四番隊隊舎の隣り合った別々のベッドの上で二人の大人が正座で座り、同じように説教を受けていた。
「ホントすんません。…………うっぷ、吐きそう」
今現在、激おこ白哉様による淡々と詰めるような説教が始まっている。でも頭が痛くて全然中身が入ってこないのです。マジすんません。幸せスパイラルキメすぎたよぉ。
隣に同じように京楽隊長が伊勢七緒副隊長に叱られていた。でも全然状況が違うのである。なんか悔しいのは京楽隊長の一枚上手感が凄いからだ。
伊勢副隊長は叱りながらも、もう私がいないとダメなんだから♡みたいなのが溢れてるし、京楽隊長も構ってもらえて嬉しそうだし、どっちに転んでも得な状況を作っている。恐るべし京楽隊長。
俺も叱られるならあっちに、なんでもないです。
こうなったのは昨日のことである。
明日休みの仕事終わり。つまりビバ! ハッピータイム! さあ! 今日は誰と飲みに行こうかな! と背伸びをしていたら人に呼ばれた。
「失礼するよー。朽木灰世君は居るかい?」
と、渋く重く響く声。
そこに居たのは父の旧友で瀞霊廷で一番ダンディなオジサマと名高い八番隊隊長京楽春水様でした。
話は程々に、京楽隊長はクイッと酒を飲むジェスチャーをしながら「とりあえず行こうか」とのお誘い。
「「かんぱーい!!!」」
当然の流れである。
最初は自己紹介を含めた探り合い。パーソナルスペースを守り、守らせ互いの間合いを測るのだ。
「ささ、どうぞどうぞ」
「おっとっとっと。いやぁ、すまないねぇ。君もほら」
「わぁ、すいません! ありがとう御座います! それじゃいただきます! …………ぷはぁ! 旨いっすねぇ!」
「おお! 気持ちいい飲みっぷりだねぇ!」
そして、聞かれるまでもなく二軒目。
「君のお父様とは昔からの付き合いでね。君とも会ったことがあるんだよ。赤ん坊の頃だけど」
「話には聞いてました。父はよく京楽隊長の話をするんですよ。あの京楽春水と友達なんだっていつも自慢して回ってますよ」
「それは、嬉しいじゃないの。でも隊長になってから全然会えなくて。手紙ではやり取りするんだけどね。お父様は元気でやってるかい?」
「俺を実家から蹴っ飛ばすくらい元気です」
「なら良かった」
お酒をキメて、ほろ酔い気分で気持ち良くなる時間帯。昔話に花を咲かせて、身内話で盛り上がって、肩の力を抜いていく。
「ところで女の子がいるお店とか興味ないかい?」
「ありますねぇ」
次は華やかなる三軒目。
なかなか雰囲気のある高級そうなお店だった。
「おお! 良いんですか?」
「もちろん、それじゃあ行こうか!」
カランカランッと扉を開けると。
「どーも、きたよぉ」
「あらいらしたのね、春水さん」
そこに居たのは眼鏡の似合う清楚な女将だった。
この人、自分の
つまり、するべきは一つ。ヨイショである。
しかも難易度の高いヨイショ、わざとらしくないさり気ない上げが必要と見た。ふっ、こちらとて幾つもの戦場(酒場)を経験してきた猛者よ。腕の見せ所だぁ!
