キャリア・教育

2021.03.20 17:00

ナイキCM賛否にモヤモヤ 広告に「ソーシャルグッド」は必要か?|#U30と考える


田中(続き):ナイキのCMについてもう一点挙げると、今回の広告の主人公は3人とも女の子でしたよね。人種の問題がすごくクロースアップされているけれど、私自身は若い女性をエンパワメントするというメッセージを最初に読み取りました。あのCMを批判する人も、賞賛する人も、ジェンダーの問題にはあまり焦点を当てていないんです。なんでも男の子が主役という風潮がある中で、そこはもっと評価されてもいいのにと思います。

NO YOUTH NO JAPAN 田中舞子(以下、NYNJ田中):スポーツ界でのマイノリティや女性への差別も、CMのメッセージとしてあったんですね。

田中:アメリカの女子サッカーはW杯で優勝しているのに、賞金が男子の6分の1だったり、日本でも男子サッカー代表選手と女子サッカー代表選手では飛行機の座席ランクも違ったりと、あのCMはそんな境遇の違いもふまえて制作されていたのではないかと思うんです。エスニックマイノリティへの差別とジェンダー差別の二重のメッセージを持たせたナイキはさすがだなと思います。

大坂なおみ
女子テニス世界ランキング2位の大坂なおみ選手 コロナ禍には黒人差別に抗議するBLM運動への連帯を示した(Getty Images)

政治的なメッセージが日常に戻りつつある


NYNJ田中:私たちの世代からすると、ああいう広告を出せる海外の企業ってやっぱりかっこいいなというイメージを持ちます。先ほど、オンライン時代になったことで広告を巡る環境が変化したとお聞きしましたが、時代の流れの中で日本の消費者の感覚には変化はあったのでしょうか。

田中:日本でも1960〜70年代には、日常の生活に政治的なメッセージやコミュニケーションが溢れていました。例えば、学生運動や女性解放運動がそうですね。ややもすると過激かもと思われるようなキャンペーンが繰り広げられていたんです。それが90年代以降にだんだん隅に追いやられていき、日常において政治的なテーマで話をすることは適切ではない、と思われる時代になっていきました。女性の権利を訴えると、過激な人って思われる時代です。

それがいま、また日常の中で政治的なことや社会問題について語ることが敬遠される時代が終わりを告げつつあるのかな。日本社会において、再び政治的なテーマについて人々の関心が高まりつつあることに、ナイキはいち早く目をつけたのだと思います。素晴らしいメッセージはこめられているけれど、社会問題を利用して商品を売ろうとしてるんでしょ、という意地悪な見方もできます。しかし、世界最大のスポーツ・ブランドが政治的な課題を取り上げたということは、社会全体が政治的な問題をきちんと問い正そうとする方向に変化している証拠であるのではないでしょうか。

受け手に求められる「コンテンツ読解力」


NYNJ続木:ナイキのCMをはじめとしてメッセージ性の高い広告は、共感の声が上がる一方で、炎上するなど日本では打ち出し方が難しいのではと感じます。メッセージ性の高い広告を打ち出す際の障害や壁となるのはどんなことなのでしょうか。

田中:ナイキの広告が炎上した時に残念だったのは、SNSで拡散されるうちに否定的な意見にひきずられていったことです。あのCMは、批判する人々が主張していたように「日本人全員」が人種差別をしている、というような主語の大きな物語ではありません。解釈によっては3人の女の子のうちのひとりは、エスニック・マイノリティであるかどうか分からない設定であるようにも見えます。

だから日本人が日本人をいじめていたのかもしれないし、もしかしたらいじめていた側にエスニック・マイノリティが含まれていたかもしれない。実はもっと複雑なCMであったかもしれないのに、より単純な意見にどんどん引っ張られる悪い風潮がSNSにはあると思います。でもナイキは全然めげてないと思いますよ。そのメッセージが社会にとって重要で正しいという信念があれば、作り手は怯えずに作っていくことが大事だと思います。
次ページ > 広告はソーシャルグッドを考えるべきか?

