自分が恵まれ過ぎていることを知っている。
生まれ持った環境も手に入れた力も与えられたチャンスだって。
でも、何かを成し遂げたいという意志はなく、夢や目標、野心がない。せめて、今あるものがこぼれ落ちないように自らと向き合い続けることが俺に唯一できることだ。
ただ在るがまま、流されるまま、大きな大きなその渦に身を任せて生きている。
俺のような死神を中身がないと言うのだろう。
きっと世界を変えるようなやつは、現状に不満を持つ革命家か、どん底にいて上を見るしかない反逆者か、そういう使命と運命を背負った勇者とかそんな感じのやつなんだろう。
昔、綱彌代時灘がゲスを極めた下卑た表情で世界の真実とやらを語り、その記録を見せつけて来た時があった。特に何も思わなくて「で?」と返したら「えっ?」と声を漏らした何処ぞやの綱彌代さんと二人して顔を見合わせることになった。
これがホントの煽り事故。
俺が必死こいて暗躍していたのを世界の秩序か正義かはたまた大義の為だと勘違いしていたようだ。すっげぇ煽って来てたけど、ごめん。一ミリも効いてないのである。
でも、それはそれで逆に面白かったらしく一頻り笑った後、離れるどころか仲間にならないかと勧誘してくるようになった。ヤダよ! 帰れ! 霊子に還れ! なんなんあいつまじで。オメェの性癖なんぞ知るかばーか! 寄って来んな! しっしっ! 誰かぁ! 塩持ってきてぇ!
お生憎様、俺はそこまで世界に対して興味がない。
雨の中、静かな室内でゆったりラノベを読む時間こそ至高。冬にこたつでアイス片手にアニメを見るのは至福。居酒屋の喧騒の中、ただ酒飲みながら意味のないことで腹抱えて笑い合う時間は最&高。寒い日の山の中、星降る夜にするキャンプは格別にノスタルジックだし、羽々音とお風呂でテンション高めにデタラメにノリノリで歌うのは超楽しい!
そういう感性。失ってるやつ多ない? 大事じゃない?
悪いね。世界をどうこうなんてそんな責任負えねぇの。俺は小さな世界で満足するタイプなの。許してよ。
そんな俺を動かすものがあるとすれば……。
幼い頃に聞いた父の言葉が頭から離れない。
「他人であっても自分の為に動いてくれるなら、それは自分の力と言っても過言じゃない。いいかい灰世。人を大切にするんだ。そして味方につけるんだ。その人たち全て灰世の宝物だ」
その言葉に感化されて生きてきた。羽々音の源流はここにある。
天ノ羽々音は感情を操る。
決して人の心の声が聞こえるとかそんなことはない。でも、その副次効果として操るまでの過程、その前段階として感情を読み取ることができる。
俺の目には霊圧とはまた違う、全身からやんわりと発されるオーラが見えていて、その色で人の感情が分かる。
感情の色を奪ったり、分け与えて望む色に変えることで人の感情を操れる。
最初は喜怒哀楽くらいだったが、成長と鍛錬で増えたグラデーションと共に操れる感情の幅と細やかさが広がった。
まあ、だからといって支配することに楽しさを感じたことはない。言葉を交わして、共に歩んで、信頼を得て、心を通わす。そして素直に頼み事をする方が遥かに気持ちよくて安全だ。
なーんて思っていたら、俺の卍解、感情を支配していない者に対して無差別な範囲攻撃を行うものだったから手に負えない。始解ありきの卍解。始解の感情支配は卍解から身を守るための防衛装置で、この人は敵じゃないと記した友好証明書だ。
だがしかし、俺にとって貴重な攻撃手段。しかも最上級。手放すにはあまりに惜しい。使えるようにしときたいじゃない?
なら、もしも、万が一にも卍解を使わざる得ない状況になったときの為に『場』を作る必要がある。
鬼道で空間を区切れればそうするし、そう出来ないときのために一応関わるやつ全員支配するようにしている。別に放置してれば害はないしね。能力を知られて疑われようが嫌われようが、俺は勝手に守るだけよ。
銀嶺様や白哉様を見てわかるように、朽木家は言葉より行動と背中で語るのだ。信頼は後からついてくる。それまで誤解されまくるけど。
羽々音が自由に飛び回るのはきっと俺の卍解に巻き込みたくないっていう思いを汲み取って俺の手が届かないところを埋めるよう手伝ってくれてるのだろう。
「ピー! ピッ! ピュピー! (あるじー! あのひと! ごはんくれた!)」
いやそんなことはねぇな!
「灰世。何も言わず、協力をしてはくれぬか……?」
俺は人の感情を読み取れる。
その人が、どんな重荷を背負い、どれほどの覚悟で責務を果たし、どれだけの悲しみを抱え込んで生きているのかを知っている。その見せない表情の奥深くに秘めた途方も無い熱を、俺は知っているのだ。
「故にこれから先何があろうと兄への信頼が揺らぐことはない」
その熱に触れる度に、脳を焼かれる。
まだこの世界も捨てたもんじゃないとそう思える。何かの為に命を懸けて戦い、大切なものを守ろうとする者たちがいるのなら、世界に絶望するのはまだ早い。
その尊さを守ると決めた。銀嶺様の手を取ったその時にそう定めた。
心ある死神の為にどこまでも冷徹になろう。汎ゆる手段を、持ちうる全てを利用して守ってみせる。
俺が触れたその熱は、きっと未来を照らす希望の光だ。そう感じた。そう信じている。
敬意は行動でもって示すもの。
尊きは守ってこそ意味がある。
秩序の基礎たる朽木を守れば、後に続く者たちの幸福になる筈だ。
それが俺の役割ならば。
ところで護廷十三隊。
死神多すぎて卍解したら誰か巻き込みそうなんですけど。そしたらあれじゃん。味方殺しでやっぱり牢屋コースじゃねぇか!
ただでさえ時間かかるのに、この規模を能力下に収めるの大変なんですけどぉ!
こうなりゃ!
するしかねぇ!
レッツ! パーリィナイッ! フー……
朽木灰世くんの覚悟と戦う理由とどれだけ逃げたいと言ってても逃げ出さずにいる理由のお話でした。
灰世くんと綱彌代さん
「で?」
「えっ?」
「えっ?」
「なに?」
「いや、なにが?」
「………ちょっと待て」
「いやいやいや」
「「えぇ?」」