朽木家、分家、その末端から関係者まで、朽木家に関わる全ての死神は天ノ羽々音の支配下である。
我ながらちょっとドン引き。
まあ、そこには深い訳ととある人物が関わっている。その人は両親にも伝えていない斬魄刀の能力を唯一打ち明けた人物で俺の人生を大きく左右した人でもある。
つまり俺にとっての黒幕。
その名も朽木家先代当主、朽木銀嶺様。
一体全体何があったのか。このお話はもう八十年以上前に遡る。
子供の頃、斬魄刀で己を鍛えた理由は憧れと厨二的思考の他にもう一つあった。
それは俺様、霊圧でモノをぶっ壊し案件が多すぎて草ってやつである。毎日成長してちょっと揺らぐとすぐにお漏らし。マジ死活問題。
初期のモンハンの卵並みに色んなモノを割りまくっていた。
俺じゃねえ! 俺の霊圧が勝手にやったんだ! やっぱり俺じゃねぇか! みたいな日々にはおさらばしたかった。切実に。
そうなると霊力コントロールに斬魄刀での修行はもってこいじゃない? と頑張った。死に物狂いで。あのとき使用人さんとか気絶させまくってたからね。
そして、始解まで到達した。
したらしたであの能力である。これ申告したら俺幽閉コース待ったなしやんね。ウソダドンドコドーン!
と混乱の最中、俺の脳みそが瞬時に答えを出した。
俺の問題、トップと共有、なんかあったらトップと責任折半の術。
クズである。まあ、こっちの腹積もりがどんなもんであれ、組織の一員なら間違ってない判断のはず。
まあ、腹ぁ斬れと言われる可能性が高かったが、どの道遅かれ早かれバレれば終わりだ。
そして何を隠そう俺、隠し通せる自信なんてこれっぽっちもありませんでしたぁ!
ということで当時のビッグボス、銀嶺様に全てをゲロった。
「灰世よ。そう畏まる必要はない。よくぞ話してくれた」
「はっ、はい!」
当時、銀嶺様は白哉様との修行が一段落し、白哉様は独り立ちのための挨拶回りが始まり、銀嶺様はちょうど暇を持てあ、穏やかな日々を過ごしていた。
「確かに恐ろしい力やもしれん。だが、それは扱う死神によって正邪が変わるものだ。分かるな?」
「そ、そうです……ね」
そこに入れ替わるようにちょうどよくオモチャが、もとい俺が登場したのである。
「賢いお前のことだ。話せば最悪の事態になるかもしれんと分かっていただろう。それでも私を信じて、素直に話をしてくれた。その心に報いねばならん」
「……え?」
正直この時はまだあんな大事になるとは考えてなかった。
「灰世。大いなる力には大いなる責任が伴うものだ。明日から私の従者となれ。その間、修行をつける」
「はわ、はわわ、はわわわわ!」
まさかの弟子入りを果たすのだった。
「力の使い方を教えてやろう」
どうしてこうなった!!!!
その時はそう絶望したものだが今ならわかる。
俺を生かしておいたのは決して優しさだけじゃない、朽木家当主としての計算があった。俺を抱えるリスクよりも利用して得られる利益を取っただけの話。
銀嶺様は未来に一抹の不安と白哉様に対して負い目がある。
娘婿として選んだ朽木響牙は罪人となり、殺せもせず封印。息子の朽木蒼純様は元々お身体が強くなく戦死となった。その責任問題を問う声は大きい。朽木家の中に不信を抱く者たちが銀嶺様に深く牙を剥いていた。
残されたのはまだ若い孫の朽木白哉様お一人。
若い頃から頭角を現して、これから当主になるのはもはや必然だったが、それ故に多くの重荷を最初から背負うことに。必要以上に厳しい目が向けられる。
銀嶺様にすれば可愛い孫に負債を押し付け、要らぬ不利益を背負わせることになる。
息子を失って辛いのは銀嶺様自身も同じだろうに、こうなってしまったのは自分のせいなんて思ってしまっているところもあった。失敗できない恐怖も大切にしたい親心も理解出来るものだろう。
銀嶺様は白哉様が背負うものを少しでも軽くできないかと考えていた。そんなときに俺が現れてしまった。人を御するのに特化した力が……。
そして、自ら育て導き、俺が力を完全に制御したときを待っていた。
「灰世。何も言わず、協力をしてはくれぬか……?」
まあ、こちらとしても生かしてもらえてるだけで万々歳。多少のことなら許容範囲内です。
銀嶺様と協力し、付き人として様々なところに出向いて回る。銀嶺様の付き人の仕事もするが、目的は勿論有象無象を羽々音の支配下にすること。
俺は何かあった時のトラップカードであり、銀嶺様の懐刀であり、人知れず敵の背後に立つ切り札である。
その仕事は権力者の掌握。反乱分子の監視と懐柔、要人の警護から裏切り者の暗殺まで多岐にわたった。あの時はそこそこ荒れている時代のせいもあり大忙し。そして俺の一番頑張ってた頃だ。
朽木家全体で六割いる風見鶏は支配下にして放置。二割の考えなしの馬鹿を能力で手懐けて、残り二割の知恵ある厄介者は俺の背後の銀嶺様が動くことで抑えつける。完璧で見事な布陣である。
そう! 色んな意味で俺は朽木家の暗部なのだ! 恥部じゃないの!
