キャリア・教育

2021.03.20 17:00

ナイキCM賛否にモヤモヤ 広告に「ソーシャルグッド」は必要か?|#U30と考える


NYNJ続木:受け手の読解力の低さは、私たちが感じた賛否へのモヤモヤに繋がっている気がします。これからの広告について考える上で、受け手もリテラシーが求められているのでしょうか。

田中:そうですね。今回のナイキのように案外複雑に作られているCMを読み解ける消費者であるためには、教育や、日常の会話の中で、メディア・コンテンツを読み解ける力を育んでいく必要があると思います。ある広告を「好き」か「嫌い」かだけで終わるのではなく、ディスカッションしてみたり、広告やテレビドラマを見て考えてみたりすることでリテラシーを高めていけると思います。

また、国内のものだけ見ていても多様なコンテンツを比較することはできないので、他の国や文化の広告や表現はどうなのかと広い視点を持つことも大事です。それによって、自分たちが普段見ているものは狭い視点に制約されているな、彩りがないなと気づけると思います。

ソーシャルグッド
社会をより良くする「ソーシャルグッド」の考え方が広告表現にどんな変化を与えていくだろうか(Shutterstock)

NYNJ田中:最後に、広告で「ソーシャルグッド」の概念は広めていく必要性はあるのでしょうか。

田中:あると思います。スマホを開いた時、テレビをつけた時、街を歩いている時、日常空間に広告は溢れています。現代社会において、広告は国境線も易々と超え、すぐに世界に拡散されます。これほど社会の隅々にまで進出している以上、広告には私たちの社会をより良くすることに寄与する責任があると思います。

社会的道義心や責任に寄与しなければ、社会を悪い方向に押し流してしまうほどの影響力を広告は持っている。作り手はそれを自覚し、どんなメッセージを、どのように、誰に向けて届けるかを考えなくてはいけません。そしてまた、受け取る私たちも「きちんとしたものをつくれ」とどんどん言うべきですね。つくり手と受け手の相互作用で受け手のリテラシーは育まれ、より良いコンテンツや広告が生まれていくと思います。

取材を終えて


社会問題に切り込んだナイキのCMをかっこいいと思う一方、どうして賛否両論が激しく攻撃し合ってしまったのかモヤモヤしていました。政治や社会について日常的に考えることが正しいことと認識されつつある時代の転換点で、その社会の変化を映すように広告も少しずつ変わってきていると、今回の取材を通して感じました。受け手である私たちも、広告が伝えようとしているメッセージの本質を読み取れる力が求められていても、まだまだ日常的に政治的な話題を出す勇気がない人は多いと思います。そんな人の背中をそっと押せる活動を続けていきたいです。



田中東子◎大妻女子大学文学部教授。専門分野はメディア文化論、ジェンダー研究、カルチュラル・スタディーズ。1972年生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科後期博士課程単位取得退学後、早稲田大学教育学部助手、早稲田大学政治経済学部助教などを経て、現職。主な著書に『メディア文化とジェンダーの政治学―第三波フェミニズムの視点から』(世界思想社、2012年)、翻訳に『ユニオンジャックに黒はない──人種と国民をめぐる文化政治』(ポール・ギルロイ著、共訳、月曜社、2017年)など。


新連載:「U30と考えるソーシャルグッド」
過去記事はこちら>>

文=続木明佳(NO YOUTH NO JAPAN)

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大坂なおみの抗議行動に見る、新しい「広告塔」のあり方

企業の「広告塔」として引っ張りだこの大坂なおみ選手(写真=シチズン)

女子テニスの4大大会・全米オープンで2年ぶり2回目の優勝を果たし、米国のニュース誌「タイム」が選出する「世界で最も影響力のある100人」にも2年連続で名を連ねた大坂なおみ選手。グローバルな規模で人気を得ている彼女はスポンサーからも引っ張りだこの状況で、現在は15社のスポンサー企業と契約している。

今年6月からアメリカで盛んにおこなわれているBLM運動では、すでに多くのアメリカのアスリートたちが賛同の姿勢を表明しているが、大坂なおみ選手も人種差別に抗議するマスクを身につけてコートに立った姿が注目された。

企業のイメージキャラクターが担う社会的な「価値観」もCMの要素として重要視される今日、企業が感じている大坂なおみ選手の「広告塔」としての魅力とはなにか。


米フォーブスが発表した「世界で最も稼ぐ女子スポーツ選手ランキング」の2020年版で、大坂なおみ選手は過去4年間にわたりトップに君臨してきたセリーナ・ウィリアムズを抜き首位に輝いた。大坂選手の年収額は女子スポーツ史上最高となる3740万ドル(約40億円)とされており、そのうちの3400万ドルはスポンサー収入であった。

2018年全米オープンと2019年全豪オープンで2度の4大大会優勝を果たした後、大坂選手の元には多数のスポンサー契約が舞い込んだ。現在では日清食品や日産自動車などに加えて、ナイキやマスターカードなどのグローバルブランドを含む15社と契約している。

シチズン時計は2014年から「Better Starts Now=どんな時であろうと『今』をスタートだと考えて行動する限り、私たちは絶えず何かをより良くしていけるのだ」をブランドステートメントとして掲げ、2018年からこれを体現する「象徴的な存在」として大坂なおみ選手をブランドアンバサダーに起用している。世界の舞台でトップアスリートとして活躍していても慢心することなく、「今」をスタートとして新たな挑戦に向かってゆく姿勢が、1918年の創業から100年以上経過しても挑戦をやめないシチズンの姿に重ねられる。

プロテニスプレイヤーとしてシチズンの腕時計を試合で着用するだけでなく、アンバサダーとして広告にも登場する大坂選手は「シチズンブランドの顔」を担っている。全米オープン2020大会では、ブルーとイエローの爽やかなコントラストが映える「大坂なおみモデル」を着用して参戦し、グランドスラム3勝目を達成した。⼀流のアスリートとしての実⼒を知らしめ、世界からの注目度はうなぎのぼりだ。

一方、今回の大会では大坂選手が黒人抗議運動「BLM」の姿勢を打ち出すため、警官や人種差別の暴力の犠牲となった被害者の名前をマスクに記して臨むパフォーマンスを行い、賛否両論を巻き起こした。
次ページ > 国内のスポンサー企業の反応は?

