ホワンホワンッと音を立てて広い空間に明かりが灯って行く。
「剣ちゃん! ここすごいね!」
「なんだ、ここは?」
素直にはしゃぐ草鹿やちると驚く更木剣八。
その口から漏れた疑問に答えたのは最近よく酒を飲む友人、朽木灰世だった。
「ここは昔、悪趣味な連中のコロシアムだったんです。今は俺が買い取りました」
連中は強かで悪い分だけ頭が回る。
秘匿性が高く、霊圧を出来るだけ外に漏らさず、周囲から隔離された立地。注ぎ込まれた資金のおかげで施設の設備も良い。
「ついでに技術開発局の力を借りて思いっきり改造しました。なんでも霊圧を消すんじゃなくて、この場に留めておくことに重点を置いた新技術、その出来立てホヤホヤプロトタイプをふんだんに使用してくれたそうですよ」
お金も懸けたが、更木剣八の戦闘力に興味ないか? と持ち掛けて最新の技術力を引き出させたのは内緒の話。そして仕掛けられた計器は霊圧でぶっ壊すつもりなのも内緒の話だ。
更木剣八が聞き返すよりも早く理解した四番隊隊長の卯ノ花烈が綺麗にまとめる。
「つまり、貴方がたがどれだけ暴れようと瀞霊廷には何の影響も与えない、ということですね」
「はい。その通りです」
何を隠そう朽木灰世が自身の鍛錬のために声をかけて、卯ノ花烈、更木剣八、草鹿やちるの四人がコロシアム跡地に集められたのだった。
「そいつァは良いじゃねェか! やちる! ちょっと退いてろ!」
「はーい!」
「それでは私も向こうに退避しますね」
二人共瞬歩で消える。
そうして残された更木剣八と朽木灰世が相対する。
コロシアムでヤることなんてただ一つ。
その本気の証明に灰世の斬魄刀。天ノ羽々音が灰世の肩に乗ってヒュピー! と、楽しそうに歌っている。
「まさか、テメェとこうして殺り合えるとはな!」
「ええ。胸を貸してもらいますよ。更木隊長」
「殺す気で来い! そんくれェで来て貰わねぇと面白くねェんでなァ!!」
二人の爆発的に膨れ上がった霊圧が周囲の物質を押し潰す。
更木剣八が刀を抜き、降りかかるその直前、灰世から放たれた雷吼炮の閃光が戦闘の開始を告げた。
朽木灰世は最近飲みの誘いを断ってまで鍛錬に没頭している。
それは五番隊隊長藍染惣右介を探る内に、もし彼を敵に回すことになった場合、このままでは成す術がないと、藍染隊長は死神として自身より遥か格上の実力を持っていると判断したからだった。
きっと自身の全盛期、朽木銀嶺様の懐刀をしていた頃でも届かない。
そんな強敵を目にして、徹底的に自身を見つめ直し、鍛え直している最中だった。
心配してくれる周囲に感謝しながらも適当に言い訳して、回道を含めた新しい技術を取り入れ仲良くなった各隊長に色々教えて貰いながら白哉兄様を巻き込んで鍛錬する。
それでもまだ足りない。
ここ数年でどれほど堕落していたかを思い知った。何か危機感のような物が抜けている。圧倒的に命のやり取りが足りていない。研いだはずの牙が錆びついている。それを取り除く荒療治が必要だった。
例えば、卍解同士で本気で殺り合うような荒療治が。
天ノ羽々音を含めた全盛期のお話は銀嶺様と決めた知られてはいけない過去。白哉兄様には頼れない。
京楽隊長と浮竹隊長のコンビは頼るのは難しい。灰世の過去と能力を話すのは問題ないが藍染隊長のことを話すことになり、それがトリガーとなって大戦争が勃発する可能性がある。その他の隊長も同様だ。
ただ一人を除いて。
そう! 更木剣八である。
戦い大好き戦闘狂。彼に物事の些事など戦いの前ではどうでもよく、斬り合うその一時に人生を賭ける剣八の名に恥じぬ最強の男である。
もちろん二つ返事でオーケーを貰った。
その場で斬り合おうとするから超逃げ回ったのはまた別のお話。
さて、ここで困ったのはガチで命が尽きる可能性があることだ。もちろん灰世の方の。
そこで四番隊隊長卯ノ花烈にジャンピング土下座から入り、藍染隊長のこと以外を何もかもを打ち明けた後、協力をお願いしたのだった。
「ちまちま逃げやがって! つまんねェだろうが!」
「そう、焦らないでくださいよ! 赤火砲!」
斬撃を避けて、鬼道がぶった斬られる。その余波で強固に造られた筈の建物にヒビが入る。
これでは千日手だ。鍛錬にならない。
やはり更木剣八相手に足と鬼道だけで応戦するのは無理がある。まあ、当然だけども。ならとっとと先に進めるべきだ。
天ノ羽々音が、その手に降りる。
「卍解」
ここに居る四人は既に感情支配下にある。だから卍解の影響は受けない。ここから先は更木剣八が大好きな斬り合いになる。
「天ノ羽々音、永楽浄土」
その手には青みを帯びる刀。辺り一面が白い霧に覆われる。