文=続木明佳(NO YOUTH NO JAPAN)

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大坂なおみの抗議行動に見る、新しい「広告塔」のあり方

企業の「広告塔」として引っ張りだこの大坂なおみ選手(写真=シチズン)

女子テニスの4大大会・全米オープンで2年ぶり2回目の優勝を果たし、米国のニュース誌「タイム」が選出する「世界で最も影響力のある100人」にも2年連続で名を連ねた大坂なおみ選手。グローバルな規模で人気を得ている彼女はスポンサーからも引っ張りだこの状況で、現在は15社のスポンサー企業と契約している。

今年6月からアメリカで盛んにおこなわれているBLM運動では、すでに多くのアメリカのアスリートたちが賛同の姿勢を表明しているが、大坂なおみ選手も人種差別に抗議するマスクを身につけてコートに立った姿が注目された。

企業のイメージキャラクターが担う社会的な「価値観」もCMの要素として重要視される今日、企業が感じている大坂なおみ選手の「広告塔」としての魅力とはなにか。


米フォーブスが発表した「世界で最も稼ぐ女子スポーツ選手ランキング」の2020年版で、大坂なおみ選手は過去4年間にわたりトップに君臨してきたセリーナ・ウィリアムズを抜き首位に輝いた。大坂選手の年収額は女子スポーツ史上最高となる3740万ドル(約40億円)とされており、そのうちの3400万ドルはスポンサー収入であった。

2018年全米オープンと2019年全豪オープンで2度の4大大会優勝を果たした後、大坂選手の元には多数のスポンサー契約が舞い込んだ。現在では日清食品や日産自動車などに加えて、ナイキやマスターカードなどのグローバルブランドを含む15社と契約している。

シチズン時計は2014年から「Better Starts Now=どんな時であろうと『今』をスタートだと考えて行動する限り、私たちは絶えず何かをより良くしていけるのだ」をブランドステートメントとして掲げ、2018年からこれを体現する「象徴的な存在」として大坂なおみ選手をブランドアンバサダーに起用している。世界の舞台でトップアスリートとして活躍していても慢心することなく、「今」をスタートとして新たな挑戦に向かってゆく姿勢が、1918年の創業から100年以上経過しても挑戦をやめないシチズンの姿に重ねられる。

プロテニスプレイヤーとしてシチズンの腕時計を試合で着用するだけでなく、アンバサダーとして広告にも登場する大坂選手は「シチズンブランドの顔」を担っている。全米オープン2020大会では、ブルーとイエローの爽やかなコントラストが映える「大坂なおみモデル」を着用して参戦し、グランドスラム3勝目を達成した。⼀流のアスリートとしての実⼒を知らしめ、世界からの注目度はうなぎのぼりだ。

一方、今回の大会では大坂選手が黒人抗議運動「BLM」の姿勢を打ち出すため、警官や人種差別の暴力の犠牲となった被害者の名前をマスクに記して臨むパフォーマンスを行い、賛否両論を巻き起こした。
次ページ > 国内のスポンサー企業の反応は?

文=渡邊雄介

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経済・社会

2021.03.17 06:30

ピーター・ティール、Netflixで注目の保守系作家の政界進出を支援

ピーター・ティール(Photo by John Lamparski/Getty Images)

ピーター・ティールとヘッジファンドの富豪らが、米国の繁栄から取り残された白人家庭を描いた自伝で注目された作家、J.D.ヴァンスの共和党からの出馬を支援しようとしている。ヴァンスの「ヒルビリー・エレジー」は、白人労働者階層の姿を描いた作品として全米のメディアから注目を集め、昨年はネットフリックスで映画化されていた。

決済企業ペイパルと、CIAが支援するビッグデータ企業のパランティア(Palantir)の共同創業者として知られるティールは、ヴァンスの上院選出馬に向けて設立されたPAC(政治活動団体)の「プロジェクト・オハイオ・バリュー」に、1000万ドルを寄付した。