「いい時間だし、お暇するとしますかねぇ。勘定貰えるかい?」
「あら残念、もう帰るの?」
「もう夜遅いですからね。とっても楽しかったです!」
「また来るよ!」
この人、最初から最後までフルスロットルだったなぁ。
「二人共またいらっしゃいねぇ」
「「はーい!」」
そうして外に出れば夜も深まってきた頃だ。
「さーて、もう一軒行きますかぁ!」
「うっす! ついていきます!」
四軒目を何処にしようかとぶらりと歩く。夜風が頬を撫でるのが心地良い。
「そろそろシメが欲しくなってきたねぇ」
「そうですねぇ。おでんみたいな鍋がいいですか? それとも王道の麺系ですかね」
「そうだねぇ。そうだ。いい店紹介してあげるよ。僕の行き付けなんだけどね」
そしてやって来たのは屋台の中。
二人でハフハフと美味いもんに食らいつく。ここまで来ると居心地の良い無言になる。そして熱燗なんかをちびちびもらうのだ。
「灰世くん、もぉ一軒いこぉかぁ!」
「良いれすねぇ! どんどん行きましょう!」
そして延長戦。
これが朝まで続き、最終的には酒瓶を枕にした京楽隊長と酒瓶を抱き枕にした俺がグースカ道端で寝ているところが発見され、四番隊に運ばれたのだった。
「屋敷の者達にあまり気苦労をかけるな」
「はい。以後気をつけます」
「朽木隊長。そこまでで許してもらえないだろうか。僕が連れ回しちゃったのが悪いわけだし」
僕の顔に免じて、と悪い悪いと手振りをすると白哉様も止め時を見失っていただけに素直に応じる。
「…………良いでしょう。行くぞ灰世」
「了解です」
そして、すれ違うときにアイコンタクトをするのだった。
「「また、飲もう」みましょう!」
懲りない二人である。
「灰世。私はこれから用事がある。先に屋敷に帰るといい」
「はーい!」
屋敷の門を開けたところで白哉様のお付きの丸メガネがチャーミングな清家さんがコッチに向かって今まで見たことないほど全力で走ってきた。
「灰世様。灰世様ぁ!」
「ど、どうされました!?」
「屋敷がっ! 屋敷があ!!」
朽木邸に急いで向かうと、そこには十二番隊がほぼほぼ全員総出で取り囲んでいた。その指揮を飛ばしているのは十二番隊隊長の涅マユリ様である。
「あの! すいませーん! これ、何やってるんです!?」
「誰だネ? 君は」
「いや、朽木の者なんですけど、何してるんですか!!」
「さっきから五月蝿いんだヨ。この私が自ら指揮を執ってこの屋敷を改造してやろうと言うんだ。感謝されこそすれ、文句を言われる筋合いはないヨ。それとも、何か意見でもあるのかネ?」
「せめて説明だけでもしてもらえませんかねぇ!」
「ネム。ネム!!」
「はい。マユリ様」
「この男を黙らせたまえ。今すぐに!」
とこちらを向いた涅ネム副隊長が取り出したのは紙の束だった。
「こちらが資料になります」
「え、あ、はい。ありがとうございます」
えーと、なになに?
朽木邸改造計画?
施工依頼者、女性死神協会本部。
依頼内容は隠し扉(複数)。隠し通路(複数)。隠し部屋(複数)。
その二枚目には協会本部移動願いの書類に移動先の場所が六番隊隊舎の朽木邸となっている。
…………えーと、何からつっこんだらいいんだろうか。これ許されるん? てかもう工事始まってるし!
ヤバい。別の意味でも頭痛くなってきた。
「あの、屋敷の強度とか、セキュリティ上の問題とか」
「そちらは既に解決済みです。こちらをご覧ください」
うん。こちらの懸念点を確実に潰してやがる!
「なにか、問題ありますか?」
「…………いえ、何も、無いです」
ふぇぇ、圧凄いよぉ。
その日、灰世は考えるのを止めた。
うん。アレだ。メリットを考えよう。ほら、女性死神協会なら居るだけで華やかになるし、強いし、何かあったときの隠れ家になるし。
それで、いいか!
「涅隊長」
「なんだネ? まだなにか言うつもりかネ?」
「いえ、こちらで色々処理しとくので、サインだけお願いします」
「ほう。話の分かるやつは嫌いじゃないヨ」
そうして、またしても何も知らない白哉様が出来上がった。