スイス・ジュネーブで開かれた国連の女性差別撤廃委員会による日本政府への対面審査で、日本国内で検出が相次いでいる有機フッ素化合物(PFAS)が取り上げられた。妊産婦への影響が、女性の権利侵害につながるという沖縄の女性たちの問題提起に、国連委員会が反応し、日本政府への勧告にも盛り込まれた。海を渡って訴えた女性たちの思いは。(中山洋子、中川紘希)
◆「沖縄の水が汚染され、子どもたちの健康が…」
「国連の委員が日本政府にPFASの質問をしてくれているのをみて、涙がとまらなかった。私たちの訴えが委員に届いた」
17日に那覇市で行われた国連活動の報告会で、「宜野湾ちゅら水会」代表の町田直美さん(69)が振り返った。
沖縄で水道水のPFAS汚染が発覚したのは2016年1月だった。PFASは航空機用の泡消火剤やフライパンの塗装などに使われ、発がんや免疫系への関連が報告されている。
普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)近くで自然派レストランを営む町田さんは、同じように不安を抱える住民たちと勉強会を重ね、市や県にも対策を求めてきた。毎週土曜日には宜野湾市役所前でスタンディングも続けている。「沖縄の水が汚染され、文化が壊され、子どもたちの健康が損なわれている」との危機感からだ。
◆「PFASは沖縄にとっては問題の深刻度が違う」
国連の女性差別撤廃委員会による日本審査が行われたのは先月17日。差別をなくす日本の取り組みが審査されるのは8年ぶりで、多くのNGOがロビー活動に取り組んでいた。町田さんたちも審査の数日前から現地入りし、PFAS汚染の放置は女性の健康にかかわる人権問題だと精力的に訴えた。ちゅら水会メンバーのまつだかなこさんは「私たちは女性でもあり、歴史的な背景から先住民族でもあると訴えた。複数のマイノリティー性を持つ人はそれぞれの差別が複雑にからみあうため見えにくくなっている。PFASは沖縄にとっては問題の深刻度が違うことを強調した」と解説する。
PFAS被害の訴えは予想以上の手応えがあった。審査前日にあった国連委員らとの会合でスピーチをする機会も急きょ与えられた。1分間のスピーチを託されたのは、北谷町議の仲宗根由美さん(38)。3人の子の母親である仲宗根さんは「日本政府は汚染地域を調査する予定がない。政府は疫学調査を行い、不安を抱える妊婦や住民に包括的なケアを提供すべきだ」として、PFAS汚染による女性たちの健康権侵害を日本への勧告に盛り込むよう訴えた。「いままでにないほど緊張したが、思いの丈を話せた」
◆同じ説明を繰り返す日本政府に国連の委員が喝
翌日の審査で委員が日本政府にPFASをめぐる水道検査の進捗(しんちょく)状況について言及した。「PFASが女性の人権にかかわると証明された瞬間だった」。傍聴していた女性たちは、議場を出て互いを見つけ抱き合った。「出たね、出たね」。勧告にも、水道検査の報告を求める内容が盛り込まれた。
町田さんは、審査をしていた委員が日本側の説明に「同じことを言わないで」といら立つ姿に「(日本政府の対応に)世界も同じように感じていた」と意を強くした。ジュネーブでは世界保健機関(WHO)のビル前で、「御願(ウガン)」もしたという。沖縄の家庭で日常的に行われる祈りで、WHOが提案するPFASの基準値が高すぎるため「WHOの神さま、琉球の神さま、どうか基準値を下げてください。命の水がもとに戻るよう頑張ります」とみんなで手を合わせた。
◆ドイツも訪問、「基地そのものを問い直す必要がある」
今回、ちゅら水会と仲宗根さんは国連だけではなくドイツも訪れ、米軍基地由来のPFAS汚染問題を抱える地方都市を視察した。
人口4万人の地方都市アンスバッハでもやはり1...
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