また、かつてスティーブ・バノンと連携していた共和党のメガドナーとして知られるヘッジファンドの大物、ロバート・マーサーの家族もこのPACにかなりの額を寄付したが、その額は開示されていない。

ヴァンスはまだ正式に出馬を宣言していないが、出馬すれば引退する共和党上院議員のロブ・ポートマンの議席を争うことになる。

ヴァンスが2016年に出版したベストセラーの「ヒルビリー・エレジー」は、ラストベルトと呼ばれる米国中西部での幼少期を描いたもので、白人が大多数を占める米国の地方の暮らしを克明に描き、トランプ支持の高まりを説明する著作として注目を浴びた。

この作品は、エイミー・アダムスとグレン・クローズ主演でネットフリックスで映画化され、クローズはアカデミー賞の助演賞にノミネートされた。

現在36歳のヴァンスは、イェール大学のロースクールを卒業後に、ティールのベンチャーキャピタルのMithril Capitalに勤務した過去を持ち、最近でもティールの支援を受けて、自身の会社を立ち上げていた。

リバタリアンを自称するティールは、民主党支持者が大多数を占めるシリコンバレーにおいて、共和党支持を公言する数少ない人物であり、2016年の大統領選挙においても、トランプを支持していた

彼は昨年、カンザス州の上院選挙で敗れた移民強硬派のクリス・コバックを支援したが、トランプの2020年の再選キャンペーンからは距離を置いたと報じられている。マーサー家は、2016年のトランプの選挙キャンペーンに大口の寄付を行い、右派メディアのBreitbartや、今は亡きデータ会社ケンブリッジ・アナリティカにも資金を提供していた。

ロバート・マーサーの娘のレベッカ・マーサーは現在、保守派のSNSの「Parler」の主要投資家となっている。

編集=上田裕資

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ビジネス

2020.12.02 10:30

米ナスダック、上場企業に女性やLGBTQの役員登用を義務化へ

Noam Galai/Getty Images

米国の証券取引所ナスダックは12月1日、上場企業の取締役会のダイバーシティ(多様性)の向上を促すための新たな規則を策定し、SEC(米証券取引委員会)に承認を要請したと発表した。

新規則は上場企業に対し、少なくとも1人の女性と1人の人種的マイノリティもしくはLGBTQを自称する人を役員に任命し、報告書を公表することを義務づけるものだ。

規則案によると、上場企業は規則の承認から1年以内に、役員メンバーの多様性レポートの開示を求められる。そして2年以内に、最低1人の人種的マイノリティもしくはLGBTQの取締役を持つことが義務づけられる。さらに、大企業の場合は4年以内に最低2人の多様性のある取締役を持つことが必須となる。

データを公表しない企業はナスダックから排除される可能性があり、多様性の要件を満たしていない企業はその理由を公表する必要がある。

ナスダックのアデナ・フリードマンCEOはニューヨーク・タイムズ(NYT)の取材に、SECがこれと類似した規則を導入することが望ましいと述べた。

フリードマンによると今回の決定は、取締役会の多様性を高めることが企業の財務パフォーマンスにプラスの影響を与えることを示すデータに基づいたものだという。

マッキンゼーの最新調査によると、ジェンダーの多様性で上位4分の1に位置する企業は、財務パフォーマンスが少なくとも25%高い傾向が2019年に確認されたという。さらに、人種のダイバーシティで上位4分の1に位置する企業は、同じ指標が36%高い傾向があった。

投資銀行のゴールドマン・サックスは今年1月、ダイバーシティをもたらす人材が取締役会に1人もいない企業の上場は支援しないと表明した。同社のデービッド・ソロモンCEOは、取締役会の多様性は極めて重要で、上場企業のうち取締役に女性を1人以上起用している企業は、そうでない企業よりも業績が著しく向上していると述べていた。

一方、カリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事は9月30日、企業のダイバーシティ推進の一貫として、2021年末までに、上場企業に少なくとも1名の取締役を人種的マイノリティやLGBTQなどのコミュニティから採用することを義務づける法案に署名していた。

編集=上田裕資

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