はいはい、朽木白哉の弟が通りますよっと   作:スターリー

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そこは俺を遠ざけるところですよ。白哉兄様

 父は下級貴族の三男坊。

 それでも貴族同士の付き合いの中で運良く巡り出会った八番隊隊長の京楽春水殿とは昔なじみなのが自慢だそう。

 

 そんな父がまだ若い頃のお話。

 父は三男坊というように二人の兄がいる。その二人はすこぶる元気で健康で、そうなれば父は継ぐ家もなければ残る理由もない。

 

 時代、立場、身分。下級とはいえ貴族という富、それによる義務、だからこその責任。父が選べる未来は余りにも少なかった。

 具体的には家の為に下男として働くか、別の何処かの家に仕える使用人になるか、はたまた死神として命懸けで戦うか。

 

 どれにしろ、つまらなく不自由な未来が待っているのはわかりきっていた。

 

 ならばそうなる前にこれが最後の思い出、独身貴族を謳歌するぞと意気込み、遊びに遊ぼうと心に決めた父が最初に偶然貴族街で引っ掛けたのが母である。

 

 朽木家の分家で堅実で身持ちが固く、その上才女と呼ばれていた母を、たった一日で心の壁を壊し、冷えた心を温め溶かし、難攻不落の城とまで呼ばれていた母を瞬く間に口説き落とした。

 

 不幸中の幸い、互いに婚約者はおらず誰にも恨まれることなく、あれよあれよと恐ろしいほどあっという間に婿に入っていた。

 

 その時も朽木家は少し荒れたらしい。

 だが父が四方八方に赴き、やはり口説き落としたという武勇伝がある。俺、血筋やんけ……。

 

 とはいえ、父方の家にすればまさに逆玉。超のつく大金星。二度とない奇跡である。

 

 そんな父が息子である俺にくれた、たった一つの金言がある。

 

「いいかい灰世。遊ぶときは位の高い女性は止めておくんだ。……逃げられなくなるからね」

 

 ガキ相手に何言ってんコイツ、とか思いつつ血の繋がりを感じずにはいられないこの一言。

 

 というのも俺こと灰世くんには兄と姉と妹が居るのだが三人共母の血を色濃く受け継ぎ、全員見事なまでに質実剛健。

 対して俺は言わずもがな。その日暮らしの風来坊。人生なんとかなるさの無敵思考。やがて賢者になる遊び人(白目)。だが、人脈で世を渡るならばマジで困ることはない。

 

 そんな父の才覚を凝縮し倍増させたのが紛れもなく俺。変えられない事実。残酷な現実。真実はいつも一つらしい。まじ南無三。

 

 つまり、わりと切実な忠告なのだ。生き写しかな? 

 

 さて、父の発言、ガチで笑えないのが貴族社会というものだ。

 貴族は位が高ければ高いほどその発言や行動の一つひとつに権力と責任が絡みつく。貴族でない人間が思うよりずっと厳しく残酷で不自由である。

 

 例えば父が移り気を起こそうものなら父の一族全員の首が飛ぶ。比喩でなく物理で。修羅場があるのはまだ幸せな方だ。

 

 だがまあ幸いに父は母を見ると毎度。

 

「結婚してほしい」

「もうしてますね」

 

 とイチャイチャするほどなのでまったく心配は要らないだろう。見えないところでやってくんないかなぁ! もう! 

 

 では不自由を嘆いていた実家にいた頃よりも遥か上の権力を手にした父はあの頃よりも自由なのだろうか。

 

「いや、自由にできるの夜のアイツくらいのものさ」

「うわぁ、マジきっも。腹立つわぁ。鳥肌立つわぁ」

 

 つまり、何が言いたいかというと権力があれば自由だと考えている人は多いがその実、権力を持てば持つほど余計なしがらみに囚われて不自由になるのだ。

 

「どんな道も地獄だよ。だから自分にとって好きな地獄を選ぶといい」

「誰が地獄ですって?」

「はっ! いや違うんだ! 色んな勘違いあってちょっとした行き違いなんだ! ほら! 灰世も何かフォローを!」

「母様が地獄だって!」

「のぉぉぉおぉ!!!」

 

 引きずられて行く父を見守る。

 自由の代償は高いぜ、と嘆く英雄は真を突いている。だが、不自由から得られる対価もまた大きいものでもある。不自由の中で無理に自由を通せば反動もまた大きくなって返ってくる。

 

 そういうことだぞ! これまじで洒落にならんからな! 何処ぞやの綱彌代め! あいつ、マジいつか痛い目見るわ。

 

 まあ、つまり制約と誓約の話だ。

 誓約と制約で力が高まるのはなにも念能力や術式だけではなく、どの世界、どんな力も、たとえ権力でさえ例外なく同じだ。たとえばスポーツや勉学の世界とかもだ。

 

 高い成績を残す者はその世界、その領域では自由であるが、それ以外のところでは不自由だ。つまり、得意とするもの以外の自由を捨てる縛りでそこに立っている。確かに中には完璧超人なんてのもいるんだろうが、欠点がない死神を俺は知らぬ。

