sichirobe
2024-11-19 07:22:48
4044文字
Public LOM・連載主人公の短編
 

史上最悪のLOM

男主が女主と瑠璃くんに意味なく(?)迫ってる話。途中までですが続きはないです。ふせったーの再録。

 ここまでのあらすじ(ここまでの話無いけどね!)
 珠魅の核がしょうかんにあることがわかったよ!
 
女主「しょーかん? しょうかん……召喚?」 
瑠璃「ふざけやがって。すぐにでも殴り込んで取り返しに……
真珠姫「でも核は金庫にあるって……それもいくつも……
瑠璃「すると、鍵の持ち主を説得するか脅すか鍵を盗みとるか……。チッ、いずれにしても内部に入るしかないな」
女主「商館……しょうか……あっ!」
男主「……やっと気づいたのか」
瑠璃「で、誰が中に入るか、だが」 



1:地獄の始まり
 
「事情はわかったけどサ」
 裏路地に店を構える、洋装店の店主カーミラは面倒くさそうに葉巻をふかしている。
「無理を言ってすまない。くれぐれも内密に頼む」
「いいよォ。なんつーか、まあ……こんな、飾りがいのあるコォ見たことないし……ある意味、ね。なによりあそこの店にはアタシも困ってンだ。マトモな客が寄りつきゃしない」
 意外なことに、その手の店が幅を利かせるのは、カーミラには面白くないようだ。一見すればこの店主が一番いかがわしいようにも見えるのだが、商売自体は真面目にやっているらしい。
「アタシゃね、今はこんな暗闇の土地にいるけど、これでもジオの一等地に店構えるのが夢なのサ。仲間はみんな無理だって言うけれど、悪魔が教師やる時代だろ? 魔物が店やって悪い道理はないよねェ……と、アタシの話は置いといて」
 カーミラが意味深な視線を送るのは、砂マントが連れてきた赤い帽子の少年である。しれっとした顔の砂マントに対して、こちらはすべての憎しみと闇を抱えたような、どす黒いオーラが出ていた。
「ま……これでもアタシも淫魔サ。すべてのプライドと能力の限りを尽くして、できる限りはやってみるってことね……っても、期待はしないでヨ……。ホラホラ、邪魔だから行った行ったァ」
「じゃあな。シオン、宿で待っている」
 赤い帽子……シオンは、普段の彼を知る人が見れば衝撃を受ける程度には恨みがましい目をして、去り行く珠魅の青年を睨んでいた。
「瑠璃……覚えてろよ……
「しかしさァ……
 置き去りにされた少年を、女店主はもっかい見てみる。……無理な気がする。
「キミィ、本当に大丈夫? 女装して娼館に潜り込むなんて」
……
 可愛げゼロの顔面にありありと『不本意』と書いてある。
 女装だの潜入捜査だの、やるならさっきの美青年のほうがよさそうな気もするが、できない事情があるらしい。確かにまぁ、容姿は悪かぁないが……。なんとなく人と違う空気感は備えているのだが、この件に限って言えば、多くのライバルを出し抜いてターゲットの気を惹くことは難しいだろう。
 こりゃキビシイな……とカーミラが思っていると、
「不本意甚だしいけれど……
 少年が不機嫌丸出しで口を開いた。「……仕事はやってやるよ」
 
 