文=渡邊雄介

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経済・社会

2021.03.17 06:30

ピーター・ティール、Netflixで注目の保守系作家の政界進出を支援

ピーター・ティール(Photo by John Lamparski/Getty Images)

ピーター・ティールとヘッジファンドの富豪らが、米国の繁栄から取り残された白人家庭を描いた自伝で注目された作家、J.D.ヴァンスの共和党からの出馬を支援しようとしている。ヴァンスの「ヒルビリー・エレジー」は、白人労働者階層の姿を描いた作品として全米のメディアから注目を集め、昨年はネットフリックスで映画化されていた。

決済企業ペイパルと、CIAが支援するビッグデータ企業のパランティア(Palantir)の共同創業者として知られるティールは、ヴァンスの上院選出馬に向けて設立されたPAC(政治活動団体)の「プロジェクト・オハイオ・バリュー」に、1000万ドルを寄付した。

また、かつてスティーブ・バノンと連携していた共和党のメガドナーとして知られるヘッジファンドの大物、ロバート・マーサーの家族もこのPACにかなりの額を寄付したが、その額は開示されていない。

ヴァンスはまだ正式に出馬を宣言していないが、出馬すれば引退する共和党上院議員のロブ・ポートマンの議席を争うことになる。

ヴァンスが2016年に出版したベストセラーの「ヒルビリー・エレジー」は、ラストベルトと呼ばれる米国中西部での幼少期を描いたもので、白人が大多数を占める米国の地方の暮らしを克明に描き、トランプ支持の高まりを説明する著作として注目を浴びた。

この作品は、エイミー・アダムスとグレン・クローズ主演でネットフリックスで映画化され、クローズはアカデミー賞の助演賞にノミネートされた。

現在36歳のヴァンスは、イェール大学のロースクールを卒業後に、ティールのベンチャーキャピタルのMithril Capitalに勤務した過去を持ち、最近でもティールの支援を受けて、自身の会社を立ち上げていた。

リバタリアンを自称するティールは、民主党支持者が大多数を占めるシリコンバレーにおいて、共和党支持を公言する数少ない人物であり、2016年の大統領選挙においても、トランプを支持していた

彼は昨年、カンザス州の上院選挙で敗れた移民強硬派のクリス・コバックを支援したが、トランプの2020年の再選キャンペーンからは距離を置いたと報じられている。マーサー家は、2016年のトランプの選挙キャンペーンに大口の寄付を行い、右派メディアのBreitbartや、今は亡きデータ会社ケンブリッジ・アナリティカにも資金を提供していた。

ロバート・マーサーの娘のレベッカ・マーサーは現在、保守派のSNSの「Parler」の主要投資家となっている。

編集=上田裕資

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ビジネス

2020.12.02 10:30

米ナスダック、上場企業に女性やLGBTQの役員登用を義務化へ

Noam Galai/Getty Images

米国の証券取引所ナスダックは12月1日、上場企業の取締役会のダイバーシティ(多様性)の向上を促すための新たな規則を策定し、SEC(米証券取引委員会)に承認を要請したと発表した。

新規則は上場企業に対し、少なくとも1人の女性と1人の人種的マイノリティもしくはLGBTQを自称する人を役員に任命し、報告書を公表することを義務づけるものだ。

規則案によると、上場企業は規則の承認から1年以内に、役員メンバーの多様性レポートの開示を求められる。そして2年以内に、最低1人の人種的マイノリティもしくはLGBTQの取締役を持つことが義務づけられる。さらに、大企業の場合は4年以内に最低2人の多様性のある取締役を持つことが必須となる。

データを公表しない企業はナスダックから排除される可能性があり、多様性の要件を満たしていない企業はその理由を公表する必要がある。

ナスダックのアデナ・フリードマンCEOはニューヨーク・タイムズ(NYT)の取材に、SECがこれと類似した規則を導入することが望ましいと述べた。

フリードマンによると今回の決定は、取締役会の多様性を高めることが企業の財務パフォーマンスにプラスの影響を与えることを示すデータに基づいたものだという。

マッキンゼーの最新調査によると、ジェンダーの多様性で上位4分の1に位置する企業は、財務パフォーマンスが少なくとも25%高い傾向が2019年に確認されたという。さらに、人種のダイバーシティで上位4分の1に位置する企業は、同じ指標が36%高い傾向があった。

投資銀行のゴールドマン・サックスは今年1月、ダイバーシティをもたらす人材が取締役会に1人もいない企業の上場は支援しないと表明した。同社のデービッド・ソロモンCEOは、取締役会の多様性は極めて重要で、上場企業のうち取締役に女性を1人以上起用している企業は、そうでない企業よりも業績が著しく向上していると述べていた。

一方、カリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事は9月30日、企業のダイバーシティ推進の一貫として、2021年末までに、上場企業に少なくとも1名の取締役を人種的マイノリティやLGBTQなどのコミュニティから採用することを義務づける法案に署名していた。

編集=上田裕資

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