その「―ガーデンズ」内には往時の西宮球場を思い出させる場所がある。ひとつは「阪急西宮ギャラリー」。1983年当時の球場や、阪急電鉄神戸本線と今津線の平面交差(いわゆる「ダイヤモンドクロス」)など西宮北口駅周辺を再現したジオラマ模型。さらに75年に日本シリーズ制覇した際のペナントなど“阪急ブレーブス限定”の記念品が、08年の開業以来、入れ替えられることなく展示されている。つまり昨季リーグ制覇した後継球団に関する展示物は皆無ということ。阪急電鉄広報部の吉井伸一さんは「定期的に熱心にご覧になっているお客様がいらっしゃいます」と話した。
もうひとつは屋外スペース「スカイガーデン」。かつてホームベースがあった場所を示すモニュメントが埋め込まれている。取材日には西宮市の31歳男性が家族と過ごしていた。ここが球場だった記憶はないというが「たまにここでお昼を食べるのが幸せ」と噴水で遊ぶ子供たちに目を細めていた。
さらにもうひとつ。取材を始めるまで記者も知らなかったモニュメントが、巨大商業施設の片隅にひっそりたたずんでいた。「―ガーデンズ」の阪急タクシー乗り場横。取材日にはミモザの黄色い花が鈴なりに揺れていた植え込みに、小ぶりな石碑が立っていた。「阪急ブレーブスこども会30周年記念」と記されており、西洋甲冑(かっちゅう)に身を包んだ勇ましい「ブレーブス坊や」の姿も彫り込まれている。かつて西宮球場に(もう少し目立つように)置かれていたのを思い出した。
かわいいなあ、なつかしいなあ、ブレーブス坊や。うっとり眺めていると、あることに気づいた。先ほど「先行投資を回収することなく消滅しちゃった」と書いたが、あれは間違いだった。メチャメチャ回収させられてるやん!
西宮のちびっ子阪急ファンは、今や西宮のオシャレオヤジ(だと自分で思い込んでいる)。服や日用品はおよそ「―ガーデンズ」で買っている。球場跡地でもうウン十万、いやウン百万円は買い物している計算だ。球団経営をスパーンと諦め、地の利を生かして西日本最大級(開業時)のショッピングモールへと舵を切った阪急さん、恐るべしである。
ちなみに記者は宝塚歌劇のファンとしても、チケット代に毎月ウン万円を散財している。阪急さん、恐るべし。ていうか、ありがたや。