石破茂首相は18歳のときにプロテスタントの教会で洗礼を受けたキリスト教徒だ。クリスチャン宰相は、平成21年に首相を退任したカトリックの麻生太郎自民党最高顧問以来、15年ぶりとなる。首相は一方で浄土宗の檀家で、神道とも関係が深い。
「人間は神の前には塵芥」
石破首相の母方の曽祖父は明治から昭和にかけての牧師、金森通倫(1857~1945年)。金森は熊本洋学校の生徒でつくるキリスト教グループ「熊本バンド」のメンバーとして活動した後、同志社で新島襄から洗礼を受け、伝道活動を続けた。
4代目である石破首相は、鳥取から上京して慶応高校に通っていたとき、日本キリスト教会世田谷伝道所に所属し、日曜学校の教師も務めた。慶応大入学直前に日本基督教団鳥取教会で洗礼を受けた。
政治家になってから、キリスト教の集会やキリスト教メディアに度々登場している。あだむ書房「石破茂語録 主よ、用いてください」によると、今年4月27日に神戸市内で開かれた「日本国家祈祷会」で次のように語っている。
「議員になろうが大臣になろうが、人間というものは神の前には塵芥(ちりあくた)のような存在なのであって、できることは『罪人の私をお赦しください』ということと『御(み)心ならば御用のためにお用いください』ということしか究極、祈ることしかできないのではないかなと、日々思っているところです」
戦争なくすには「均衡」と「祈り」
また、キリスト教の教えと政治活動の葛藤について「自分たちが正しくて相手が間違っておるという演説はなるべくしないようにいたしております。私ども自民党が間違っていることはたくさんありますし、政治家も間違いだらけです。ただそのときに、相手がいかに駄目で、だから私たちを選んでくださいという言い方をしてはいかんと思います」と指摘。戦争をなくすには「バランス・オブ・パワー」と「平和のための祈り」の両方が大事だとしている。
地方創生担当相だった平成28年には「クリスチャントゥデイ」のインタビューに対し、「私が防衛庁長官だったときに、イラクへ自衛隊を派遣しました。その時も、昨年の安保法制の時も、キリスト者から猛烈な抗議が来ました。大変な抗議です」「正直に言うと、同じ信仰を持つキリスト者からの批判が本当に一番つらいです」と話していた。
浄光会と神道政治連盟
一方で、鳥取県知事や自治相を務めた父、石破二朗氏の家系は代々浄土宗。首相は浄土宗檀信徒の国会議員64人でつくる「浄光会」の会員で、選挙の際は浄土宗から推薦を受けている。「浄土宗新聞」には、今年1月24日に東京・芝公園の増上寺で開かれた浄光会総会で「南無阿弥陀仏」と念仏を唱える首相の写真が掲載されている。
一神教のキリスト教と、法然が開いた浄土宗の念仏の教えが両立するわけがないが、日本人的な宗教観と選挙対策だと思われる。
多くの自民党国会議員と同様に「神道政治連盟国会議員懇談会」の会員でもある。8月24日、鳥取県八頭町の和多理神社に参拝した後、社殿の前で自民党総裁選への出馬表明を行い、こう語った。
「ここは父祖の地。子供の頃、ここで夏祭りがあった。本当ににぎやかだった。子供たちも高齢者もみんな笑顔だった。今、人はいなくなり、夏祭りも行われなくなったが、もう一度、にぎやかな、みんなが笑顔で暮らせる日本を取り戻したい」(渡辺浩)