2:こんなLOM誰が見たいというのか……
 

「大丈夫かなあ~、あいつ……
「アイツの強さとしたたかさ知ってるだろ。心配しすぎじゃないか?」
「そうかもしんないけどさあ……
 時間待ちの宿で、カイはずっとそわそわしている。帽子の友人が心配するような人物ではないのはわかっているが、行かせる場所が場所だけに気がかりはある。
「シオン、作戦会議中からすんごく嫌がってたのに、瑠璃が無理やり抱えてカーミラの店に置いてったんじゃん……
「同意の上だ」
 実際には道々ものすご~く抵抗したシオンだが、瑠璃の「カイに行かせる気か?」の一言で完全におとなしくなった。珠魅狩りの元に珠魅を送り込むわけにはいかないことはさすがにシオンも承知しており、それについては罪悪感がある瑠璃である。
「おにいさまならきっと大丈夫。おねえさまも飲みませんか? おちつきますよ」
「あ、ありがと、真珠ちゃん」
 真珠姫がホットミルクを差し出してくれる。まずは受け取り、カイは口をつけた。
「そろそろ二時間か~。どんな姿になってるやら……ぶふっ」
「おい、唐突に牛乳吹くなよ」
「いや、だってさ、あいつの無愛想顔にスカートの融合が浮かんだら無理」
「ぶほおっ」
「瑠璃汚いなぁ~、コーヒー飛んだじゃん」
「誰のせいだ!」
 絵面の破壊力がすごすぎる。
「大丈夫ですよ。おにいさまなら、きっとかわいくなります……う、うん……きっと……た、ぶん……たぶん……
「真珠ちゃんなりに一生懸命フォローしてくれてるの分かるけど、それはそれで、言われてうれしいのかビミョーだね……
「女装した仏頂面の置物が爆誕する予感しかしないが」
「誰が置物だって?」
 突如、瑠璃の背後から黒い手がゆらりと延び、捕らえた。
「ねえ……瑠璃?」
「!」
 息がかかるほどの距離で囁かれ、反射的に首を向ける。思わぬ近い距離に、青い目があった。
 いきなり後ろを取られた衝撃と、それを遥かに上回る混乱が瑠璃を襲う。
「瑠璃くん、こんばんは。約束通り来ましたよ?」
 瑠璃は硬直し、真珠姫の顔が真っ赤になった。カイの口がバカみたいに開く。手からマグカップがころりと落ちた。
 柔らかな金の髪に、物憂げで気怠げな眼差し。陶器のように白い肌。全体的に色素が薄いなか、赤いルージュがやけに映える。一同が、突如沸いた謎の娘が、たった今話題にしていた仏頂面だと気づくには若干の時間を要した。
「先に、待ってるって言ってくれただろう?」
「あ、あの」
 どこから取り出したものか、後ろ抱きのままレースのハンカチを使い、瑠璃の口元を拭ってやる。やけに大人びた所作ながら容姿は可憐な少女そのもので、妙にアンバランスな色気が漂っていた。
 一言で言って。
 ヤバイ。
 とっさに腕から逃れた拍子に、瑠璃はガタッと音を立て、椅子から落ちた。 
「ちょ、ちょっと、ちょっと待て! どど、どういうつもりだ!」
「どういうつもりって? 瑠璃から宿に誘ったくせに」
 尻もちをついた瑠璃に、逃すまいとすかさず少年が両手をついて動きを封じる。こんな風に迫られた経験のない瑠璃は、変な汗をだらだら垂らした。
「責任……取って、くれるよな?」
「セキニン?」
「だって、嫌がる俺を抵抗できなくさせて、あんなに強引に……あんなの初めてで……すごく、怖かったのに……
「バ、バカっ、誤解を招く言い方をするな!」
 真珠姫が瞬きも忘れて真っ赤になっている。傾けたままのマグカップから残りのミルクが流れ出ているが、全く気づいていない。
「ほら、真珠が見ているから! いやそういう意味じゃなくて、あのな」
「そういう意味じゃないってどういう意味? 俺にしたのは、遊びのつもりだったってこと?」
「い、いや、決してそういうわけでは」
「だったら……二人きりなら、いい?」
 瑠璃の耳にふっと息をふきかけながら髪をなで、核を優しく指でなぞる。絶妙な手つきでなでられて、瑠璃が声にならない悲鳴をあげた。
「なんだ、だらしがない」
 氷のような笑みを浮かべ勝ち誇った少年の足元で、核をかばい瑠璃がふるふると震えている。もう、お婿に行けない……。気のせいか、目尻に涙(石)のようなものが光っているように見える。
 い、いけないものを見てしまった……気がする……
 ドン引きしている真珠姫に妖しく頬笑みかけると、今度はカイへ歩みよる。
「あの……キミ、それで行く気で……?」
「そうだけど?」
 ひたひたと優雅な足取りで近づいてくる。ヒールを履いているはずなのに足音はない。
「カーミラから聞いた。娼館の館主は強欲で女好き。目に留まれば、客を差し置いて真っ先にお呼ばれするってさ」
 手っ取り早いだろ? にやりと笑う姿は夜に咲く花のように儚げなのに、瞳の暗い輝きは獲物を狙うそれだ。
 たまらずカイはその場から逃げ出してじりじり後ずさった。
「た、たぶん、それヤバイと思う! なんか、その、口憚られるような場所にソッコーお呼ばれしそうだし!」
「そういう場所に速やかに連れ込んでもらうために、この格好してるんだろ? 高級娼館ならともかく、珠魅の核を取引しているような裏の店だ。新入りだからって客も取らさず、悠長に下積みやらせてもらえると思うか?」
「声! 声は!」
「こんな声なら問題ないでしょう?」
「可愛い声止めて~! まじで頭混乱するから!」
「なんだ、お前。赤くなってんの?」
 全身汗だらけで耳まで赤くしながら、カイはいつの間にか壁際まで追いやられていた。顔が近い。ここまでくるともはや見た目が男とか女とか関係ない。
 ガッチガチに固まってしまったカイの顔に、すーっと手が伸びてきた。顎を捉えられそうになる。甘い麝香の香りにくらくらする。
「手だけはね、誤魔化しようがない」
 シオンは口に手袋の指をくわえて、するりと外した。ボー然としたカイの目の間で、素手になった手をひらひらさせる。日頃大剣を操る少年の手や指は、女性のそれとは程遠い歴戦の剣士のものだ。
「は……
 カイの腰がへなへなと砕けた。からかわれた。
 そう気づいた時には、シオンはもう目の前にはいなかった。 
「と、こんな感じだけど、どう?」
「及第点」
「厳しい」
「誘惑だけして、肝心の血や精気を吸わないんだもン。そんなに点数やれないよォ」
「俺は人間だって」
 シオンはいつの間にか、戸口に立っていたカーミラとのんきに会話している。
「いーい出来だろォ? カーミラのアタシもビックリだよ」
 心臓をバクバク鳴らしながらへたり込んだカイを見て、カーミラがニヤニヤとまさに魔性の笑みを浮かべていた。
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