、トレーニングは父さんがやる分業的な感じ?」
「そう、そんな感じ。頼めるかい?」
「うーん……。まぁ、これも修行の一貫と考えれば良いのか。爺ちゃんからも折角だから10年くらいは地方でトレーナー経験を積んだ方が良いって言っていたし。了解したよ」
「っ!? ありがとう! 助かるよ!」
そんな感じで啓介が中央トレセン学園に行く様になったのであった。