「奇妙なのは、この季節限定的なサケへの大きな嗜好変化である。シカを無視してサケをターゲットにするのだから」と、カナダのビクトリア大学で研究チームを率いるクリス・ダリモント氏は話した。研究共著者のトーマス・ライムケン氏は、今回の研究ではオオカミだけではなくサケに関しても有益な成果が得られたことをプレスリリースで追加説明している。
「サケの研究は驚きの連続だ。その大洋での回遊が新しいかたちで陸上の生態系全体にも最終的に影響を与えているのである。食料と栄養の食物網全体への供給という観点で見れば、サケはタンザニアにあるセレンゲティ国立公園のヌーに匹敵する貢献をしている」と同氏は述べている。
オオカミがサケを食べることがあることは、研究者の間で既に知られていた。オオカミの糞に魚の証拠が見つかったことがあり、オオカミが魚を捕るところも目撃されたことがあるからだ。しかしダリモント氏の話によると、「誰もが受け入れやすい正統派の」理論では、オオカミは食物連鎖上、何よりもまず有蹄動物(シカなどの四本足で蹄のある哺乳動物)と繋がっているのである。
そのため、ダリモント氏の研究チームは、秋にオオカミの嗜好がサケに変わるらしいことを知って「ひどくショックを受けた」という。秋は、サケが産卵のために川を遡上してくる時期だが、「シカはそこにいる。シカを食べ続けることだってできるんだ」と同氏は続ける。
生態学的な観点で同氏が最も興奮しているのは、オオカミがサケを選ぶ理由がシカの不足ではなくサケの豊富さにあるという事実である。「よく考えてみれば、この戦略は理にかなっている。サケは安全で栄養豊富であり、居場所が限定されている。オオカミの生息地へ、海からわざわざやって来てくれるのだから、まるでビュッフェのようなものだ。シカのように10キロも探し回る必要がなく、しかも予測が付けられる。食料としてこれ以上望むことがあるだろうか」と付け加えた。
レインコースト環境保全協会の会員でもあるダリモント氏は、現在のオオカミとサケの関係が危険にさらされていることを心配している。「遡上するサケは、子孫の繁殖のために蓄えた大量のエネルギーと栄養の固まりとも言える。それは基本的に生態系全体に貢献していて、クマ、オオカミ、鳴き鳥、昆虫のエサとなっている」と同氏は説明している。
しかし、沿岸漁業の漁船は効率の良い漁をするために、サケが川へ戻って産卵する前にその90%を捕まえてしまう可能性があるという。「保護の観点から言うと、このような素晴らしい資源を維持したいのであれば、私たちはその利用量を大幅に削減しなければならない」。ダリモント氏は個人的に養殖のサケは避けているという。なぜなら、養殖のプロセスが天然のサケを病気で脅かすからである。
天然のサケに関しては、「われわれがサケを一口食べるたびに、その分のサケをオオカミや鳴き鳥が食べられなくなるということ、そしてそのような動物の多くは、ほかに選択肢がないということを考えてほしい」と述べた。
Photograph by Ian McAllister/Getty Images