本来の灰世の卍解は、天ノ羽々音を青く美しく愛らしい小鳥から、肉体のない心で認識するタイプの本来の姿を現実に顕現させて解き放つこと。普通に零番隊案件である。
「すげぇじゃねぇか」
「その違法眼帯も取らずによく言いますよ」
長らくの話し合いの末、灰世の心の中に一旦顕現して貰って、灰世の霊圧を門として触れた敵に対して力を行使する形に収まったのがこの卍解である。
この白い霧に見えるのは極小の門であり、この先に本来の天ノ羽々音がいる。今なお会いに来てくれる餌を待っている。夕闇のようで、鮮血のようで、燃え盛るような、■色の世界で■色の鳥が、貴方をずっとずっと待っている。
「先ずは、その眼帯を外させて貰います」
「やってみろ! てめぇにやれるもんならなァ!」
灰世の姿が消えた瞬間、その刀身が血に濡れる。
更木剣八の肌をいとも容易く斬ってみせた。
更木剣八は嬉しそうに笑みを深めた。
そんな二人のやり取りを聞きながら卯ノ花烈はどうしてこうなったかを思い出していた。
四番隊に足繁く通って回道を学ぶ死神がいる。
戦闘を主にする護廷十三隊で何かと下に見られることの多い四番隊に頭を下げる様子を見るに偏見のない珍しい死神だ。
彼は強くなることに異様に執着しているようだった。回道を治めようとするのも戦いにおける一つの選択肢だ、と。
その珍しい死神こと朽木灰世がジャンピング土下座をしてきた。
その後話す内容も常軌を逸するものばかりで冗談かと思ったほど。始解も卍解も修得していて、さらには鍛錬の為に更木剣八と斬り合おうとしている。
「卯ノ花隊長はまだ感情支配下にありません。本来時間が必要なんですけど。一つだけそれを早める手段があるんです。どうか、信じてくれませんか」
どうしてそんな生き急いでいるのかを聞いた。
「ちょっと護りたいものが増えてしまって、いやぁ、困っちゃいますよねぇ!」
そう恥ずかしそうに、困ったようにえへへと笑う。
「信頼はこの後の行動で返すつもりです」
似ても似つかないが、その在り方にその言葉に、朽木銀嶺の影を見た。
だから、卯ノ花烈は信じてみることにしたのだった。
「らァ!」
「はああ!!」
霧が濃くなるほど、天ノ羽々音の力の深度は深まっていく。その真髄は魂を喰らうこと。そしてこの世界は無機物までもが魂を持っている。
灰世が周囲を喰らい始めると霊圧が更にもう一段上がる。
心から楽しむ更木剣八は遂に眼帯を外した。
二頭の獣が喰らい合いを始めようとしたその瞬間、素早い影が風となって斬り合いの隙間を縫っては二人を斬り飛ばす。
「よもや、この程度の斬り合いを殺し合いと称するとは」
凶悪な霊圧が殺意を乗せて、身を刺すような殺気が肌を焼く。吹き飛ばされた二人が見たのは一人の剣鬼。
髪は解け、優しさは砕け、その目は殺意に満ちている。四番隊としての姿はそこにはない。
「生温い」
尸魂界きっての大罪人。護廷十三隊初代剣八にして全ての剣術は我が手にありと謳う殺戮の化身。
野生の卯ノ花八千流が現れた。
「目の前でこんな斬り合い見せられて、アンタが黙って見てられる筈がねェ!」
と盛り上がる更木剣八に対して、一周回って冷静になった男は…………。
「………………えぇ?」
ドン引きしていた。
「二人共剣を構えなさい。戦いとはなんたるかを私がその身に叩き込みましょう」
「面白ェ!」
「あっ、俺も入ってるんですね……まじか」
自分が蒔いた種である。
「ぎゃああ! アカンやつぅぅう!!!」
その後、一日中殺し合いをした。
取り返しのつかないことになる直前、灰世がストッパーとなり、戦意と殺意を奪うことでその場が治まった。
確か、更木剣八に剣術を教えてはならぬとか四十六室で決められてた筈だが、更木剣八が朽木灰世に剣を教えてて卯ノ花八千流が襲ってきただけなのでセーフなのだ(そんなことはない)。
というか、バレなきゃ犯罪じゃないんです!
「で、次はいつヤるんだ?」
「それで次はいつやりますか?」
これが毎月起こるなんて灰世自身誤算も誤算である。
筋肉痛でヨボヨボのおじいちゃんになった灰世に対し。
「隊長! 今日はご機嫌っすねぇ! なんか良いことあったんすか?」
「まァな!」
元気ハツラツな更木隊長と。
「卯ノ花隊長」
「どうしました? 勇音」
「い、いえ、今日はいつにも増してツヤツヤしてて、何かありました?」
「ふふふ、内緒です」
妙にツヤツヤした卯ノ花隊長だった。
……なんでさ。
ゆるやかに確実に剣八継承の儀が始まりました。
卯ノ花隊長生存フラグ……?
剣ちゃんは、強くなってまた殺しに来いって生かすタイプだから、チャンイチの勝ちは無くなるけど問題はない…はず。
ノイトラが可哀そうになるだけだから……。