Re:Born   作:火取閃光

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第2話

 あの日から色々あって取り敢えず3年が過ぎた。今も何とか生きてはいる。

 

 最初は何度か病気や怪我で意識が朦朧としていたが今は去年辺りから大分落ち着いている様な気がする。

 

 力の制御と肉体強度の成長があったからこそだと思っている。小学校は残念ながら行けてない。

 

 まだ、通うだけの体力も何かあった時の学校側のサポートも無いから自宅学習で指定されたプリントや課題を熟して出席扱いにして貰っていた。

 

 アレからと言うモノ、亀仙流をリスペクトするあまりこの力を気と定義して瞑想から始めた。

 

 世界観が違えと思うだろうがまぁ、そうである。ただ、俺としても具体的な解決策が見つからない以上、何かを試すしか方法は無いと思った。

 

 だが、これは後に想定以上の結果を齎してくれたと気が付いた。まずは分かった事だけど、どうやら俺の体には脳のリミッターが外されていたらしい。

 

 それはつまりこの力の暴走は本来ならリミッターが掛けられて出ない筈の出力が外された事でその上限を超えていた。

 

 脳のリミッターとは車で言えばマニュアル操作のギアチェンジの様なモノだ。

 

 普通の人はあらかじめ決められた出力に耐えられる器が出来る様になってからオートでその出力に合うギアチェンジを行っている。

 

 ただ、啓介の場合はそれが外された状態で生まれてしまい、オート操作ではなくマニュアル操作をしなければならないのだ。

 

 だから、本来の人がニュートラルからファースト、セカンドの順に上げていくのに対して、最初からオーバートップしか無いと言う状態だ。

 

 その為にマニュアル操作のエンストみたいなエラーが起きてしまい、蓄積された過負荷が車体の耐久に影響を及ぼしていた。これが病の原因だ。

 

 これは、啓介だけではなく所謂ガラスの脚と呼ばれる怪我のし易いウマ娘達も似た様な事が起きていた。

 

 それが分かったのが去年から発現した相馬眼と呼ばれる特殊能力だった。

 

 これは、簡単に言えばウマ娘達の身体や精神など魂の情報を見る事が出来る特殊な能力だと思っている。まぁ、簡単に言えばアプリトレーナーの鑑定眼の様な力だ。

 

 脳のリミッターを作った事で力の制御が出来る様になり、その分の空いた余剰エネルギーが脳の処理速度を加速させて、自分の目を通じてウマ娘の魂を見る事が出来るのだと思う。

 

 正直、俺自身の知識も必要らしくゲームみたいなステータス表記で見える項目が多い事は分かるが、具体的な数値や状態は黒塗りで潰されてほとんど読めない状態だ。

 

 長く一緒にいるウマ娘である母モブリートの情報ですら、その情報のほとんどが閲覧出来ていないから今後に期待で要検証と言う感じだ。

 

 ただし、トレーナーである父、良介が休日に時間を作って見せてくれたレース映像で一人一人のウマ娘を紹介して貰った。

 

 その際に彼女達から漏れ出すエネルギーが多い人ほどガラスの脚、脚部不安を抱えている事からそう言う状態なんだと思った。

 

「啓介、君は将来トレーナーになりたいのかい?」

 

「どうなんだろう……。でも、ウマ娘のレースは見ていて楽しいしから将来的にはウマ娘の人を支える仕事がしたいとは思うよ」

 

「そうか……。良い夢だね」

 

「うん……。後は父さんみたいなトレーナーって生半可な覚悟でやって良い事じゃ無いと思うんだ」

 

「そうだね……。私達トレーナーは彼女達の人生を支える大事な仕事だと思うんだ。

 

 彼女達はウマ娘として生まれたからには走る事、引いてはレースに勝つ事が人生だと思っている。

 

 啓介の様に多くの未来があるけどやっぱり走っていた時が1番輝いていると思うんだ。

 

 そんな彼女達が後悔しない人生を歩む為に私達トレーナーが支えているんだと思うよ」

 

「うん。俺は父さんみたいなトレーナーはカッコ良いとは思うけど、正直今は自分の事に手一杯だから難しい気がするんだ……」

 

「そうだね……。でも、もしもトレーナーを目指すなら必ず力になるから言うんだよ?」

 

 父の仕事部屋である書斎には重賞であるG3やG2レースなどの取った教え子達のとの思い出の写真が飾られている。

 

 良介はトレーナーの名家ではなくて一般家庭出身の中央トレーナーだけど、魔境と呼ばれる中央でも若くして結果を出しているやり手のトレーナーだ。

 

 今はまだここには飾られていないけど、今トレーニングをつけているウマ娘達をG1レースに出場させて見事勝利に導いて[開拓者]の異名を持っている。

 

 その異名の経緯は、名門とは真逆の意味で使われている寒門と呼ばれる一般家庭出身のウマ娘達を指導して、見事名門出身者達を置いて重賞勝利に導いた事が由来らしい。

 

「勿論だよ。取り敢えずトレーナーになるかは置いておいてトレーナーの勉強はしてみたいから色々教えてね?」

 

 これほど心強い味方は居ないと思い啓介は父へ安心して頼むと良介も嬉しいのか笑って頷いた。

 

「了解したよ。確かに勉強して損はないからやってみるのもアリかもね……」

 

「2人とも〜! ご飯よ〜!」

 

「そろそろ行こうか」

 

「うん! そうだね!」

 

 母であるモブリートから夕飯の知らせを受けて、仕事部屋である書斎のテレビを消してからリビングに降りた。

 

「母さん、今日の夕飯はなに?」

 

「ふふっ。今日は貴方の好物の人参ハンバーグよ」

 

「っ!? やった! もう、お腹ペコペコなんだよ〜!」

 

「ふふっ。沢山作ったからたんとお食べ」

 

「俺、母さんの手料理好きなんだ。手洗いうがいをして来るね!」

 

 まだ少し病弱体質がある啓介はリビングを出て洗面所へ向かう。モブリートはその様子にとても嬉しそうな顔で笑った。

 

「あらあら、まぁ……」

 

「でも、本当に良かったよ……。最近はよく食べて病気にもならず怪我もほとんどなくなってさ……」

 

「えぇ、そうね……」

 

「このまま、あの子が健やかに育ってくれれば嬉しいな……」

 

「えぇ、そうね……」

 

 日に日に体質が改善する事を喜ぶ良介と2人っきりになり少し陰りを見せるモブリートだった。この時はまさかあんな事になるなんて啓介には想像も出来なかったのだ。

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