 

 と、色々話が逸れてしまったが、現状ソウルソサエティにおいて上に立つものは大きな犠牲という名の制約と与えられた役割という名の誓約にて、その位置にいる。

 

 だからこそ、誰かのためならその位置を簡単に捨ててしまう志波家が没落したのも、誰に縛られることなく自由に生きた四楓院夜一が出奔したのも、その幼馴染で不自由を知っている浦原喜助が逃げ出したのも当然と言えば当然なのかもしれない。

 

 彼らはその代償を受けている最中だ。それが罰になっているかは別として。

 

 そして俺はどう見てもそちら側である! なんてこったい! 

 

 では、万が一にもこの俺様に次期当主という立場。億が一にも、その先があったとしてそれは俺にとって良いものだろうか……。

 

 結論は簡単だ。

 

 よくない。絶対良くない! 

 

 いやそもそも! ぜっっったい! 俺には無理! そんな重責担えねぇって! やだやだ! 働きたくない! 働きたくないでござるぅ! 

 

 逃げ出す自信しかないんですけど。ほら、俺の斬魄刀を見てほしい。主の下へ帰らずにあっちにフラフラ、こっちにフラフラ。

 

 俺の行動そのものなの。嗚呼、俺も鳥になりたい。パタパタッて飛び去りたい……。

 

 そう! 俺も鳥になる!

 

 じゃなくて、するべきことがある!!

 

 俺とて朽木家の血を受け継ぐ者。

 その本質は熱血にして冷血にして鉄血! どんなにクールに見せても、やれやれ系主人公的ムーブを決めても、いい感じに取り繕っても結局は真正面からぶつかる事しか出来ない脳筋一族。それが朽木よ! 

 

 俺の抱える事情。小細工なしでぶちまけさせてもらいます!! 

 

 

 

 

 朝食を終えた二人。

 召使いたちが片付ける中、灰世は白哉に大切な話があると声を掛ける。

 

 通されたのは白哉様のお部屋である。

 

「白哉様。お伝えすべき事があります。俺の斬魄刀についてなのですが、実はもう始解出来るんです」

「そうか」

 

 家族にすら話してない俺の秘密。これまで一人にしか打ち明けていない絶対の強みであり最悪の弱み。

 

「ただ、その能力は一定時間過ごした人の、感情を操ります」

「……!」

 

 打ち明けれは警戒されて嫌われるのは目に見えている。だけど、いつか来るはずの絶望が早まっただけだ。

 

「何故今まで黙っていた」

「この力が忌避されるものなのは理解しています。だから言えずにいました。ですが、これからの立場を考えたとき、いずれ分かることを隠し、後から揉め事にするのは愚か者のすることでしょう」

 

 朽木白哉への信頼。そして警告。

 

「今更ながらこのようなことを。申し訳ありません。どのような処分でも受け入れる所存です」

 

 しばしの沈黙に包まれる。

 一考の後、朽木白哉は灰世に向き合うとその目をしっかりと見つめる。そして、ゆっくりと口を開いた。

 

「……兄とはこれまで幾度となく苦楽を共にし、助けられてきた。その恩義はあれど、その心根に不信を持ったことはない」

 

 これまでを知っている。故にこれからも変わることはない。

 

 朽木家に灰世をウザがっては居ても、本当に嫌うものは居ない。そもそも灰世がこんな生活して許されるのは、その能力以前に人間性や気遣いの端々、性格の根っこの部分が善いものであるからこそ、ついつい絆される。

 

 魔性の人誑しである。やっぱ悪いやつかもしれない。

 

 そして、大事な場面、此処ぞの瞬間に逃げ出さず誤魔化さず嘘をつかず、こうして正々堂々と打ち明けてくる人間だからこそ、信用が足るのだ。

 

 その言葉は揺らぐことなく、その意志に迷いはない。

 

「故にこれから先何があろうと兄への信頼が揺らぐことはない。だから案ずるな。灰世(・・)

 

 おいおい。まじかよ。

 

 開いた口が塞がらねーぜ。

 

 普通、そこはさ。

 

「……そこは俺を遠ざけるところですよ。白哉兄様(・・・・)

 

 あーあ! マジ聖人! 善人すぎて弟は心配でござるよ! 器の違い見せつけられたんですけど!? 

 あーもう! はよ子供作れよ! その優秀な血筋残しやがれくださいマジで!! 

 

「ところでルキア殿にもそのくらい言葉を尽くすべきでは?」

「黙れ」

 

 迎え入れられたことにド安心して、燃え尽き症候群の兄様なのである。

 




その日暮らしの風来坊と言っておきながら、人脈という金山をもって生きることに困らないという抜け目のなさが売りの主人公です。

趣味は現世からマンガ・ラノベ等を取り寄せておいて疲れたとき、或いはごほう日に一日中オタク部屋に引きこもること。
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