一応白哉様とは表と裏、光と闇、陰と陽の関係、と言いたいところだが白哉様はその才覚と器で不満を持つものを真正面からぶん殴っていき、何も問題なく当主の座に収まった。正直俺要らなかったくさい。骨折り損のくたびれ儲けってやつだ。
嬉しいことに銀嶺様の懸念は杞憂に終わった。
その後、銀嶺様は白哉様の立派なお姿を見届けて引退。俺もその役目を終えることに。有能な害悪共を能力で良いように動くよう操りつつ俺も裏世界から痕跡を消して静かにドロップアウト。
正直処分されると覚悟していたが銀嶺様の温情により好きに生きよと許された。
こうして俺の過去は消えてなくなり、一人のニートが完成した。
朽木家掌握はその時の名残。そしてこの事は白哉様は知らない。知らなくて良いことだ。
そんな誰にも言えない銀嶺様との内緒の話だ。
「白哉様。俺は明日から入隊なんですよね」
「そうだ。今日のうちに色々準備をしておけ」
斬魄刀のことは聞かなかったことに、この事実は伏せることになった。
まあ、敵が攻めてくるとか、内乱が始まるとかない限り帯刀令はでないだろう。大丈夫大丈夫!
「白哉様、色々ご迷惑をお掛けすることですし、何か手土産とか持っていったほうが良いですかね?」
「不要に思うが灰世の好きにするがいい」
勿論戦略だ。
初日に菓子折りとか持ってくやつなんていない。だが朽木家としてお世話になっている、迷惑をかけるという名目で持って行く。
こっちは厳しい入隊試験もなくその上、席官に権力で割り込む以上やっかみは必至。そこで一人ひとり手渡して声かけることで他人から顔見知りに関係値を強制的に底上げし、さらに菓子折りを渡すことで精神的な貸しを押し付ける!
そうして悪口を言えない空気にするのだ。完璧すぎて俺自身が恐ろしい!
実際ルキア殿のときは相当陰口とか酷かったらしい。
まあ、ルキア殿は少し特殊ではあるけども。それでもあの浮竹さんが治める十三番隊でもそんなことがあったのだ。気は抜くまい。
「何かオススメとかありますか?」
「……。ならば、良いものがある。ワカメ大使饅頭という菓子だ」
「へえ、聞いたことないですね」
「待っていろ。予備がある。今持ってこよう」
予備とは? そんな好きなん?
白哉様は立ち上がると戸棚から箱を持ってくる。
「これだ」
「へぇ、どんな―――
その箱が開け放たれた瞬間、灰世の脳は加速した。
うっわ、ダッッッs!!!!
本能で察した。これを口から発してしまえばその頃には俺は八つ裂きになっている事だろう、と。
えっ? まじで言ってる? リアクション待ち? この後本命の紹介とかありますか?
ばっと白哉様の目を見る。
違う! ガチなやつだこれ! 嘘だろ!? これを配り歩いた日にゃ友達ゼロ人達成しちゃいますよぉ!?
「こっ、これは美味しそうですねぇ!」
「そうだ。だが味だけではない―――」
うわぁぁぁぁ! そっちに話し戻さないでぇ!
そこは地雷原じゃあぁぁぁぁ!!!!
灰世くんの苦労は続く。