ここに来て発覚した白哉様の最推しのワカメ大使。
珍しく饒舌な白哉様の布教攻撃(圧)から口八丁で何とか逃れて部屋から出ると廊下で可憐な少女と出会うのでした。
「おや、ルキア殿ではないですか。お久しぶりですね」
「これは灰世殿。昨日は挨拶出来ず申し訳ない」
「いえいえ、余りに急なことでここに着いたらもう夜遅くでしたからね。お気になさらず」
むしろ寝てるところを起こさなかったか心配するまである。
でもルキア殿の顔色を見て、良かったと少し安堵する。前回会ったときから少しでも立ち直った様子。
ルキア殿と顔を合わせたのはこれで三度目くらいだ。
一度目は朽木家に迎え入れるとき。
そして二度目なのだが、ここから話が長くなる。
少し前、朽木ルキア殿が志波海燕様を殺したと騒ぎになった。あわや朽木と志波の衝突か、となる前に何処ぞやの綱彌代の裏工作もあり、瞬く間に志波が没落してしまった。
そもそも詳しい情報を知れば衝突するようなことはなかったのだが、それでも曲解して悪い事実だけを切り取れば志波家にトドメを刺す形になったのは間違いない。
そして何より元々崩れかけとはいえ五大貴族の一角が没落したという事実は衝撃だった。しかも後継者の有無が関わる感じで。
多分これが引き金で俺が今のような状態になったんだろう。
それはそうと、そんな事件の裏で奔走してたのが俺こと灰世くんなのでした。
どんなに心配してても他の隊の事件に介入できない朽木白哉様。
重要なときにぶっ倒れて動けない浮竹十四郎様。
副隊長に、まとめ役になっていた副隊長の妻まで失って指揮を取れるものがおらず、てんやわんやの十三番隊。
そして我ら朽木家の老人会の皆様はうむ! これは関係ないな! とまったく動く気ナッシング。巻き込まれたくなかったんだろうね。それにしてもじゃん?
そこで、放置すんなよぉ! と暇な俺が朽木家代表(笑)として出動である。まあ、フリーの自宅警備員で動きやすいし、なんかあっても切り捨てやすいしね。
あれ、俺、わりと働いてるのでは……?
んなこたぁないか!
まず手始めに志波海燕様を引きずって歩いていた放心状態のルキア殿を捕まえる。うん、普通にホラー。てか、この子ちょっと幸薄くない?
こういう時の為の組織は既に手配済みの引き連れ済み。ふっ、別に戦いでなくとも二手三手先を呼んで行動するものさ。ということですぐに鬼道で簡易施設を作って海燕様の汚れを落とし、死化粧をして丁重に棺へ入れる。
そして志波家へ向かった。
移動の最中、ルキア殿は完全に気が動転していて震えながら、うわ言のように謝り続ける。完全にトラウマになっとるやーつ。この状態のルキア殿に何があったかを尋ねて思い出させるのは余りにも酷すぎる。
だから鬼道で十三番隊に連絡を取って状況を尋ねた。
どの隊員が出てもしどろもどろで要領得ないし、そもそもルキア殿一人をほっぽり出すし、半分キレかかったところで血反吐を吐きながら浮竹隊長が応じてくれた。
そしたらもうスムーズよ。すんません具合悪いのに起こして。
俺がここまで手厚く動くのは志波家の方々とは良い飲み仲間でよくお世話になっていたから。何より五代貴族の中で唯一の良心だった。
基本的に気の良い奴の集まりで一番絡みやすかったし、これまで交流してきた貴族の中だとデタラメだけど他に比べたらマシな方。マジ癒やしだった。
ただ貴族らしくないといえばその通りだし、個人主義が強すぎる一族ではある。なーんて、朽木家の死神がもう何も言うべきじゃないか。
志波家に事情を説明し、ショックを受けてガタガタになっている志波一家の代わりに速やかに葬式の手配をして右往左往してる連中をまとめて取り仕切る。
何処ぞやの綱彌代からの嫌がらせを軽く流しつつ途中から多少立ち直った志波家の方々に入れ替わる形で役割を交代。後は上手く裏方に徹する。慣れたもんよ。
ちなみに費用は全額俺持ちである。
ああ、さようなら。俺のへそくりたち……。
あれから幾星霜(経ってない)、やっと落ち着きを取り戻した今日この頃である。
「そう言えば現世での虚退治の任に着かれたとか。頑張ってくださいね」
「はい! これからも日々精進して参ります!」
「うん。無理はしちゃ駄目ですよ。そいじゃ、また」
「はい!」
俺相手にあんま畏まらなくて良いのに。
拙者が朽木家の最低ラインぞ!
さて、確か午後には阿散井副隊長との顔合わせとついでに六番隊舎の案内があるんだったか。明日でも良いのに予定を繰り上げるのは阿散井副隊長と仲良くなれってやつだろう。
でもそれまで時間あるな〜。酒飲みに行くわけにもいかないし、湯浴みでも行ってこよ。
「俺ぁ阿散井恋次ってんだ。よろしくな!」
「朽木灰世です。どうぞよろしくぅ!」
阿散井恋次。
確かルキア殿の幼馴染で十一番隊から六番隊に希望してきた子だったはず。実力をつけてわざわざ来るところに何かある。つついてみーよ!
「ところでルキア殿を狙ってるってマジ?」
「な、なな! 何のことっすかねぇ!?」
「ははーん? マジだな? マジなやつだな? かぁ! 甘酸っぱいねぇ!」
「つーか、誰から聞いたんすか! そんなこと!」
「ふっ、初歩的なことだ、友よ」
「…………なんすかそれ」
エレメンタリー・マイ・ディア。
「あの、このことはどうか朽木隊長には内緒に…」
「おっけおっけ! まかせろーい!」
「不安だなぁ、この人」
うん。この隊で上手くやれそう。
そして、入隊日。
六番隊舎の大広間にて六番隊隊士一同が勢揃いしていた。みんな一様にヒソヒソと噂話をしている。その話題は当然、この後紹介されるであろう新しい十席のことだ。
酒浸りの落ちこぼれだとか、朽木家の後継者だとか、あることないこと囁かれている。僻みやっかみも勿論あった。
だが、霊圧と足音が近づいてくるのを察して静まり返っていく。
正面の襖が開かれる。
先陣を切って姿を現すのは六番隊隊長朽木白哉。その後ろに付き従うは二人。まさに右腕、副隊長阿散井恋次。そして、その反対にいるのが噂の十席。
きっと朽木灰世は思い違いをしている。
まるで重力が二倍になったように感じる。
足が地面に縫い付けられていると錯覚する。
息をするのにも意識しなければならないほど空気が重い。
侮れるはずがない。
貴族は総じて霊力が高い者が多いし、朽木白哉、阿散井恋次は勿論、朽木ルキアだって始解に至る席官クラス。
己が当たり前のように垂れ流すその霊圧は有無を言わせぬ力の証。
ただ静まり返ったのではなく、誰も喋る余裕がないのだった。
朽木隊長に自己紹介を促されて声を出す。
「朽木灰世と申します。これから、どうぞ宜しくお願いします」
その後、一人ひとり菓子折りが手渡しで配られた。
中身はまさかのワカメ大使饅頭。
六番隊は見事に混乱した。