あれから4年の月日が経った12歳の今日、父である加賀谷良介と母であるモブリートの離婚が成立した。
離婚の原因は浮気だった。この話のキッカケになった事は啓介が9歳の時だった。
当時、良介が32歳の時にトレーニングを担当していたウマ娘がメジロ家のウマ娘でシニア期に天皇賞(春)の勝利に大きく貢献した。
これによってそのウマ娘は元からある想いを自覚して父へ惚れ込み、メジロ家も何とか良介をメジロ家に取り込む為に策を講じた。
その結果、判明した衝撃的な事実が良介と啓介に血の繋がりはなかった事だ。
つまり、結婚して10年近くになるのだが母モブリートはその時に一夜の過ちをしていたのだ。
これによって北海道に住む母の両親である祖父母が召喚されて離婚と言う流れになったのだが、自体はこれだけに収まらなかった。
啓介の血縁上の父は誰なのか? と言う話題になりとうとう観念した母が言う相手がサトノのトレーナーであり、母の元トレーナーであったらしい。
そのトレーナーも母モブリートが初めての教え子で同時に初恋の両想いだったらしい。
ただ、そのトレーナーには婚約者がいてそれがメジロのウマ娘だから、メジロ家もサトノ家も巻き込んだ大問題にまで発展した。
そのトレーナーである里野啓吾には既に家庭があり3人の子持ちである。なんなら3番目の子は最近生まれたばかりだ。
念の為に啓吾と啓介のDNA検査を念入りにしたけど何度やっても99.9%以上の血縁関係がある事が判明して、最早言い逃れが出来ない状況に追い込まれた。
流石のこれには良介と啓介以外にも、良介を奪おうとしたメジロのウマ娘や当主も愕然とした。
彼女達からすれば啓介に血縁関係が無かった事までは良かったと思っていた。
これでそれを理由に別れさせて気兼ねなく良介をメジロのトレーナーにする事が出来ると思っていた。
啓介は知らなかったが両親の仲は割と冷め切っていた。
母の理由は、良介の家庭と仕事の両立が出来ていない事への不満。そして、成長する啓介の面影が少しずつ啓吾に似てきた事の疑念が払拭出来なかった事の不安や罪悪感を抱いていた事だ。
父の理由は、そんな母から昔から妙に避けられている事への不満。そして、父の職業を知って結婚したにも関わらず啓介の居ない時には強く当たられてしまい酷く悩んでいた。
あんなに仲が良いと思っていた両親のそんな事になっていたとは知りたく無かった。
あまりのストレスで過呼吸になり、久しぶりに力の制御をミスしてしまい心臓発作が起きてそのままぶっ倒れて即入院。
なんとか一命は取り留めたが啓介は長期の入院を余儀なくされた。彼は漸く小学校にも通い慣れて4年生のクラスに馴染んでいただけにちょっとショックだった。
前世の記憶を持つ啓介でさえ流石に人間不信になり掛けたが、同時に自分が被害者面して良い立場の人間ではないと思い不貞腐れるだけで済んだ。
面会は医師の判断により両親とは言えど面会謝絶。メジロ家、サトノ家は以ての外だ。唯一許されたのは祖父母くらいだ。
そんなこんなあってうつ病と病弱体質の悪化を反復横跳びしている間に2年が経過して冒頭に至る。今日は退院日だった。引き取りは母の両親である北海道の祖父母だ。
祖父の名前は千堂 瑛二。北海道でウマ娘専門の按摩マッサージ指圧や鍼灸などを行っている傍らちびっ子ウマ娘のサブトレーナーをやっている。
祖母はマリンフィート。元々はそこそこ歴史のある名家のお嬢様だったらしいが没落した後に祖父と結婚。
その後、祖父の仕事を手伝いながらちびっ子ウマ娘のチーフトレーナーとしてコーチングしているそうだ。
「今日から貴方は千堂 啓介よ」
「これから、儂等は家族だ」
「北海道は慣れれば良い所だから焦らずゆっくり慣れて行きなさい」
「……うん」
「まぁ、東京よりは寒い事が難点だがその分、雪祭りや地元の名産品じゃ東京にも負けないから楽しみにしておけ」
「……うん。励ましてくれてありがとう、爺ちゃん、婆ちゃん」
「応よ」
「えぇ。だから、今はゆっくり休みなさい」
結局、あの後両親とは会わなかった。モブリートは祖父母から勘当を受けて、同じく勘当を受けた実父の啓吾と消えた。
養父だった良介は血が繋がって居ないと分かっても啓介の親権を主張したがそれは啓介が断った。
啓介自身も良介には罪悪感を抱いていた事と義母となる良介の教え子が凄く窶れていて、今は互いに距離を置いた方が良いと思ったからだ。
後は単純にメジロ家とサトノ家両家の当主代理から手切れ金を含んだ慰謝料を支払われた事で、実質2度と両家に関わるなと釘を刺された事も要因の1つだ。
啓介の存在はメジロ家とサトノ家の両家の汚点であり、両家の信頼関係を損なう存在だから暗殺されないだけ譲歩されている。
それだけ、今回の騒動は両家の極々一部にしか話されず闇に葬られたのだった。